第四十話「テレーゼの悲しみ」
さて。
昨日はクレファスと黄昏ていたわけだが、今日こそはミッション開始だ。
皆が寝静まった頃。僕はこっそりドアを開け、宿の外へ出ようとした。
その時。
「どちらに行かれるんです?」
とテレーゼが起き上がって僕に話しかけた。
とりあえず理由作りだ。
「眠れないんで少し黄昏るだけですよ」
この理由ならいいだろう。
「私も一緒に黄昏ていいですか?」
え、あ、ちょっ。
思わず変な声が漏れそうになった。
「おい。ナビ」
「想定外だけど急いでいないから別に構わないわよ」
ということで今日はテレーゼと黄昏ることになった。
僕にとっては嬉しいイベントだけど、また大事なミッションを先延ばしにしてしまったな。
まあナビは急いでないらしいからいいみたいだが。
「私、本当は辛いんです」
テレーゼは語り出した。
本当はあの惨劇を止めたかったこと。
でも司祭からこれは定めだと強く言われたこと。
その間の葛藤など。
昨日のクレファスの恋のお悩み相談とはスケールが違いすぎる。
この話はもっと真剣に聞かないとな。
「私、大事な人をたくさん失いました」
そう言うとテレーゼは泣き出してしまった。
「雅人……さん?」
僕は自然にテレーゼを抱きしめていた。
「ごめんなさい」
「なぜ謝るんですか?」
「僕のせいです。僕がもっと早く駆けつけていれば」
「いいんです。定めですから」
かける言葉が見つからない。
僕は彼女を強いと勘違いしていたのかもしれない。
彼女だって弱いのだ。
ただ、気持ちを打ち明ける相手がいなかっただけなのだ。
でも彼女は僕に心を開いてくれた。
初めて、辛いと言ってくれたのだ。
そんな彼女に言葉をかけてやりたい。
だけどかける言葉が思いつかない。
今は抱きしめることしか出来ない。
惨劇も止めることが出来ず、慰めることも出来ない。
僕はなんて無力なんだろう。
「ん?」
テレーゼが僕を抱き返してきた。
「今は……こうさせてください」
テレーゼは涙声でそう言った。
今はこうしていよう。
これで彼女の気持ちが少しでも晴れるのなら……。




