六話 ゼーマとコレット【前編】
主人公がまた変わります。すいません。
緊張で心臓が張り裂けそうになる。心臓の鼓動に合わせ、体が上下している様に感じる。自分の番号がないかと前の看板の数字を順に見て目を見張る。
「よっしゃぁぁあ!」
緊張が一気にほどけ、喜びが心の底から湧き上がる。念願の…念願のキャッスルに…!
俺、ゼーマは今この時からキャッスルの学生になったのだ。
まぁ受かるのは当然だな。全てにおいて完璧な俺なのだから!
そんなことを考えている俺の横を、例の奴が
足早に通り過ぎて行った。調子に乗るなよ!
彼奴は最初の試験の時から目立っていた。試験は四次試験まであった。一次試験は魔術、武術、崇術などについての筆記試験だ。ここでつまずく馬鹿共は国にはいらないということだ。これは冗談ではなくこの試験を挟むことにより、一時的な感情や個人的な復讐と言った行動を取る生徒を驚くほど減らすことができる。
この試験は術だけでなく、状況判断の問題もある。例えば、左に家族が、右にはこの戦いには大切な拠点となる砦がある。その両方が襲われていたらどちらを選ぶかだ。
この問題にはほとんどの受験者が迷わず右に行くと選択したのだが、実は引っ掛けの問題である。この時は左にいくのが正解であるのだ。疑問に思うかもしれないが、これが正しい選択だ。なぜならこの問題では、人間性に問題はないかを探っている。大切な砦なら他にも守る者が居るだろうと考え、素早く家族を守り砦へと避難させるのが最もいい解答だ。家族を残して来たという罪悪感などを感じながら砦を守るならば、その砦に守りたい家族を避難させ命をかけて守ってもらう方が、国にとっても気持ちがいいということだ。というか、家族を残してくる奴らはどんな神経をしているのかわかったもんじゃない!
この問題を正解した生徒を合格にしていると後で知らされて、驚いた。なぜなら、俺は砦を守ると解答したはずだからだ。知らぬが仏とはよく言った物だと思った。暫くして自分の解答用紙が返ってきて、番号を間違えていたことに気づいた。つまり、たまたま当たったのだ。マークシートでよかったと安堵した俺であった。先ほどの言葉は気にしないでほしい。
話を戻す。そいつはその大事な問題以外を全問正解してのけたのだ。これにはキャッスルの先生達も度肝を抜かれたそうだ。もちろん例の問題も正解でだ。キャッスルの歴史上最高得点を叩き出したのだ。これは実質不可能なのだそうだ。公開されていない学問や、知識があるからである。先生達もふざけて出していた問題もあるそうだ。因みに一応例の問題が正解したとしても、その他の知識が一定を超えていなければ不合格になる。
簡単にまとめると、人間性に問題はなく頭もいい者。そんな人材を求めているのだ。
その試験を全問正解でくぐり抜けた化け物。名前はコレットというそうだ。
二次試験は、体力測定。どんなに頭が良くても、戦場を駆け回れずに野垂れ死ぬ奴はいらないのだ。ここでは武術のセンスを確かめる試験と、考えてもらって大丈夫だと思う。
A地点からB地点へ、C地点へと移動しゴールへと辿り着く機動力を確かめる試験でもある。舞台は森林や泥沼、荒地や草原などが入り混じった場所である。
そこら中にトラップが仕掛けられており、一回引っかかるとスタート地点へ飛ばされ、二回引っかかると失格となる。このトラップには魔術をかけられていない物理的なトラップなため、見つけることは難しいのである。
一次試験でほとんど落ちたとはいえ受験者が減った様子はほとんどなかったのを覚えてる。
実は一次試験は一カ所で行ったわけではなく、多くの場所で行われていたのだ。だから、一次試験はペーパーテストなのだが、今のゼーマは知る由もないのだった。
それに対して二次試験は一箇所にて行われる。理由は、教師の目によって正確に判断するためである。そのため数が減ったにも関わらず、その場にいる人数は増えたと言った方が正しかった。
この二次試験も簡単にまとめると、素早い状況判断、高い身体能力、機動力、体力、トラップを見切る目と予想、そして武術のセンスなどが求められるのである。
ここでも辿り着いた選りすぐりの化け物達の中でも群を抜いている者がいた。
そいつの名前もやはりコレットであった。同一人物だ。
どの様な手を使ったのかは不明だが、武術を使わずに、トラップに引っかかることなくゴールに辿り着いた。やはり、過去の記録を塗り替えたそうだ。目撃した教師はほとんどいなく、ゴールしたことだけ確認された。
魔術は使わない様に魔物質を生成することを禁止している。目撃されたら即失格である。
その為、魔術を使ったのではという噂も流れている。
使ったとしてどうやって辿り着いたんだよ!そもそもノーミスとかありえねぇし!
コレットの体にはトラップを受けた痕跡がなかった為ノーミスと判断された様だ。
そもそもゴール時間が、直線距離をトラップ無しで走って二時間ジャストだそうだ。てか、長くね?この上トラップに注意し、8時間以内にゴールしなければならない。まあいいや。コレットはその二時間ジャストにゴールしたのである。ミスをしたら振り出しに戻るし、もれなく怪我も付いてくる為間に合わないのだ。
コレットはこれだけでは止まらなかった。
三次試験もやってくれた。
ここまで来ると、なにやらイベントの様になってきていた。
『今回はどんなことをしてくれますかね?』
『ワクワクしますね!今度は見逃さないぞ!』
などと受験者や教師までもが喋っていた。
正直俺は呆れるしかなかった。
三次試験は魔術の技能を確かめる為に、魔物という名の強化された生き物との戦闘である。目の前の生物を殲滅することだけを生きがいとした殺戮生物兵器の劣化版である。非常に危険である。下手したらあの世行きである。
俺はこいつに対して体の周りを魔術により魔物質で覆い、魔物に丸呑みにされた後中から魔術により爆散させた。なんとか生きて地面の上に立つことができた。
しかし、俺の頭と魔術をフル活躍させて考えた戦闘がくすんで見えるほど、コレットの戦闘は激しかった。
やはりやってくれた。コレットはまた、魔術を使わずに魔物を倒して見せたのだ。向き合った直後に襲ってきた魔物の猛攻を全て避け、後ろに回り込み頭をもぎ取ったのだそうだ。
『これじゃあ勝てねぇなー、って思った時によ!いつの間にやら後ろに回り込んで頭を右手で鷲掴みしてたわけよ!』
大興奮で観戦していた一般人が話していた。
おかしいと思った方に説明すると、やはりこれだけ大きな受験となると、資金が足りなくなる。それを補う為に二次試験から5シルバーで観戦可能である。
そして今回は恐ろしく儲かっているはずだ。
そして四次試験。最終試験である。
この試験はこれまでの実績によりチームを幾つか作り、戦ってもらうというものである。チームワークがなければ意味が無いという意味も込め、チームには役割分担があった。
全部で三つ。補助と前衛と後衛である。この役割分担により、俺は驚くべき事実知ることとなり、コレットへの憎悪が生まれたのであった。
主人公が変わったと言っていますが、視点を変えているだけです。
コロコロと主人公が変わって読みにくかったと思います。ここから、ゼーマの話がしばらく続きますので、読むのが少し楽になるかと。そして、クレイの話はもう少し後になると思います。
更新は一週間に一度はには行うつもりです。誤字脱字の指摘や、感想を下さるとありがたいです。