二十八話 腕
目を開くと澄んだ青空はなく、灰色の雲が辺り一面を覆っていた。
先程とは打って変わって辺りは静まり返っていた。
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今俺は、武術をフルに使い逃げ回っている。くそ、俺のミスで…。俺は盛大に音をだしながら且つ、魔術で砂埃を巻き上げている。
「こっちだクソトカゲェ!」
兎に角全力でドラゴンの注意を引く。
数刻後
ドラゴンがこちらを見つめている。マクはこれでも、一流の崇術師だ。指示通りに視覚に集中して妨害してくれてるはずだ。流石のドラゴンも、これでは俺たちが何処にいるかわかるまい。
「おお、おい。ドラゴンこっち見てるぞ?」
マクが怯えた声を出した。
「いや、こっちは見え…しまった!!」
ドラゴンの目の色が変わった時、やっちまったと気づいた。
「どうした?しまったってなんだよ?おい!」
俺は素早くしゃがみ地面に手をつける。
「砂壁!」
俺たちとドラゴンの前に砂の壁がでk
「危ない!」
へたり込んでいたクバの一声。直後にクバに突き飛ばされる。同時に地面につけていた手が離れた為、砂壁は崩れる。
「なんのつもりだ!」
ドラゴンの攻撃をもろに受けたらひとたまりもないのに!
俺はクバのせいで死ぬのではと、クバを睨みつける。
ボトッ。生々しい音とともに俺の目の前に腕が落ちてきた。…まじか。
「うぐぁぁぁあ!」
頭の中が真っ白になる。こんな時は状況整理に限る。頭が真っ白になった時や、困った時はいつもそうだ。まず、だ。マクの結界により視覚を。つまりドラゴンが目で、俺たちを捉えられなくした。この次が問題だ。ドラゴンは暴れずにじっと俺たちのいた場所。俺たちが身を潜めている場所を凝視していた。見えないし、気配も感じ取れないので、確認できない。しかし、そこにいたとわかっていたのだろう。ここで、俺たちは『声』を出してしまった。そう、視覚は妨害したが、聴覚は妨害してなかった。
この失敗に俺は気づいた。しかし、次の行動の失敗に気付けなかった。これが腕を失う原因になったのだろう。いや、命を失う事になったのかもしれない。
俺のした失敗は、俺の砂壁よりも堅いはずの鎧を貫通したドラゴンの攻撃を思い出せなかったことだ。
つまり、こんな壁など貫くことは造作もないということだ。その上、声でしか確認できず姿は見られていなかったのだ。運が良ければ近づきはすれども攻撃はしなかったかもしれない。救援を待つ為の時間稼ぎができたかもしれないのだ。
しかし、砂壁を必要最低限の場所に発生させたことにより、より正確な場所を教えるきっかけになってしまったのだ。
俺は腕を両手で拾い上げる。なんとかくっつかないものか。そう思い右手か左手かを確認した時、それが自分の物ではないことに気づいた。
クバの右腕。俺を突き飛ばしたはいいが俺のいた場所に残った自分の右手はどうしようもなかったようだ。
クバの腕の怪我により、俺たち全員が命の危険を意識した。これまで、怪我はしても死ぬことはないだろうと思っていたわけではない。しかし、この時はっきりと現実を突きつけられた。そんな甘くはないのだ。
「ど、どいて!」
またもや俺は突き飛ばされた。手に持っていたクバの腕を強引にひったくられる。
はっとして再びあたりを見る。ドラゴンは?ドラゴンはどこに?
…いないぞ?どうして?と思いみんなの方へ視線を送り、自分のしたことを改めて目の当たりにする。
顔を歪めるクバ。痛い。苦しい。はずなのに。彼は左手をしっかりと地面へ着け、妨害している。こんな状況下に置かれているにもかかわらず、自分よりもみんなのことを…。クバがしゃがみこんでいる左には寄り添うようにヒメコとマクがいた。手際よく何かをしている。
「…くっ。…はぁ、はぁ。おい、なにぼっ立ってんだよ。僕が助けてやったってのに。」
「喋らないで!」
鋭くヒメコが忠告する。
「わ、悪かった…。俺、本当に…」
俯きながら自分のミスを反省し、謝ろうとした時、
「お前の柄じゃねえこと言ってんじゃねぇよ!」
「クバ!」
きっと睨むヒメコを抑えるようにマクが手をヒメコの肩に乗せる。
「ヒメコ。少し話させてあげよ。」
「うっ…。わかったよ。…できるだけ静かに、ね?」
マクがヒメコと作業に戻る。どうやら二人でクバの右腕を戻すつもりのようだ。
「珍しく僕に謝ってきたね。人の大事な本を破った時は、知らん顔して俺はやってねえしか言わなかったのに。」
クバは静かに皮肉を口にする。
「俺…どうすれば…。」
「気にすることはないよ。僕が勝手にやったことだ。それに、お前は僕たちを守ろうとしてやったんだ。君がやらなかったとしても誰かがやっていたかもしれない。」
急に後ろから叫び声が聞こえてくる。振り返るとガシュとマテルが二人で逃げ回っている。今にもやられてしまいそうなぐらい紙一重で避けている。
「妨害は今、僕がやってる。質は格段に落ちるが視覚と聴覚のだ。今から戦闘に巻き込まれないよう少し移動する。君には僕たちにはない力がある。ドラゴンを…敵を頼んだ。」
そう言うなり、立ち上がる。
「ちょ!きいてないんですけど?」
まあいいじゃん、とマク。
俺らしくない、か。
「まかせとけ。…おい!ガシュ、マテル!ジャミングしながら逃げろ!後は俺に任せとけ!」
そう叫ぶと待ってましたとばかりに二人が撤退する。あいつら…フフ。持つべきは良き友だな。邪魔をしないように俺の元へ来るなり、
「最悪逃げろよ!」
「俺たちに任せとけばよかったものを」
と、ガシュとマテルが一言ずつ残し去っていく。
「馬鹿言え。」
俺の攻撃は広範囲を巻きこむため、仲間がいるとやりにくい。それを知って二人とも引いてくれた。さて、やるかな?
相手はこちらをギロリと睨んでくる。怖くて足が震えだし、身体中の筋肉が緊張するのがわかる。本能が警報を鳴らしている。一瞬、クバのもぎ取られた右腕が頭をよぎる。
だ、だめだ!ここで引くわけにはいかない。クバの敵を取るために来たのだ。時間稼ぎさえすれば、きっと大丈夫だ。
深呼吸。状況判断。ドラゴンは魔素探知を無効化し、魔術による攻撃も効いていないようだった。これは魔素による干渉ができない可能性が高い。となると、やはり武術で戦うのがいいだろう。先ほどまで辺り一面を覆っていた水蒸気と金属はいつと間にやらなくなっている。まずは魔術で再び視界を悪くする。
そう思い右手を前に突き出し、腰を低くする。そして…。
何者かが前かがみになりながら、足を動かさず不自然に地面を滑りドラゴンへと向かっていく。そして、ドラゴンの横っ腹を強打する。ドラゴンが左へと飛ばされる。あのドラゴンが、いとも簡単に、一撃で。校門が積み木のように崩れる。
そして校舎からもう一人歩いてくる。そして…
「あれ?先公死んでんじゃんか。」
「うそ!?だから急ごうって言ったのに!」
のんびりとした会話が聞こえてきた。
俺は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
3年間別のお話を作るのと、仕事に追われて何もできなかったです…。すっかり忘れていたこの作品ですが、3年前に何話か書きだめしていたので、それだけ投稿しようと思います。今見ると読みにくいですし、需要はないですね笑




