二十六話 金属球
だいぶ遅れました。
〈魔素探知はできるか?〉
知らないよ。今までやりたくても使えなかったし。
〈うーん…。〉
マリッジが苦々しそうな声を出す。兜の中で響き、他の人には聞こえない不思議な声だ。
マリッジについては分からないことが多い。例えば、何故兜なのに意思があるのか。どんな本を読んでもそんな記述は無かったし、意思を作ろうとしても不可能である。
〈どんな原理かは?〉
そんなこと、こっちが聞きたい。
〈何?〉
…ごめん、違うこと考えてた。
魔素探知でしょ?原理は分かる。空気中の魔素の位置を把握する能力でしょ?クバがやっていたのはおそらくこれだ。因みにこれは、魔術の基礎である。これがうまくできなければ、魔術もさっぱりなのだそうだ。
〈その通りだ。正確に言うと、人間の皮膚にある触覚を使い魔素の出すエネルギーを捉え場所を把握することだ。つまりだ。魔素を操れなかろうが使えなかろうが、こればかりは出来て当たり前なんだよ!〉
正確に言えばそうなる…って、ええ!!僕でも魔素探知はできたの!?
〈そのはずだ。お前の正t…何でもない。とにかくお前が使えない原因は大体分かった。〉
使えないって、僕じゃなくて術の方だよね?
〈当たり前…でもないか?実際お前使えないし。〉
ひ、酷くない?
「逃げてないで出てこいよ、何処に居やがる?」
くぐもった怒鳴り声が聞こえる。ゼーマだ。兎に角、こんなことしてる場合じゃないな。
〈ゼーマの野郎、手当たり次第に金属球を破壊し始めた。勘の鋭いやつだな。さっきまでのように地面の中を探してりゃよかったのによ。〉
やばくね?どうすんの?
今、僕達はゼーマと同じ魔術、『金』で金属球を作りその中で身を潜めている。いわば、卵の中のヒヨコ状態だ。ただ隠れているだけではばれてしまうので、『土』の魔術を金属球の中から使用し、地中から攻撃しているように見せかけていたのだ。因みにやっているのは勿論マリッジだ。僕は地面の魔法陣に両手を置いているだけだ。そこでマリッジは手の空いている僕に、手伝わせようと魔素探知、をということだ。僕がゼーマの位置を把握したからと言って、マリッジにはわからないのでは?という疑問が浮かんだのだが、今の僕とマリッジの関係は、言わば一つの体に脳が二つある状態なのだそうだ。つまり、どちらかが何かをすれば分かるということだ。だから僕の心の中を覗けたのだ。
「いくら地中を攻撃しても攻撃が止まねえ。だったら地中じゃねえところに隠れていると考えて、正解だよな?早く出てこないと死んじまうぞ?」
ゼーマは高らかにそう宣言し、次々と金属球を破壊しているようだ。こんな硬い金属球をどうやって壊してるんだよ!
〈案はあると言っただろ?何か言うことは?〉
はぁ。そろそろ教えていただけませんか、師匠?
〈イヤーソコマデイウナラ…。〉
何で片言なの。こいつはこれがなければ最高なのにな。そんなやりとりの最中だった。
突如ズゴン!という爆音が鳴り、僕達の入っていた金属球が浮いた。
……。
〈ふざけてる場合じゃないな。〉
本当だよ!
〈いや、そういう意味じゃない。こいつは…なんだ?化け…も……の?〉
マリッジが少し焦りだした。マリッジが焦った時は大体まずいことが起こる前兆。そこまで強いのか?今の一撃、さっきまでとは桁違いの、食らったらあの世行きのやつだよね。よし、勝てそうにない、降参しよう。
僕はマリッジに有無を言わさずに、金属球から出ようと前方に手を伸ばす。当然反対されるだろうが、反対されても降参するつもりだ。ゼーマの一撃は先生が止めに入る前に死んでしまうのだから。悪いなマリッジ。
しかし、僕はすぐには降参できなかった。何故ならマリッジが思いの外必死で止めてきたからだ。
〈ばか、やめろ!今外に出るな!〉
やなこった。僕はマリッジを無視し、外に出ようと動く。そして、僕の指が金属球の内側に触れる。金属球の内側は粘土のように柔らかく、指に従って裂けていk
想像を絶する頭痛と、爆音が僕の意識を吹き飛ばしかけた。おそらく、気絶しなかったのはマリッジのおかげだろう。
〈おい!無事か?〉
う、うん。無事だよ…多分。
〈今の音は驚いたな?〉
凄かったね、頭痛までしたもん。どちらかというと、音よりも頭痛の方で気絶しかけた。音が大きかったから頭痛がしたのか?しかし別物のような気がする。
〈お、おう…。〉
…なんだ?ん?いや、まてよ?この頭痛、前にも…あ、そうだ!この頭痛は指導している時に味わった…つまり、頭痛はお前のせいだな?
〈……。そ、その隙間からゆっくり外を覗いてみろ。〉
くぅ!話をそらしやがって、後で覚えてろ!
僕は仰向けに倒れた体を持ち上げ、さっき広げかけた穴をまじまじと見る。
外には…!!
僕は呆気にとられた。外で暴れていたのはゼーマではなく、虹色に輝く化け物であった。
くー!どこにいやがる!
俺はやっとの事で、クラスメイトに俺がコレットよりも強者である事を示す機会を得たのだ。これを逃すわけにはいかない。俺は必死でコレットの川のように流れてくる魔術を避け続ける。
なんちゅー集中力をしてやがる?かれこれ1分、絶えることなく攻撃が続く。普通はこれ程の量と威力を操作するだけでも困難だ。いや、不可能だろう。それをいとも簡単にこなすこいつに、俺は勝てるのか?
…もし、もし俺が、一分間絶えずに魔術を使える奴がいると他人から話されたら、そいつの事を相手にしなかっただろう。そんなことできるやつは存在しないだろう。体力、集中力、使い続けなければいくらでもできるかもしれないが、続けてとなると不可能だろう。目の前のコレットを除いて。俺がどう思おうと、目の前では実際に起きている。
そんなことより、なぜ見つからない?さっきからこちらも休むことなく地面への攻撃を行っているが全く反応がない。
もしや、そこまであいつと俺には差があるのか?…いや、違う!そんな事は、考えるだけ無駄だ。無駄に…決まってる。きっと何かトリックが…そうだ、そうに決まってる。少なくとも俺もこの一分間攻撃を続けている上、コレットの攻撃を避け続けられている。コレット、お前がどれだけ強くても、俺はお前を潰してやる。
あいつはどうやって姿を隠してるんだ?魔術が使える範囲の場所は全て攻撃した。金属球で攻撃した時の振動で、確認していたが全く反応がなかった。
もう一つの探索方法として、隠れて魔術を使うとき、人は無意識に自分のいる場所から遠ざかるように攻撃してしまう。自分の方に寄せるように攻撃すれば、避けた敵に見つかる可能性や、最悪、避けられて自分に直撃ということもあるのだ。しかし、こいつは…ありえない。驚くほどいろいろなところから攻撃してくる。少しでも攻撃に偏りがあればいいのだが、それすら予測していたように均等に攻撃してくる。
探索はだめだ。考えろ!どこに隠れてる?…俺があいつを見失ったのは?その時何があって見失ったんだ?
俺は未だに攻撃を避けつつ走り回っている。因みに、攻撃が始まった時から宙に浮くのはやめた。浮くのは便利だが、移動が遅くなる。見失ったのはいつだ?思い出せ!
…確か、あいつが動きを止めた時にここぞとばかりに金属球を落とした時じゃないか?
そういえばあの時、やけに砂埃が……!
そうか!金属球に穴を開けやがったな?それで地中を探しても見つからねえわけだ!それを裏付けるかのように、金属球は傷ひとつ付かずに微動だにしない。普通なら金属球を飛ばすという選択もあるはずなのにだ。
俺はトリックがわかったところで、再び探知妨害を行う。
探知妨害とは、魔素を貯めている、言わば魔素の塊である人を探す時や、魔素の固めて攻撃する魔術を探知しにくくすることだ。簡単に言えば、自分の周辺に魔素をばらまくことだ。こうすることで、ばら撒いた魔素が邪魔して魔素探知がぐっと難しくなるのだ。探知妨害で魔素を多く消費する馬鹿ほとんどだが、これは魔素をそんなにばら撒かなくても効果を発揮する。ばら撒いた魔素は魔素探知の邪魔をするだけで他に害はない。しかし、これを行うと同時に自分も魔素探知が難しくなる。どちらかというと敵よりも自分の方が魔素探知がしずらくなる。主に逃げるための最終手段として使うのだが…。今は攻撃が一方的な上、自分は金属球を壊すだけなので、目を使えばいい。おっと、少し無駄話が過ぎたな。
兎に角、殴って壊していけばいずれ正解にたどり着くだろう。しかし、少々面倒だな…。少し煽るか。
「いくら地中を攻撃しても攻撃が止まねえ。だったら地中じゃねえところに隠れていると考えて、正解だよな?早く出てこないと死んじまうぞ?」
これで出てくれば楽なんだが…。出てくるわけないか。俺はコレットの魔術をかわしつつ、金属球を殴り始めた。素手で殴るほど馬鹿ではないので、魔術『金』を使いハンマーを造る。これで簡単に破壊ができるぞ?というか、探知妨害したのになんで攻撃が続いてんだ?
2、3個破壊した時だった。俺の遠距離魔素探知に反応があった。いや、魔素探知を無効化された反応があった。普通は無効化されたら反応などしないのだが、無効化されたらその位置を把握できるように改造したのだ。そんなことはできないだろうと思いつつ、作っておいたものが役にたったらしい。しかし、相手の力がどのくらいか分からない上、反応は空中だ。一瞬そんなことを考えた直後、俺の近くの地面がえぐれた。嘘だろ……次元が…違いすぎ……。
俺はただただ、目の前に一瞬で飛んできた輝く…何かを呆然と見つめるしかなかった。
受験シーズン真っ只中ですね。忙しくなってきました。受験生ではないのですが。
受験ファイトです。




