二十五話 戦闘
僕とゼーマは10メートル離れて向かい合っている。
〈ウヒョー。楽しみだな!〉
なんでそんなに浮き浮きしてんのさ!マリッジには怖いという概念はないのか?
「ここから先は私独自のやり方でやらせてもらう。通常このまま始めるが、その前に両者は腹這いになれ。」
言われるがままに腹這いになる。ゼーマとは一度も視線をそらさなかった。
「腹這いになったな?手を頭の後ろで組み、相手の顔を…見てるな。この体勢から、始めてもらう。この状態は非常に自分にとって不利な体勢であり、相手にとっては有利な体勢となる。この状態から、始めてもらうぞ?勝負は一度。相手の鎧を破壊するか、鎧以外を傷つけるかだ。ルールは、私がやめと言ったら止めること。それ以外はなんでもやってよし!準備はいいか?私が今から花火をあげる。音が鳴ったらスタートだ。なお、なってないのに動いたり、ルールを破ったら、後で恐ろしい罰を与えるから、よーく覚えておくように!」
最後に先生が不気味に微笑んで締めくくる。
〈準備はいいか?始まったら両手で一つずつ魔法陣を描け。同時展開させ相手を翻弄する。〉
魔法陣は何がいいかな?あと、二つとも一緒か違うのを描くか。
〈うーむ…。お前だったらどうする?〉
先生が花火を上げた。いつかのクバの魔術を思い出すな。
僕だったら合成魔法陣を大きく書く!
〈あっはっはっ!そいつはいいや!それで決定だ!中身は火と水だ!水蒸気爆発を引き起こし、視界を悪くさせるかつ、ゼーマを軽く吹き飛ばす。その後はその時に考える、いいな?〉
了解!
先生の上げた花火が、小さく音を立てた。
俺は始まる前からこっそりと崇術のバリアを張りやすくするように魔素を集めていた。そうすれば、開始直後に一瞬にして俺の周りにバリアを張れる。より強力にする為、魔術に強い特性に改良を加えたものだ。
これで立ち上がるまでの時間を稼ぎ、走りながら、コレットを削っていく。俺の得意な武術で筋力を増加させて走り回るのだ。追い着ける者がこの城に教師を含めて何人いるだろうか?いや、1人もいないだろうな。
パァン。
俺は予定通りバリアを張り、立ち上がろうとした時だった。あいつがものすごい速さで地面に何かを…ってもう発動やがった!前に先生を倒した魔法陣か!一瞬動きを止めてしまった、まずいぞ!
直後に白い煙のようなものが恐ろしい速さで迫ってきて、バリアを無視して俺を吹き飛ばす。いや、バリアごと俺を吹き飛ばしたのか!せっかく魔術に強くしたのにそれが仇になった。その上、立ち上がったのに仰向けに倒れてしまった。バリアを張っていたため、痛くはなかったものの、これで相手にチャンスを与えてしまった。
てか、威力強すぎだろ!
あまり使いたくなかったが、やはり使うしかないようだな。本日初公開となる秘術!俺は全神経を集中する。
〈よし、吹き飛ばしなたな、ざまあみやがれ!〉
おい!こんなに威力あるなんて聞いてないぞ?ゼーマが無事か心配になる僕を尻目に、楽しそうに話すマリッジ。
〈大丈夫だっての。あいつもあいつで直前に崇術でバリアを張ってたし、あんだけじゃ無傷だ…よ?〉
何?どうかした?兜越しだと視界が少し悪い上、あたりには水蒸気が漂っている。そのため前方はほとんど見えない。しかし、マリッジには何か見えたようだ。 おーい、どうしたんだよ?
〈走れ!どこでもいい!この場から離れろ!〉
マリッジの焦った声に驚き、反射的に体が反応する。左へ走り出した直後、立っていた場所にズシンと何かが降ってきた。これは…?
〈金属球だ!奇妙な術を持ってやがるな…こいつは手強いぞ?〉
どういうことだ?
〈取り敢えず走り続けろ。俺でもあの術は初見だってことだ。〉
え?お前、前にどんな術でも見たことあるって言ってなかったか?それに今のはただの魔術の《金》をつかって、金属を生み出したに過ぎないだろうが?
〈ん?あぁ、そうだ、その通りだ。…ここで土の魔法陣を!〉
なんなんだよ?もう少し驚くような、例えば、これはただの金属球じゃねぇ!みたいな返事を期待してたのに。
ここら辺に描けばいい?僕はまた流れるように魔法陣を描く。土が盛り上がり、僕に向かって飛んできた金属球の軌道をそらす。
もしその金属球が目の前にズシンと落ちなかったら、マリッジのことを褒めていたと思う。
〈俺はそっちじゃなくて、あいつ本人が自身に掛けている術を見たことがないと言ったんだよ。〉
なんだと?でも水蒸気が邪魔で全然見えないじゃないか?マリッジにも見えるわけないだろうに。
金属球は一定の間隔で降ってくる。
僕の物分かりの悪さに半分呆れて、マリッジはため息をつく。
〈はぁ〜。お前はどこから金属球が、飛んできたかわかるか?〉
それは上から降ってきている。それがどうした?質問の意図がわからない。
〈あのなぁ。上から降ってきてるってことは、金属球を作っているやつはどこにいるんだ?〉
っ!!嘘だろ?空を飛ぶ術は理論上不可能であり、飛べるのは羽を持つ生物のみ。因みに発見されているのはグリフォン、ハーピー、そしてドラゴンである。この三種族以外では空を飛べる種族は動物以外確認されていない。だが空を飛んでいる。僕は目の前の光景が今後の人類の術を発展させていく鍵を握っていることを瞬時に悟る。なぜ空を飛ぶ事は無理だったのか?それは無理だと理論で証明されていたからだ。それに、誰もが挑戦したが飛べなかったし、飛んだとしてもとくに得することはなかったし場合によっては損するからだ。
しかし、そんな歴史が無かったかのようにゼーマは宙に浮いていた。まだ水蒸気が残っているので、先生や他の生徒は気づいてないようだ。
〈ヒュー。あいつは大物になるぞ?〉
全くだな。一般の人とは何か違う感じがする。
〈お前が言えた口か?〉
どういうことだ?
〈いや、なんでもねぇ。それよりもだ、あいつの攻撃の対策を考えねぇと。〉
まぁ、僕も非常識な努力家だからね…。なんか自分で言っておいて恥ずかしくなってきたな…。
そうだ、対策を考えなきゃ!
空に浮く敵には最も有効なのは…たしか、武術による掌握だったな。相手の集中をかき乱しやすい。
〈没だ。〉
早っ!没にするの早くない?理由は?他にいい案があるの?
〈質問多すぎ。理由は、相手は羽根で飛んでいるん訳ではない、からだ。しかもまだまだゼーマの秘術の真相が分からないからな。迂闊に手を出して返り討ちなんてごめんだ。それともっと情報が欲しいな。そうすればなんとかなる。初めて見るしな。俺も初見、だからな。〉
そこまで強調しなくても…悪かったよ。情報か。何を知りたいの?
〈制限があるかだ。どのくらい浮いていられるのか、移動可能なのか、原理は何か、術はなにか、自分しか浮けないのか、そういった類の情報全部だ。〉
それぐらい奴の使っている術が危険ってこと?
〈まあ、同時に俺たちのものにできれば非常に便利な術になるとも言えるがな。兎に角この術をなんとかしないと、少なくともこの敵は倒せないだろう。〉
敵、か。分かった、指示をよろしく。
僕達は息を合わせてゼーマと戦う。これが原因か、はたまた偶然か。
この後僕が、本当にゼーマと敵になること。全人類の敵になること。そんなこと予想だにしていなかった。




