二十三話 周りの評価
「これが生徒の仕業、だと?」
下からの報告で驚かされたのは、今回が初めてだ。
「はい、特進クラスのものです。」
特進クラス、ねぇ…。確か……今…回は……?後ろに立つ、一緒に話を聞いていた秘書の方を見る。
「今回ですね?今回は100点越えがちょうど7人だったじゃないですか?」
「んー?」
えっと?100点越えが出た時点で異常なのはわかるが…。必死で思い出そうとする私に、助言をする秘書。因みにこの秘書は新人ながら、高い能力を持っていたので即雇ったのだ。旅人であるが、教員の資格も持っている。その秘書が、困った顔で口を開く。
「7人丁度いたのか、縁起がいい。そうおっしゃって、お酒を飲んでいたではありませんか?」
あーそうだったっけなー。黒い髪をいじりながらフォークを片手に伸びをする。
「思い出したよ。あの中でこんなことできるのは…?あの、目つきの悪い子。誰だっけ?」
「目つきの悪い子と言われましても…。」
戸惑う秘書をぼーっと眺めた後、背もたれにもたれかかっていた体を、前かがみにする。
「他に特徴はあったかな?…あ、そうだそうだ。合格発表の時に大声で叫んでた子だ。」
「その子ならわかります。名前はゼーマ君ですね。入学してからもぐんぐんと成績が伸びる一方で、性格はちっとも変わらないと評判です。」
「そう、そいつだ。だからと言って、どうということもないがな。」
秘書が前もって調べておいた事を話せたので気分が良くなったが、返ってきた言葉が余りにも素っ気なかった為、少ししょんぼりする。いつか、この方に認められたらいいな…。
「そいつは能力があるのだから、何一つ不自然なことはないだろ?教師の不注意でこうなった事を、いちいち報告する必要もないだろうに?無駄な時間は過ごしたくないんだ。もっと考えてから報告に来い。わかったか?」
グダグダと背もたれにまたもたれ直す。
「お時間を割いていただいたのに、無駄なお話をしてしまい申し訳ありません。しかし、校長。もし、その生徒がゼーマ君ではなかったら…」
そこまで言うと、肉を運んでいたフォークが止まる。そして、校長、ワタナベの細い目が徐々に大きくなり、ゆったりと再び前かがみになる。
「そういうことは、早く言え。」
「以後、気をつけ…」
いちいち面倒くせぇな!
「もう、敬語はいいから報告を整理しろ。」
早く話してほしい気持ちとは逆に、ゆっくりと穏やかに話すワタナベ。どんなに焦っていても、どんなに急いでいても決して悟られないようにマイペースな態度でいること。それが彼の中での決まりだった。しかし、彼の知らないところでは、彼の心情を知る術としては決して表情や口調を頼ってはならない。彼の食べている物の減り具合を頼れ。という教えが代代伝わっている。実際、先ほどよりも肉の減りが早い。
「承知いた…わかりました。」
まだ敬語じゃねぇか。
「続けろ。」
俺は肉の皿を脇にずらし、机の上に置かれた穴の空いた鎧に、再び目を向ける。教師側での目撃者は、火傷を負い未だ寝込んでいる教師を除いてはゼロである。
「生徒の方には?」
「いますが、信じられません。」
「何故だ?いや待て、先に犯人を教えろ。」
話の骨を折られたのが嫌だったのか、少しためらいを見せた…。はぁ。ためらいを見せた教師は、簡潔に話す。
「実技成績赤点独走の問題児コレットです。」
「!!!」
その名前が出た瞬間、秘書が驚愕していた。今にも、嘘でしょ?と言いそうな雰囲気だ。俺の視線には、気づかない。しょうがないな。
「どういうことだ?」
「…え?あ、すいません!取り乱してしまいました!」
驚きを隠せずに口をぽかんと開けていた秘書が、頭を下げてきた。
「もういいから、何で驚いたの?」
「はい、私達教師の中では、その子は術が使えないのではないか、という噂と証拠が出ていたので、これ程の術を使えた事に驚きました。付け加えますと、その子は力を隠す理由があるのではという意見も出ていました。その為、彼の害となる行動を取るものを咎めずに放置していました。まさかこんなことになるとは…。賭けに負けてしまいま…は!なんでもありません!」
秘書にとっては予想外のことだったようだ。
「実技のテストでさえも一切術を使わなかった彼が、どうして今になってこれほどの威力の魔術を、この授業で使ったのかが気になるな。わかっていることは他にあるか?」
教師はあります、と答えた後、少し貯めてから話し始めた。
俺、ゼーマは今、ある壁にぶつかっている。コレットという醜い壁だ。あの野郎、どうしてあんな凄い魔術を今まで使わなかったんだ?使えなかったのだが、たまたま今回だけ発動したのか?元々使えたが、なんらかの事情で隠していたのか?それともそれ以外か?
俺は思考を重ねる。魔術で火の玉を作るぐらいなら誰でもできる。簡単だ。馬鹿でもできる。そう、馬鹿にもできるほど、初級の魔術だ。コレットが放ったのも、確かに火の玉だった。しかし、一瞬だけこの目に捉えることができたあの火の玉は、いや、一瞬しか目にすることのできなかった火の玉は、火の玉にしては異常すぎた。考えすぎか?だが、あの速度といい、威力といい、火の玉で再現できるようなものではなかった。つまり、発動した魔術の格ではなく、魔術を操るものの格が違うということだ。単純な魔術だからこそ、その差は一目瞭然だった。
もうあれから何日も経っている。先生を一撃でやったのを見た俺以外は、全員コレットに一目を置いている。正直な話、皆怖いのだ。段々とコレットへの軽蔑感が消えつつあるのは確かだ。しかし、俺は違う。
コレット事件を引き起こした授業は、毎年1番人気の授業だそうだ。理由は、実戦が入るからだ。そして昨日の授業でやっと基礎訓練は終わりを迎えた。今日は実戦の日。
嫌いな奴とペアを組むケースがほとんどらしい。中には死にかけるものもいるそうだ。ひどい話だ。いくら嫌いでもそこまですることは無いし、仲のいいやつと組めばいいのに。ま、当然、俺は大の仲良しのコレットと組むつもりだけどな。
もう手筈は整っている。今に見ていろよ、コレット。調子に乗りやがって、悪夢を見せてやる!




