二十二話 能有り
朝の登校。今日は兜を使うため、できれば汚したくない。だから、いつもより1時間早く出た。案の定、奴らに出くわすこともなく、遅刻は免れた。いつもそうすればいいじゃないか。そう思うかもしれないが、そうするとあらかじめトラップを用意されたりしたので、何かある時だけにしている。つまり、毎回遅刻覚悟のなか走っているわけだが…。気にしてはいけない。実際兜を汚さずに済んだ。
朝の授業も当然叱られ、また面倒くさい学校生活が始まる。違うことといえば、今日から初の防具を使う授業になった事。初めての分野の授業は必ず全員参加なのだ。基本も知らない生徒が淘汰されるのはおかしい。その為、僕も何も言われずに授業を受けられるのだ。周りの奴らは、今回だけの辛抱だ。とか、早く退学になれ、だとか言っていたが、無視だ。気にしてはいけない。
因みに、他の授業で全員参加なのは、ペーパーテストと、実技テストだけである。つまりそれ以外では、いつも何かしらの罰を受けていることになるな。自分でも驚きである。
授業が始まる。
「全員いるな?どの部位でもいいが、防具も持ってきてるだろうな?」
なに?確か、黒板には防具は教室に置くと書いてあったが…?その時、僕以外がおもむろに隠していた防具を取り出すのが見えた。そうか、騙されたのか。
「持ってないやつは当然できないぞ?」
先生は僕を睨みながら、おい?防具は?と聞いてきた。
「…教室に置いてきてしまいました。」
まさかこの授業まで潰されるとは思わなかったな…。油断大敵とはよく言ったものだな。
「校庭を走ってこい。100周だ。誤魔化してみろ?倍にしてやる!大きくはしrギャ!」
俯いていた僕の足元に兜が転がってきた。
兜がなんでここに?どうやら先生の頭に飛んできたようだ。先生は訳が分からず、キョロキョロしている。そして、思いもよらない言葉を発した。
「よーし、全員持ってるな?今回は、この防具を装備してもらう。相手に防具を壊された時、自分に武器がなくなった時の対処法を教える。簡単に言うと、壊れていない部分で、相手の攻撃を受け止めるというものだ。つまり、今日持ってきた防具が、お前達の体を守る唯一の…ん?なぜ立っている?座りなさい?」
「は、はい?」
僕はてっきり叱られるかと思ったが、先生は何事もなかったように話している。周りの奴らも、僕がこの兜を当てたと先生が考えて、僕を怒鳴り散らすと考えたのだろう。今のこの状況に戸惑っているものが僕を含めてほとんどである。
暫くの無駄な話の後、大事なことを言う時の先生の口癖でみんなが顔を上げる。罰を受けていても教室の様子ぐらいは見れるし、話もできる限り聞いているから口癖も分かる。よーしという言葉を初めに、先生は生徒たちに向かって指示を出す。
「今からお前たち、防具を身につけろ!」
言われるがままに、みんなが動き出す。
僕も、兜を被り目を開ける。よく考えると、頭に相手の攻撃を当てるのか…。
「よーし、では、ペアを作れ!」
兜のせいで少しくぐもって聞こえる。全員で15人。当然余るのは僕だ。
特進は7人では?そう考えたものもいると思うから、補足しておく。特進は全員で7人。それに加えて、その分野で優秀な成績を持っている8人が変わり代わり加わるのだ。特進がセンスのあるやつら。8人が努力で走ってきた奴らということだ。
「余ったのはお前か?他は余ったものはいないな?よーしお前は俺がシゴいてやる。」
実を言うと、この先生は毎回僕に会うたびに僕がいたずらをしていると勘違いしている先生の1人である。先生であっても、流石に特進クラスのイタズラには気づかないようだ。
つまりだ。今回は非常に危険な授業だ。人数もいつもは35人だ。それに比べて少ないということは、先生の目が届くようにという配慮のしるしである。
「よーし!今から見本を見せる。コレット、私が攻撃するから兜に当てろ!」
そう言うなり にやけ、右手に恐ろしい程のエネルギーを溜める。ま、まずくない?この先生という人は!
直後頭に強い衝撃と熱さを感じる。体は宙に浮いているようだ。間もなく地面に落っこちた。流石に死ぬかと思ったな…。頭がガンガンする。体も痛いな。
〈野郎!やりやがったな!〉
僕の頭の中に謎の声がする。なんだ?
〈早く立ちやがれ!反撃だ!〉
なんなんだよお前は?……なる程な、ついに頭がおかしくなったのか。
〈何考えてやがるんだ?早く立てと言っているだろうが!〉
あーはいはいわかりましたよ。
向こうでは先生が生徒に説明しているのが見えた。
〈なんだ?あいつ!俺に攻撃したことも無視して背中向けてやがる!今に見てろよ!この長い眠りを妨げた罪は深いぞ!〉
先生は暫くして、僕が立っていることに気づく。
「よーし!今度はお前が私に攻撃しろ!どこでもいいぞ?私はこの胴当てに当てるからな。わはは。よーし!お前らも見本を見せるから目逃すんじゃねえぞ?」
ストレスが発散されたのか爽やかな笑顔だ。不快。先生の胴当てはみんなが皮なのに対して、僕と同じ金属だ。いや、あれは違うな?
〈おい!小僧!魔術だ!火あぶりにしてやろうぜ!〉
それは無理だ。僕は魔術を使えないんだ。しかも
〈おーおーそうだったな。しょうがないな。俺が変わりに……。〉
話を最後まで聞かないのか…。変わりに魔術でもしてくれるのか?
「早くしろ!」
周りの奴らがクスクスと笑っている。
〈うるせえな!急かすんじゃねぇ!おっし、準備OKだ!お前がやったように誤魔化すからな。火球の魔法陣は知っているか?〉
なんなんだお前は?何様だ?魔法陣まで描いて、術が使えないとばれたら即退学なんだぞ?わかってるのか?
〈あー焦れったいな!兎に角早くしろ!使えないからこその魔法陣だろうが!その後完璧な動きをしろよ?俺だって痛かったんだぞ?やらねえと殺すぞ?〉
は?何を言ってるの?僕は呆れてぼーっと立っていると、先生がいよいよ怒り出した。
「お前?ふざけて…」
その時だった兜がどんどんきつくなってきたのだ。痛い、止めて!い、息が…
〈殺すぞ?やられっぱなしが一番むしゃくしゃするんだよ。早くしろ?〉
さっきまでうるさかった声は、怒り混じりのゆっくりとした声に変わっていた。
わかった!わかったから!
それと同時に兜の束縛感がなくなった。首が締め付けられて死ぬかと思った…。
〈次はないぞ?〉
恐ろしい声で囁いてくる。このままでは本当に死ぬ…。僕は言われるがまま、練習に練習を重ねた火球の魔法陣を指で地面に描く。
「ないで…!?は、はやくしろ!」
先生が僕が描き始めたことに動揺したが、また怒鳴る。
〈 かー!お前!惚れ惚れするほど綺麗な魔法陣じゃねえか!歩く電子辞書かよ!しかも早え!こんなに早く描き上げるやつは初めて見たぞ?〉
そんなに褒められても、魔術が発動しないのなら意味ないだろ?
〈上手くて早いことは否定しないのかよ!気に入ったぞ〜〉
さっきとは打って変わって、楽しそうに話す謎の声。
ふん!これでいいんだろ?書き終えた僕は左手を魔法陣の中心に置く。そして右足を左手の横に、左足を後ろにまっすぐ伸ばし、右手を左足の延長線上にまっすぐ伸ばし、先生の胴に向かって手を開く。
「なんだ?まさか魔術を使えんのか?」
「使えないはずだぞ?だっていままで…」
焦る生徒たち。魔術なんて使えないし〜。形だけの虚仮威しだ。
「は、早…い、いや、遅い!だからお前は実技はなにも…!」
〈ふふふふふ。くらいやがれ!全力で発動!火球!〉
「…え!?ぐはぁ!!」
ズキュンッ!ガガガーン!!!
その瞬間、僕の右手から驚くほど早い火の玉が発射された。火の玉は先生の鎧をぶっ壊して鎧ごと先生を吹き飛ばす。
す、すご!閃光と熱い爆風が僕の元にビュッと一瞬で吹抜ける。
「キャーーー!」
「まじかよ、コレットのやつ!やりやがったぞ!」
「先生だ!先生呼べ!」
みんなと一緒に慌ててた僕。あ、そっか。みんなは僕がやったように見えたのか。
〈ざまあみやがれ!お前もスッとしただろ!〉
恐ろしい声と出会ってしまったものだと後悔するかと思ったが、意外にも満更でもない自分に驚く僕であった。
この日から僕の生活は変化していった。




