十八話 変化
「痛っ!殺るなら殺れよ!仲間も死んだ。覚悟はできてんだよ!」
これで41回目。
「はいはい。そんなのはいいから、教えてよね。どうして襲ったのか。」
黒いフードを被ったまま怒鳴り散らす男。俺が殺さないとわかってからずっとこの調子だ。正直に話してほしいものだ。こちらも我慢の限界だ。
彼女を大人数で襲ったことは、幾つかの理由を浮かばせる。
その一、彼女を倒すのが目的であり、彼女が相当な手練れ。
その二、彼女が重要な何かを所持している。または、重要な人物。
その三、無差別に、或いは鬼という種族(鬼かはわからないが)を拉致しようとした。
その四、人違い。または、頭がおかしくなってしまった。
大体こんなもんだろ。きっとこの中のどれかだろう。まあ、その一はまず無いな。実際彼女が一人だけでも倒せるか危うかった程だ。その四もないかな?
「お前みたいなクズ、何も怖くねーぞ!バーカ。早く殺せ!」
黒いフードを外し、42回目の軽いデコピンをする。その四が有力だな。頭は髪がなく、鼻は高い。おでこはデコピンをしたので赤くなっている。どことなく、ゴブリンに似ているのだが。てかこいつ、ちっこい角が生えてねえか?
小さな驚きを隠すため、話を変える。
「おい、お前は心当たりねーのかよ?」
「え?私ですか…?」
彼女が顔を隠しながら困惑する。さっきから一言も喋らないのがどこか引っかかる。
「な!貴様!誰に向かってお前などと言っている!」
な、なんだこいつ!自分の未来だけでなく目も見えないのか!?俺もまさかこの台詞がゴブリンの口から出るとは思わなかった。
「いや、あのさ、別にお前に言ったわけじゃないんだけど。」
「うるさい!この無礼者!ひ、姫様もお逃げください!私のことなど、気にすることはありません!」
逃げるってなんでだよ?俺から逃げてどうするんだよ。守ってるのは俺で襲って…ん?ん??なんかおかしいぞ?俺は俯いている彼女を見て固まる。話についていけないんだけど。
「は?どゆこと?おい、なんで黙ってんだ?姫様ってなんだ?」
「そ、その呼び方は止めて!」
俺はこの2人の関係について、勘違いをしていたようだな。俺は大きくため息をつき、ギャーギャーわめくゴブリンと、申し訳なさそうに俯いている涙目の姫様を睨むのであった。
あれから色々話したら、以下のことが分かった。
彼女の名前はサクメちゃん。でゴブリンの名前はないそうだ。欲しくないのか?そう思ったのだが、本人曰く「私に名前のようなたいそうなものいりませぬ。」なのだそうだ。
「不便だなぁ。」
この2人の関係は、主従関係。サクメちゃんは姫様で、ゴブリンは召使い。
「おい、お前たちには種族みたいのはあるのか?」
ゴブリンが本当にゴブリンなのか、鬼が本当に鬼なのか。違っていたら恥ずかしいしな。
「え?種族、ですか?…私は鬼です。彼は小鬼ですね。」
小鬼、か。だから角があるのか。
俺が自分の姿を見て驚いていた時、丁度サクメちゃんを見つけたゴブ…小鬼共は囲うようにして捕まえたのだそうだ。捕まえたように見えたのは、本当に捕まえようとしたからだった。サクメちゃんは国から逃げ出したのだそうだ。何やら深い事情があるみたいだな。
「そうなのか。てっきり襲ってきたのかと思って、悪いことをしたな…。」
俺は護衛をこいつ以外殺してしまったのだ。サクメちゃんは止めようにも、あまりに衝撃的な場面だったので、足がすくんで動かなかったそうだ。というか、このゴ…小鬼がサクメちゃんを抑えていたのだから、動こうとしたとしても動けなかっただろう。だからこの…小鬼だけが生き残ったのだけど。
俺はそれよりもこいつらの態度が気に入らないけどな。仲間が何十人も…匹か?まあいい。仲間が大量に殺されたってのに、平然とその犯人である俺と話している。しかも目の前で殺されたのにだ。もしかしたら自分達も殺られるんじゃ…だとか、仲間の敵!だとか考えないのか?ともかくこいつらと俺との考え方の基準には、何かしらの違いがあるのだろう。今後わかるといいのだが、分かるものでもないか。
「本当にごめんね。」
おかしな話だが、悲しまない二人に謝罪する。普通に話しているから、死んだ者に対してそこまで思い入れはないだろうと考えていたが、意外な返事が返ってきて驚いた。
「……ま、全くだ!お前には…責任、そうだ、責任をとってもらうからな!」
ゴ…小鬼はなんのことやらと目が泳いだものの、俺をきっと睨み、吐き捨てるように言った。こいつ…わすれてたな?というか、責任?また、何やら面倒なことに…。同じ場面、序盤でもあったぞ?ボロボロの相手からの頼みごと。小鬼の真剣な目がルミナスと重なる…。はぁ、断れる気がしないな…。だが必ず断る!これ以上面倒ごとはやだしな…。
「お前も我が国最強の戦闘部隊を一瞬で壊滅させた!」
国最高戦力が通りかかったよそ者に勘違いで壊滅させられるとは、悲しい現実もあったものだ。もしかしたら俺が強すぎるのか?いや、そんな甘い考え方はしないほうがいいな。俺がこんな力を簡単に手に入れられたのだ。俺以外に、もっと強力な力を持っている奴がいてもおかしくない。世界は広いのだ。前世でそれは経験済みだ。上には上がいるものである。うん。
「その強さを見込んで、隣国を滅ぼしてほしい!」
「滅ぼす?なぜだ。」
気持ちとは裏腹に聞いてしまう俺の口。関係ないこと考えてたから、思わず口に出して聞いてしまった。素早く前言撤回をする。
「いや、話すな。て言うか聞きたくな…」
何よりも、ルミナスとの約束を守らなければならない。時間を無駄にしたくない。行動は早くなければいけないのだ。そう、早くなければ…。
『他人のくだらない思いに縛られるでないぞ?自分は今なにをしたいのか、を優先し行動しろ』
ルミナスの言葉だ。…時間を無駄にするな、行動は早く、キビキビと。生前にまだ俺が働き始めて間もない頃に植えつけられた、上司の口癖だ。そうしなければ首にされ、金がもらえなくなってしまう。上司の言葉は絶対だ……。
そう考えてた時期があった。あの時に、この『自分に利益の無いことはしない』という考えが生まれた。そう、くだらない考え方だ。
「どうしたの?」
途中で話を切り押し黙る俺を覗き込むサクメちゃん。凄まじい破壊力に赤面してしまう。
…そうだ!俺はもう自由だ。いつまでも生前のことを引きずって後ろを振り向いていると、前を向き全力で走ることができなくなってしまう。ここは日本ではない!今生きているのは鬼の姫様と、その召使いの小鬼のいる、この場所だ!今を楽しく生きるんだ!
「いや、なんでもない。」
俺は微笑みサクメちゃんの頭をポンポンと叩く。ガキの頃に散々憧れたものだ。正義のヒーローに。
「いいだろう!俺が殺してしまった奴らの償いもしないといけないしな。その隣国、俺が滅ぼしてやる!」
急に考えを変えた俺を口を開けて見つめる2人。それに対して、満面の笑みを浮かべる俺。
この時からか、俺に纏わりついていた何かが外れ解き放たれたような気がした。それは愛おしくもあり、失いたくないものでもあったが、失うことに対して何故かホッとしてしまう自分もいた。今まで引きずっていた負の感情に別れを告げる。
「あばよ」
「どうしたの?クレイ?」
「いや、なんでもない。」
夜空には綺麗な月が輝いていた。
少し遅いですがメリークリスマス!
クリスマスは楽しく過ごせましたか?
サンタさんは来ましたか?どうやらサンタさんは、私の住所を忘れてしまったようで、今年もきませんでした!
もうすぐ一年も終わってしまいますね。
長かったですが、思い返すと短いものですね!来年も宜しくお願いします!
最後に読んでいただき、ありがとうございます。良いお年を!




