十七話 黒いフード
てっきり俺は、俺が子供の姿をしているのでは?と考えてしまった。
そんな都合のいいことが起こるわけがない。鬼は決まって長寿であるのだ。そんな彼女からしたら、人間のおっさんなんて赤子であるのだ。はぁ、驚かせやがって。
そんなことを思いつつ自分の姿を見たくなり、視線を落とす。
うん、変わってない。べ、別に期待してねーし。再び正面を見ようとした時、何故か違和感を感じる。
俺の服。ピチピチじゃない。
「っ!!!」
「ふふ、あなたって面白い人ね。自分の姿を今まで見たことなかったの?」
もう、笑いが耐えきれないじゃない。と言いたげにクスクスが大きくなる。
その姿もかわ…っておい!今はそれよりも大事なことがあって、和んでる場合ではない!
「い、いつからだ?何故気付かなかったんだ?」
彼女の話から、服が大きくなったのではなく、俺が小さくなったという事かな?こんな時に鏡があれば!生前見たくもなかった鏡を求めることになるとは思いもしなかったな。
俺の質問に答えようとした時、ニコニコと俺に向いていた目が急に大きくなる。
「っ!」
直後に耳に地面を蹴る音、木の葉が騒ぐ音が聞こえた。嘘だろ?どうやってそこまで近づいたんだ?
疑問が残るがとりあえず応戦する。来るなら来い!ひとまず超硬化皮膜して、攻撃に備える。
素早く振り返り敵をかくにn…げげ!俺は目の前の光景に開いた口が塞がらなかった。
いたるところから何十もの黒フードが此方へピョンピョンと走ってくるのだ。その速さは生前の俺を遥かに上回るのはすぐに分かった。残念な事に、今の俺と比べたら足元にも及ばない。しかし、俺はその数と微妙な速さに圧倒され立ち尽くしてしまった。
「ちょ、ちょっと!」
彼女の声に、はっ!と我に返る。黒フードは俺を無視して風のように通り過ぎていた。狙いは彼女だったのだ。しまったと思った時には彼女は囲まれて見えなくなっていた。
「おい、お前ら!いい度胸してんじゃねぇか?」
取り敢えず威嚇だ。さて、どう出るかな?
「は!俺たちに怖気付いて一歩も動けなかったのはどこのどいつだ?」
どっと周りの取り巻きも笑い出す。
考えたが何も言い返せない。一番ムカつくパターンだこりゃ。俺は冷静に黒フードに話しかける。
「てめぇ!こっちが敢えて見逃してやったのをいいことに、ぶっ殺してやる。」
大嘘だ。俺は極めて冷静だ。
「威勢のいいやつだ。口が達者な奴ほど直ぐにいなくなる。もうすぐいなくなるやつが一人、ここにいるようだな?よく見ておけ。こんなバカ二度と会えないぞ?」
この野郎、バカにしやがって!ん?俺が冷静ではないだと?…そうだな、少し落ち着こう。
「お前ら…お別れだ。」
ドゴン!
俺は地面を思いっきり蹴り前へと移動する。衝撃で地面が割れる。言ってることとやってることが違うのは、気のせいか妖怪のせいだろう。どちらにせよ、黒フード達には何も見えなかっただろう。一瞬で間合いを詰めた俺に動揺しつつ、黒フードのリーダー的なのが声を張り上げる。俺は俺で二、三人殴る。おわ!殴ったらその部分だけ飛んで行ってしまった。グロ!これはダメだ。黒フード達と俺が驚いているのは言うまでもない。
ここで彼女を人質にとるか取らないかで、黒フードにとっての彼女の大切さがわかる。さあ、どっちだ?
「お前らは、逃げろ!残りは俺の周りで応戦しろ!」
その一声で、綺麗なw字型の陣形に一瞬で変わる。おお、すごいな。
「二人一組、かかれ!」
瞬時にできた陣形を確かめて素早く合図をする黒フードの頭。だが、遅い。まだまだ俺には追いつけないな。散々バカにしやがって、マジでこいつら殺す。侮辱した上に彼女の事をを誘拐しようとしたんだ。俺の我慢も限界だ。どのように倒そうか考えながら、相手の攻撃を適当にかわしていると、
「なぜ当たらない!?仕方あるまい。我が国最強の連携だ、構えろ!」
なんで宣言してんだよ?馬鹿なのか?
「準備ができたぞ、今だ!」
そんなのに当たるわけ…バチン!
「ぐおぁ痛え!」
閃光と痛みが走り、俺は崩れ落ちる。なんだ、今のは?そんなことを考えている間に身体中を切られまくる。さっきので集中を掻き乱された為、超硬化皮膜ができない。どうやら体が麻痺しているようだ。痺れて転がっている俺を数人で切ったりさしたりしている。因みに攻撃を食らっても、怪我は痕すら残らず消えるし、超硬化皮膜をすればそれ以前に傷すらつかないのである。しかし、もしそれらを無視して、攻撃されたならひとたまりもない。何故なら、こんな体でも痛みは感じるし、傷は治るが流した血はどうやら戻らないらしいからだ。つまり、今非常に最悪な状態だ。残酷な奴らだな…。
俺はやっとの事で目を開くことができた。貧血で視界が一瞬ぼやける。奴らは治り続ける俺の体に何度も剣を刺している。手足は痺れて動かな…なんだあれは?
手首と足首のところに光の腕輪見たいのがついてる。杉浦から貰った腕輪が光っているのかと思ったが、違うようだ。明らかにこれが俺の動きを制限している。
これ、壊せるかな?
そう思い、右腕に力を入れようとするが、入らない。黒フードからの攻撃は絶え間なく続いている。叫び声はとっくにあげている。助けにくるあてもなし。絶望しかない。俺はもう一度腕輪に目をやる。魔法の世界だろ?これをなんとかして、取れないのかよ?
そんなことを考えながら、右腕に全神経を集中した。なんでもいい!このままだと、出血多量で死んでしまう!強い気持ちを込めて、右腕を睨み、この腕輪を、腕ごとでもいい、壊してくれ!と死に物狂いで念じた。直後、バァン!
という音がなり、右腕ごと吹っ飛んだ。痛みはそれほどなく、無くなった肩の傷口が痛んだぐらいだった。しかし、爆発は近くにいた黒フードを全員フッ飛ぶほどの高威力だ。
「ぐほぁ!なんだ?うっ、こいつ自分の腕を犠牲に自爆しやがったぞ!離れろ!」
自爆、か。体の傷が治る中右腕は一向に元に戻らない。本当に死ぬかと思ったので、右腕はぐらいは軽いものだ。不便だが、羽根を使えばいい話だしな。
吹っ飛んだ黒フードたちは体勢を立て直していたが、警戒して俺から離れ様子を伺っていた。黒フード達の中で俺の近くにいた奴らは全員起き上がらずに倒れている。立っているやつの中にも、フードが破れたり、皮膚がただれたりしていた。面白いことに、フードがほとんど破れている者もいたが誰一人として脱ぐ者がいなかったのに加え、誰の顔もフードが邪魔で確認できなかった。これは俺が確認できなかったのではなく、黒フード達が確認させなかったとみていいだろう。そこまでして、俺に顔を見られたくないらしいな。別に見たいわけではないので、俺には関係のない話だった。
問題は俺の右腕である。やはり戻らないのだ。いつもの傷なら意識せずとも勝手に戻るのに。俺らしくはないが結構焦っている。これから右腕なしで生活していくとなると…考えたくもない。
取り敢えず立ち上がろうと、体を動かしたが、右腕も右腕で結構重いらしい。バランスを崩して倒れそうになり手で体を支えようとするが、その手が左にしかなく結局倒れてしまう。
くそ!最悪な状態がまだ続くのか?仰向けに倒れたまま大の字になる。魔法でなんとかできないのか?というか、どういう原理で俺の体の傷は治ってたんだ?右肩の傷口はとっくにふさがり、右腕があったことが嘘のことのようだ。黒フード達もいずれ動き出すだろう。
あの子は…。名前も知らないあの鬼は、どんな目にあっているのだろうか?これも俺には関係のない話か…。
俺が絶望に飲み込まれそうになった頃、黒フードたちは少しずつ騒ぎ始めた。俺はふと右腕があった場所を見る。何故あんなことを…。
どうやってやったんだっけかな?確か全神経を集中したんだよな?そんなことを考え苦笑した。何を考えてるんだ俺は。ここは異世界。きっと解決方法があるはずだ。…そういえばあの時、『右腕ごと』とか念じなかったか?魔法の世界。念じればなんでもできるのでは?
俺は深呼吸しなんとか立ち上がり、目を閉じて右腕に全神経を集中する。それが合図だったかのように黒フード達が雪崩のように押し寄せてくる。目を閉じていても耳が聞こえるから大丈夫だ。
「かかれ!右腕がない、死に損ないだ!」
集中、集中するんだ。右腕、元に戻ってくれないか?いや、右腕、元に戻れ。…何も起こらない。やはりできないのか。できたら運がいい程度に考えていたからな、しょうがないだろう。
そんなことをしている間にも、黒フードが押し寄せてくる。左腕だけだが、全力で返り討ちにする。さっきは油断したが、もうあんな技はくらわないぞ?何度も転けそうになりながらも体制を保つ。避けてはデコピン、弾いてはデコピン。超硬化皮膜は使えるので黒フードを倒すことは簡単だったし、デコピンでも全力でやれば致命傷を与えられた。そして世界が一回転する。一回転?
「ぐは!」
俺は転んだらしい。転んだ原因はすぐに分かった。右腕についていたはずの腕輪だ。俺はこの後何回も驚かされた。
取り敢えずと腕輪を持ち上げた瞬間、腕輪が手から離れ浮いたのだ。そして、右腕があるであろう場所で止まった。一瞬戸惑ったものの直ぐに右腕に全神経を集中する。すると、あっけなく腕が元に戻ったのだ。驚き過ぎて、喜ぶタイミングを失ってしまうほどだ。
そんなのは御構い無しに黒フード達は攻撃してくる。
「右腕のない、なんだって?」
俺はこの喜びを黒フード達にぶちまけるのであった。
さっきまでの威勢が嘘のようにしょんぼりとしている、黒フードを被った頭。今は木に縛り付けている。奴らがかぶっていた黒フードでだ。
まさか腕が戻るとは…。はじめは動きがぎこちなかったがだんだん元に戻ってきた。筋肉痛と似たような痛みもあったが、今は普通に動かせる。
しかし腕が戻るとわかったが、だからと言ってどうやって戻ったのかもよくわからない。初めは念じても戻らなかったことから、念じればもどる訳ではないようだ。念じる他に、何かしらの条件が必要らしい。今回は腕輪を手に取った時だったが、もしかしたら時間が関係している可能性だってある。一定数生物を殺害しないといけないかもしれない。もしかしたら、一度しか戻らない可能性だってあるし、何度でも再生可能かもしれない。
少なくとも今回わかったことは、自爆の仕方、自爆すると自爆した部位は簡単に戻らない、何かしらの条件を達成すれば腕は再生可能(他の部位は不明)、自己再生には限度がある、腕輪は壊れない、このぐらいだろう。
腕がなくなってどうなることかと思ったが、戻った上に色々と情報が収穫できたのは良かった。
因みに彼女は無事であった。拘束されてなかった上、何かで縛られているわけでもなく、擦り傷すらしていなかった。少し戸惑っているようだが、無事で何よりだ。
俺は改めてリーダーを睨みつける。他の奴はいつの間にか絶命していた。生きているやつもいると思ったのだが、全員死んでいたのだ。黒い炭みたいになって崩れていたのだ。もし、黒いフードがなかったら本当に俺の倒した奴らだとは気づかなかっただろう。なので何を聞こうにもこいつにしか聞けないのだ。
「さて、色々聞かせてもらおうか?」
俺は優しく微笑むのだった。
二週間投稿できなかったので少し長めにしてみました。来週は投稿できそうです。




