十五話 鬼
一瞬の浮遊感。直後、俺は重力に引っ張られて地面へと激突した。
「ちくしょう!」
俺は腕輪を外そうと、手首に目をやる。それは俺の一部のようにぴったりと俺の腕に隙間なく付いてた。外せそうもなさそうだな。
「これ外せよ!」
スギウラはキョトンとした顔でこちらを見ている。
「なんでよ?自分で外せばいいじゃん!」
あ!あいつ、このやろう!キョトンとした顔で右手に透明の球体を作ってやがる!
「最も、外せたらだけどね。」
やっぱ外せないんじゃないか!
スギウラは右腕を突き出してその球体を押す。
「くらいな!水球!」
うお!間一髪避けれたな。ていうか余裕だったな。意外と速かったので驚いたのだが、俺の方が速かったのでもっと驚いた。水球は木に当たった。バシャ!水が飛び散る。ってえぇ!木が、木が!当たった部分からグニャリと曲がる。危な!俺、当たってたらどうなってたの?
それよりもだ。普通に避けれたよね俺。今気が付いたのだが、生前と同じように力の調整ができるようになってる。
それどころか、力が増しているように感じる。さっきよりもだ!もしかして杉浦、いや、杉浦様は俺が力の調整に困っていると知っての行動だったのか?
杉浦に向き直り、全力で接近してみる。気持ち悪いぐらい完璧に使いこなせた。
「こいつはいいや!サンキューな、スギウラ。」
俺がどこに行ったのかとキョロキョロしていた杉浦が、ビクッとしてゆっくりと振り返ってきた。
「い、いやぁ、べ、別にたいしたことしてね、ないからね?」
「因みにこれはなんていう道具なの?だいぶ力が増した上に、調整も簡単になったし。」
少し間が空いた。
「あー。当たり前でしょ?そ、れは、筋肉調整魔具ていって、力を増幅させて使いやすくする道具だからね!」
なんか様子変だな。
「なんか隠してるか?」
「え!?そそんな風に見える?やだらー、そんなわけないでひょ?」
カミッカミだな。
「じゃあなんでそんなにオドオドしている?」
「そ、それは〜…そのー。あれだよ…」
「なんだ、やっぱり何か隠してるじゃないか。」
「ちがっ!…筋肉調整魔具!君が簡単に使いこなしたもんで驚いてるんだよ!」
んんん。なるほど。俺のセンスに今頃気づいたということか。納得した。
「そうか。ならいい。」
お前がどんな反応をしようと、俺には関係ないことだな。さっきまで杉浦の反応を見て、不審に思っていたことは勿論忘れている。
「じゃ、じゃあ私はこれで!じゃあね!」
「お、おい待てよ!」
手をブンブン振りながら逃げるように去っていった。いや、逃げて行ったのか。
いや〜いいものを貰ったな?
取り敢えず現状整理だ。さっきの切り株に腰を下ろす。今俺のつけている腕輪はどうやら、今の俺にピッタリの道具らしい。どうやら腕にしかしてないのに体全体に効果が及ぶようだ。その証拠に脚にも力が入りやすくなっている。実際今までよりも比べ物にならないぐらい、力が増して調整も生前と変わらないぐらいになった。それでも羽根には及ばなかったが。羽根が生えた原因は多分、いや確実にルミナスの魂を取り込んだのが原因だろう。ルミナスにも羽根が生えていたしな。しかし本当に便利だな。練習をすれば後々使えそうだな。これからコツコツ練習をするかな?だか、杉浦もあれ程驚いていた。この世界でも手が4本あることは、異常なのだろう。普段は隠しておくことにしよう。練習も人気のない場所がいいな。
杉浦といえば、あいつはどうやってこちらに来たのだろう。俺と同じように、死んだ後に転生したのか?如何してこんなところにいたんだ?他に仲間は?考えれば考えるほど疑問が湧く。杉浦は生前は何者だったのか。そして、今は何者なのだろう。
そう言えば魔法を使っていたな。水球とか言ってたな。当たった木を触ってみると、もう元に戻っていた。木は曲がったままだが。恐ろしい魔法もあったもんだ。
これからどうするか、そこも迷っている。今まで、木々が押し倒され開けた場所の上空を飛行してきた。そう、あの巨大ムカデが通ってきたであろう道だ。しかし、ここで途切れてしまった。どういうことだ?ともかく、まだあのムカデの出現地がルミナスのいう都市と決まっていないしな。あまりに俺の目指す方向と同じだから辿っただけだし。結果としてルミナスの言っていた仲間とも会うことができなかった。そろそろ日が傾いてきた。
「ここら辺で休むとするかな?」
木に登り真っ赤に染まる夕日を見る。地球と違うところはほとんどないようだ。方角はわからないが、太陽が登り沈んでいく場所は同じだ。
どことなく安心するな。この景色は。周りに聞こえるのは虫達が奏でる自然の音楽。夕日もほとんど沈んでしまった。空はゆっくりと漆黒の夜へと変わり始める。雲がほとんどないため、星が綺麗に見えた。どうやら今夜は満月のようだ。静かで何もすることのない一時。俺はゆっくりと満喫しようとしていた。
当然かはわからないが、ゆっくりできるわけがない。平和な時ほど危険なものはない。嵐の前の静けさ、とはよく言ったものだ。のんびり周りの音を聞いていた俺の耳が、何かが動く音を捉えた。別にいいですよ?こんなにのんびりできたのは久しぶりどころか、一度も経験してなかったからね?
俺は木の上からゆっくりと音のする方向を覗く。数人の…あれはなんだ?人?ではないな。暗くて見えないのではない。月明かりが俺たちを照らしている上、俺の視力は顕微鏡だ。枝や葉も邪魔をしている上、マントと、フードを着用しているのでわからないのだ。しかも黒一色だ。耳をすませてなければ、あそこに誰かいるなど思いもしなかっただろう。あれは…?
俺は唖然としてしまった。その連中が、フードを同時に外したのだ。勿論、合図なしに突然フードを同時に外したことに、すごい!以心伝心だ!と思ったのではない。その下に隠されていた顔が人のものではなかったからである。
それは俺が一度あったことのあるドラゴンの顔によく似ていた。
そう予想しただろう?フフッ、そう簡単に俺の目的が果たされるわけないだろ?
俺が見たのは人の顔だが、人間ではないと一目でわかるほど整った顔立ちをしていた。目を疑ったが全員だ。そして、その額や頭からは立派に角が生えていた。
俺が知っている限り、こいつらは『鬼』と呼ぶに相応しい姿をしていたのだ。
なんとか投稿することができました。一週間に一度の頻度で投稿するつもりですが、早めに投稿できたら投稿するつもりです。




