十話 絶体絶命
少し遅れました
試験が始まり、クバの先制攻撃、俺の補助、コレットのとどめ。今まで流れるように戦ってきた。今までの話は、だ。
今、俺の逃げ場はなく、やられるのを待つのみしかない。というか、それでいいと思っている。俺のバリアがコレットに届かず、クバの魔術が相手に効かなかった。つまり、相手もそれだけ強く、今までの奴らとは違う、ということだ。見事な連携であったし、魔術と崇術が効かないのなら戦う術がない。
今俺がこいつらに反撃すれば、少しは勝機があるかもしれない。しかし、それをした時点で減点対象になりかねない。ここまで来て減点されたくはない。100点はとっているから減点など怖くないのだが。しかしその油断が、俺の夢への第一歩を台無しにしかねない。
ここで、どうしてそこまで得点が欲しいのか、疑問になった方に説明する。俺にもキャッスルに合格したという確信がある。しかし、俺の目標は実はキャッスルの合格ではない。キャッスルの特進クラスに合格したいのだ!特進クラスはこの四時試験だけしか、採用されない。得点が高かった上位七名のみ、入ることができる。特進クラスは他の生徒より、尊敬され特別扱いされる。学ぶ内容も他の生徒とは異なり、望む学問や技術を自由に学べる。そこで俺は、この世の全てを学び、何もかも手に入れたい。この小さな体では、その大きな夢を支えきれないかもしれない。だが、だからこそ利用できるものを全て利用する。そしてこの夢を叶える最初の架け橋こそ、特進クラスなのだ。その為には油断せずに、ここで踏ん張らなければならない。
俺たちを倒すということは、他の奴らなんて朝飯前だろうからな。もしかしたら、ここで減点覚悟で反撃しなければ、まずいかもしれない…。
それでもあえて反撃しない。本心は面倒くさいのだ。危ない橋は渡らないに限るし、絶体絶命というのも取り消しだ。コレットやクバは知らんが、俺は一回目を一位で通過している。得点は50点だ。つまり、活躍すれば得点は跳ね上がる。
俺は覚悟を決めて、相手へ向き直る。
『お?逃げないのか?』
『うるせぇ!』
強気なふりをし、時間を稼ぐため、結界を自分の周りに張る。ここで、何か策があるように振舞っておく。
チッと舌打ちをした後、気が荒く挑発的な男の隣にいる細長い男が、冷静に話してきた。
『結界を張れるとは面倒ですね…。バリアしか張れないと予想していたのですがね。落ち着いてください。先に攻撃してきたのはあなた方でしょう?私達は攻撃しません。とりあえず話を…』
それもそうだな…。それを聞き少し結界を緩めた。直後、二人の男の拳が銃弾のように飛んできた。幸い、反射的に結界を強めたので殴られなかった。こいつら!
『攻撃しないんじゃないのかよ!』
『これも受かる為の作戦です。あなた方も散々やってきたでしょう。卑怯だなんて、あなたが言えた口ですか?』
う、痛いところを突かれた。俺たちも相手が構える前に奇襲をかけてきた。でもおかしいな…。奇襲を見られた筈はない。なぜなら、近くにいた奴も逃さずに倒してきたはずだからだ。
大方、当てずっぽうに言っているのだろう。しかし予想とは裏腹に、細長い男の様子は嘘というより知っていることを言っているように見えた。その上、実際に俺たちの奇襲を凌いでいる。
『どうしましたか?言い返す言葉がないようですが?何か策があるから時間稼ぎをしているようですが、無駄ですよ。ヒメコ、合図で行きましょう。』
細長男が補助の方を振り向きながら…。えぇ!ヒメコだと?ついさっきまで一緒に戦っていた、小柄な女の子を思い出す。そうか!ヒメコとマクも俺と一緒に戦ってたから、ポイントが高かった。得意の補助になるのは当たり前なのか…。
ヒメコとマク。この二人は崇術の中で基本となる結界と回復を極めていた。今回、キャッスルへの受験を決めたのもそれが理由であった。二人は、同じ孤児院で育った。親はいたが、第四次人魔大戦に出陣してしまった。二人の親は、崇術の極地に辿り着けるほどの実力者であった。しかしその実力が災いし、ヒメコとマクの元へは戻れなくなってしまった。亡くなったという報告が無いため、戦地から退けないだけだそうだ。その為生まれてすぐに孤児院へ預けられてしまったのだ。蛙の子は蛙。この二人も親の後を追いかける様に崇術を身につけた。他の者達の崇術を、遥かに上回る二人の想いは一つであった。
親に会いたい。
実力があれば、親のいる戦地へと出向くことができるのだ。そのためにはキャッスルに入学し、そこでしか知り得ない知識を取り入れ戦力になることを証明しなければならない。
ただ大きな壁として、他の分野のセンスはいまひとつであった。今回の試験では、猛勉強の末一次試験をギリギリ合格。二人で入れ替わりに結界を張りながらトラップを弾き、ゴールにビリで辿り着いた二次試験。結界を巧みに使いつつ、怪我を回復する持久戦となった三次試験。そして今回最後の試験まで来ることができたのだ。ゼーマがいたから、二回目は補助を反則することなくやっているのだが、ここで負けるわけにもいかないとヒメコは決心していた。ヒメコとマクも、ゼーマと同じ特進クラスを目指していたのだ。
ごめん、ゼーマ。
心の中で謝りつつ、ゼーマの結界を相殺する準備をするヒメコ。
くそ。ここで手強い相手と当たるとは…。
俺はガラス玉を割られないように、合図と同時にガラス玉を守るように背中を向けた。
張っていた結界が綺麗に相殺されるのを感じる。流石だな。その時、予想外のことが起きた。ガラス玉を割るのだと思っていたら、細長男が俺に向かって魔術を放ってきたのだ。ババスッ!
しまった!と思った時には俺は地面に倒れていた。
『ぐっ!』
腹の辺りから全身へと痛みが走る。鼓膜破れただろこれ…。この魔術はクバが使っていた魔法じゃねぇか。ガラス玉を割るのではなく、相手をひるませるために使うとクバが自慢げに話してたな…。ガラス玉が地面に転がると、気性の荒い男が俺を一度蹴った後ガラス玉を持って行ってしまった……?
てっきりすぐに割ると思ったのだが…。
ヒメコと細長男まで持って行き何かをしている。俺の視線に気づいたのか、荒い男が馬鹿にしたように鼻で笑ってきた。ムカつく。
『何をしているか、お前にはわからないだろう?馬鹿なお前にはこのマテル様が説明してやる!』
鼓膜は破れていなかったようだ。細長男が荒い男、マテルに何か言おうとしたが、諦めて何かの作業に戻る。本当に何をしているんだ?
『俺たちはガラス玉があれば得点を増やせんだよ!』
『どうやってだよ?』
『え…と、そ、それは…。と、とにかく増えんだよ!』
よく分からないが、マテルもよくわかってないらしい。増えるだと?どういうことだ?
説明がちぐはぐなマテルに呆れたのかため息をつく細長男、だったのだが、急に目を見開き態度が一変する。暫くすると、嬉しそうにこちらに歩いてきた。随分とご機嫌だな…。
『馬鹿な奴だな。しょうがない、俺が説明してやる。ま、これもお礼ということだな。簡単に言うとだ。俺たちは発見をした。』
といい俺の方をじっと見る。笑いが堪えられないのか、にやけた顔で俺と目を合わせている。勘弁してほしい。
『なんだ?気色悪い。』
『おい、お前はガラス玉をよく見たことはあるか?』
『ないけどなんでだよ。』
妙なことを聞くな。ガラス玉をよく見たって、特に何もないのにな。
『何かあるのか?もしかして気色の悪い猿が映ってたんじゃないか?』
『もしかしてその猿とは俺のことかな…?まあいい、実はな。ガラス玉をよく見ると数字が中に浮かび上がるんだよ。これは、自分達のガラス玉以外は目視できないが、自分達のガラス玉なら見ることができるんだ。』
といい、俺たちのガラス玉を俺の目の前に置く。勿論、マテルに両手を抑えられた状態だ。本当だ。118と書いてある。
『これは、ガラス玉を壊した数だ。』
そういえば数えるのが面倒で正確には数えてなかったな…。
『これは、魔術と崇術の混合魔術によりできている。登録メンバーが近づけば、数字が出される。ガラス玉を壊せば壊したガラス玉の、核を取り込み、何個核を取り込んだかを表示する。壊されたら核は吸収されるが、登録メンバーを広場へ、電波を本部に発信する仕組みになっている。』
そんなシステムがあったとは…。それを作った人も凄いが、理解したこいつも凄いと思う。で、だから何なんだ?
『その吸収された核はだ。さっき言った通り、崇術により吸収され、崇術によりそれを保っている。』
だからなん……!!
『あはは。やっと気付いたみたいだね。その通り。うちには崇術の天才がいる。ガラス玉の数字が分かれば、簡単に取り込まれた核を取り出すことができるんだな〜。魔術で登録メンバーの確認を誤魔化して、ガラス玉の中の数字を見るのが俺の仕事。取り出した核を俺たちのガラス玉に移植するのが彼女、ヒメコの仕事ってわけ。』
それを聞き、目の前が真っ暗になっていくのがわかった。前言撤回、絶体絶命である。




