1 プロローグ
戦場!
そういう言葉で形容するにふさわしい場所だった。
都市の中心部に天高く聳え立つ摩天楼。
その最上階の展望フロアには、大勢の若い男女(といっても、全体的には僕よりも少し年上)が、一同に会していた。
四方をガラス窓でぐるりと囲ったこのフロアは、市街地の夜景を楽しむのには絶好のポジションだった・・・が、僕を含め、この場にいる人たちには、とてもそんな余裕は無かった。
小学校の体育館ほどの広さがある正方形形のフロア。
その中心に据えられた長テーブルの上には、サンドイッチやおにぎり、ジュースなどといった、ちょっと高めの値段設定の参加費とは釣り合いそうにない簡単な軽食。
さらに、そのテーブルをぐるりと囲うように、何十個ものパイプいすが、『2重の円』を描くような形で並べられていて、男性は内側のイス、女性は外側のイスに、お互い向かい合って座っていた。
男性はスーツにネクタイ、女性は少しカジュアルなドレスに身を包み、まもなく始まる『戦い』に備え、各々、タイの向きを直したり、手鏡でファンデーションの乗り具合をチェックしたり・・・と、最後の調整に余念が無かった。
(い、いよいよだ・・・。)
僕は、ずり落ちていた余所行き用の青いフレームのメガネを、左手の人差し指でクイっと押し上げ、ふうっと大きく息を吐いた。
僕の向かいには、僕が最初にお話させてもらう女性が座っていたのだが、緊張と恥ずかしさで、その女性の顔をまともに見ることが出来ず、下のほうに視線を落としたままでいた。
「―――はーい! みなさん。お待たせいたしましたぁ!」
フロアの天井に据えつけられたスピーカーから、甘ったるい声が響いた。僕のイスの反対側のほうに振り返ると、『パーティ』を主催した会社のスタッフの女性が、マイクを持って立っていた。
「今日は弊社主催の『マジで結婚したぁい!! 30代中心のぉ、ガチな出会い応援パーティー!! IN 新日本海市 2014!!』・・・に、ご参加いただきまして、ありがとーございまーす。」
スタッフの女性から、今回の『戦い』・・・もとい、『婚活パーティ』のルールについて、説明がされた。
簡単にまとめると、
●この円陣に組まれた座席を2、3分ごとにひとつずつずれながら、異性一人ひとりと話をする。
●もし気に入った人がいれば、その後のフリートークの時間に、自由に席を立ち、時間一杯まで自由に話が出来る。
●そして、最後のアンケートで、お互いを気に入った男女はカップル成立となり、アドレスの交換が出来る。
・・・といったかんじだ。
(正直なところ、こんなパーティに参加なんか、したくなかった・・・!)
この期に及んで、そんな愚痴を心の中でつぶやいてしまう。
だけど、ここまで来てしまった以上、いまさら引き下がるわけには行かない。
(こうなったら、覚悟を決めよう・・・!)
「それではっ!! 明るく大きな挨拶で、向かいの方とお話してくださいねー!
・・・ハイ! レディーーーーーーーーー、ゴーーーー!!!」
スタッフの女性のはつらつとした声がフロア全体に響き渡り、僕の『戦い』が始まった・・・。