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【1】もうひとつの2020年

 世界人口は70億人に達する手前で急激に減少し始めた。

 現在の世界人口は約30億人。1秒に2.5人がこの世から消えていると言われている。しかし、正確な統計はもう分からない。

〈出生のスピードを計算に入れても、あと100年で人類は全滅する――〉

 そう予言する学者もいる。


 テレビの画面の端には、白い空飛ぶ怪物の出現場所とその被害状況が常に表示されている。日本国内だけではない。今や世界中の誰もが見慣れている表示だ。

 その画面をぼんやりと見ているのは、40代前半、いや実年齢はもっと歳を重ねていそうな男性だった。ネクタイに作業服という出で立ちだ。報道番組を見ている。


 この世界でも、昔はさまざまな番組が放映されていたが、怪物が出現してからは番組の種類はめっきり減った。


「テレビの人も命がけだな……」

 中年男性は、そうつぶやいた。見る人の印象で、強面にも、とぼけた面構えにも、どちらにも受け取られる顔立ちをしている。


「皆さん! 準備できました! お願いします!」

 整備員が、事務所の扉から顔を出し、大声で叫んだ。


 その声を聞いて、事務所にいた男性2名、女性2名が席から立ち上がった。

「ぼちぼち行くか……」

 と言って、テレビを見ていた中年男性もおもむろに席から腰を上げた。

「今回の業務はのんびりできそう……」

 誰に言うとでもなく妙齢の女性が言った。彼女もブラウスに作業服という出で立ちだ。


 社内の多くの人が彼女のことを〈古風な美人〉と形容する。また、作業服が妙に似合う女性とも思われている。


***


 1台の乗用車を先頭に2台の大型トラックが続く。乗用車は、小型軽装甲車と言ったほうがしっくりくる形状だ。この時代の自動車はどれもこのような姿をしている。

 トラックは、われわれの世界の10トントラックに近い大きさだ。荷台に何かが積まれていて、その上をほろが覆っている。


***


 3台の車が武蔵州むさしのくに西部の山間部に入ったころには、とっぷり日が暮れていた。


「今日はここで野営します。明日03・00《マルサン・マルマル》時に出発、目的地で業務を開始。じゃ、おやすみなさい」

 トラックの運転席の女性は、そう言って車両無線を置いて毛布にくるまり、横になった。前の座席と後ろの座席に一人ずつ、2人の女性が雑魚寝している。

 トラックの中は決して狭くはない。前の座席にいる女性は、もぞもぞと動きながら、無線インカムを手で手繰り寄せた。不測の事態に備えるためだ。


***


 ……そして、数時間が経った。太陽はまだ出ていない。


 しんと静まり返った中、後部座席で寝ていた女性が半身を起こして、前の座席の女性を揺さぶる。

「スズキタイチョー、そろそろ時間ですよ……」

「ん……。了解……」

 前の座席で毛布にくるまっていた女性が、体を起こさずに、握りしめていた無線インカムを口元に寄せる。

「皆さん……、おはようございます。現在の時間、02・48。そろそろ出発しましょう」


 動き出す3台の車。


 しばらくすると、先行する乗用車、〈指揮車〉から無線が入る。

「全車緊急停止。緊急停止~。損壊した車両1台を確認。生体反応はなし。どうぞ……」

 無線を受けて、トラックを運転していた女性、スズキが無線で指示を出す。

「全車縦列で路肩に停止~。各車両塩水弾準備~。サトウさんはキセナガに搭乗。タナカさんは強化服着用して待機願います」


 奥多摩地域に入っていた3台の車は、小高い山に挟まれた道に入ったところで停まった。


 その先に出動先である奥多摩ダムがある。道沿いには打ち捨てられた民家が並ぶ。ひと気は全くない。


 前方には、ヘッドライトに照らされた1台の車が暁闇の中に浮かび上がっている。

 フロントの強化ガラスが無残に割れているようだ。その車体の形状もやはり軽装甲車に近い。


 この世界のこの時代の車としてはごく当たり前の形状だ。


 車の全てが赤黒い。血液だろう。露出部分をなるべく抑えて設計された小さなフロントガラスにも、車両全体にも、赤い塗装とは別の赤黒いものがべったりと付いている。

 さらにバンパー付近の赤黒い染みの中心には何かの塊が落ちていた。

『周囲確認、異常なし!』

「サトウさん、搭乗願います」

 先頭にいる指揮車の無線を受けて、トラックにいる女性が指示を出した。


 2台あるトラックのうち1台の荷台の上がもぞもぞ動き、やがて人型の物体が半身を起こした。


 生体甲殻機、通称〈キセナガ〉。キセナガという名は、よろいの別名に由来する。中でも平安期から鎌倉期の大将が着た大鎧を差した言葉だ。

 身長は約9メートル。

 この世界のこの時代において、高度に発達していた生体技術を応用し、人造生物と機械の融合を実現。白い空飛ぶ怪物に対抗するために開発された兵器だ。

 形状は人間に近いが、身長に対し非常に軽量なことが最大の特徴。

 また、その表面は〈甲殻〉と呼ばれる硬化細胞で覆われ、その上に〈ゴム金〉と呼ばれる軟性金属と、特殊繊維を重ね合わせた装甲を備えていることも特長だ。

 装飾の類はない。デザインは簡素だが、非常に洗練されている。〈○○スーツ〉をまとった特撮ヒーローを想像するといいだろう。


 サトウの駆る機体は全身を黒で統一している。


『車内の状況確認と、報告用の撮影を願います』

「了解」

 トラックに乗っているスズキという女性が作業の指揮を担当しているようだ。サトウと呼ばれた男性がこの人型の物体を使ってその指示に従う。


 つまり、先頭の〈指揮車〉に乗っている者が〈指揮〉を出しているわけではない。

 指揮車にいるのは出発前にテレビを見ていた中年男性だ。数個の小さなモニターを忙しく見ている。


 人型の物体がおもむろに荷台から降り、前方の壊れた車に向かって歩き出した。機銃を内蔵した右腕を突き出して、そのまま車両に油断なく向けながら近づいていく。


 サトウは大きく深呼吸した。見慣れているはずだが、キツイには変わりない。

「バンパー付近に人の頭部らしきものを確認……」

 血にまみれて性別は分からない。人型の物体はさらに車両に近づく。

「フロントガラスに直径30センチほどの穴を確認……」

 サトウの乗った機体は、突き出した右腕をフロントガラスの穴に向ける。

「確認続行します……」

 慎重にフロントガラスをのぞきこむ。フロントガラスの向こうに、首のない体が見える。

『助手席に首のない遺体……。ヌエに持っていかれたようです……。衣服から女性と思われます……。運転席には男性。男性の口には矢のようなものが刺さっています。護身用の武器ですね……。自殺を図ったようです』

「了解……」

 報告を受けたスズキから大きなため息が漏れた。


『上空から2体の飛行体接近中。こりゃヌエだ……。2分余りで接触するぞ!』

 指揮車から無線が入る。


「サトウさん、指揮車からのデータを確認。ホネクイを装備して、塩水弾による牽制射撃の準備を願います! タナカさんもキセナガに搭乗。同じ装備で!」

 それを受けて指揮担当のスズキが迅速に指示を出した。


 サトウの乗る生体甲殻機が上空に向けて右腕を突き出した。左手には槍状の武器を携えている。


 一般的な生体甲殻機の規格として、右腕の前腕部には機銃、左腕の前腕部には放水銃が内蔵されている。

 槍状の武器の通称は〈ホネクイ〉。ホネクイという名は、ぬえ伝説に登場する武器〈骨食〉《ほねくい》になぞらえたものだ。

 本来、伝説上の〈骨食〉は短刀だが、必殺兵器の意味を込めて、ある党の議員が名付け、メディアを通してこの名称が広く浸透した。


『タナカ、準備完了!』

 もう1台のトラックの荷台からも生体甲殻機が降りた。ボディーの色は、緑がかった薄水色、〈薄浅葱〉《うすあさぎ》だ。

 タナカ機は、サトウ機のやや後方に立ち、右腕を上空に突き出して迎撃姿勢をとった。


(あっ……!)

 指揮を担当するスズキが見たのは白い塊。それは、サトウ機とタナカ機が立っている背後から飛び出てきた。

 無線に手を掛けたときには、その白い塊は路肩に停めてあるトラックを飛び越えて、タナカ機の足元に背後からぶつかっていった。


 一瞬のことだった。

『キャアアアアアア!』

 女性の悲鳴が聞こえる。ヌエに足をすくわれたタナカ機からの無線だ。

「サトウ機はそのまま上空を警戒! 全車両、タナカ機を援護射撃!」

 迅速に指示を出すスズキ。その右手はすでに銃座のレバーを握っていた。

 トラックの屋根には機銃と放水銃を組み合わせた銃座が、指揮車の屋根には機銃が据えられている。


 3台の車両の屋根に据えられた銃座が一斉に白い塊に向く。倒れたタナカ機が白い塊ともみ合っている。

『自由射撃、自由射撃!』

 口火を切ったのは、スズキが乗ったトラックの銃座だった。続いて他の車両の屋根からも乾いた発砲音が聞こえてきた。閃光がほの暗い空に瞬く。


 対ヌエ用の塩水弾は、生体甲殻機キセナガの装甲を貫通することはないが、関節など装甲のない部分は破壊される可能性がある。これは、やむを得ない処置だった。

 この時代、ヌエには、濃度の高い塩水が有効だということが知られていた。

 〈塩水弾〉は、非常に質量の大きい生体物質でできている。これがヌエの体内に入ると溶けて、この白い怪物、ヌエを死に至らしめる。ただし、非常に時間のかかる遅効性の武器だ。

 一方、槍状の武器〈ホネクイ〉の先端は鋭利なつくりで、しかも対象物の体を貫通しない仕組みになっている。

 さらに先端には小さな穴が施されていて、そこから高濃度の塩水を大量に注入することが可能だ。塩水弾とは対照的に非常に即効性のある武器である。


 われわれの世界でいうところの通常兵器のほとんどは、ヌエに通用しない。現在判明しているヌエ撃退手段として有効なものは高濃度の塩水だけだ。


 発砲を受けたヌエが素早くタナカ機の背中から飛び退き、距離を取って、再びタナカ機に向かってくる。

 倒れていたタナカ機は体を横に起こし、左手で握っていたホネクイに右手を添えて突く。

〈ピキイイイイイ!!!!!!〉

 悲鳴を発するヌエ。その首にはタナカ機のホネクイが刺さった。


『くっ……!』

 その直後、指揮車に乗っている中年男性の声が無線から入ってきた。タナカ機がヌエを仕留めたのとほぼ同時に、藪から飛び出てきたもう1匹のヌエが指揮車を襲ったのだった。


〈タタタタタタン……、タタタタタタン……〉

 乾いた破裂音が聞こえてくる。サトウ機が牽制射撃を行っているようだ。

 しかし、標的は指揮車を襲うヌエではない。上空から飛来してくる2体のヌエだ。


『タナカさん! こっち、こっち!!』

 指揮車の男からの無線。

「えっ……?」

 タナカが指揮車の辺りに目をやると、ヌエがさらに1匹増えていた。

 地上に2匹、上空に2匹、計4匹のヌエ。特に上空にいるヌエは大型の固体だ。


「イトウさん! タカハシさんを援護!」

 スズキの鋭い指示が飛ぶ。

 イトウは、もう1台のトラックに乗っている男性だ。


 それと同時に、スズキはあるボタンを押した。

 州軍に救援を求める救難信号だ。

 高出力で軍が使用しているものと同じ規格と性能を有している。


「了解!」

 イトウの乗るトラックの銃座が火を噴く。

「いっくぞおおおおおお」

 タナカ機が、ホネクイを構えたまま、猛スピードで1匹に駆け寄る。

「サトウさん、上空の2体を地上に近づけないで! こちらも援護する!」

 スズキは銃座のレバーを引きながら、さらに次の指示を出す。

「タカハシさん、周囲の状況は!?」

「タナカ機が2体と格闘中! 車両は異常なし!」

 無線の向こう側から、周囲から、あらゆる方向から銃声が重なって聞こえてくる。

「ちっとも退かないぞ! こいつら!!」

 イトウの怒号を聞いて、スズキが次の指示を出す。

「イトウさん! 接近して放水!!」

 スズキの指示が飛ぶ。


 タナカ機と指揮車を囲む2匹のヌエ。翼を動かし、浮遊しながら、タナカ機と間合いを取っている。

 タナカ機が1匹に迫ればふわりと遠のき、もう1匹がタナカ機の死角から襲ってこようとする。

 タナカ機はホネクイを振り回すしかない。


〈――安全を期すため、特定生命体、いわゆるヌエ1匹に対し、少なくとも2機ないしそれ以上の生体甲殻機をもって対処することが望ましい〉

 これは、政府が民間の委託企業に対して定めた〈特定生命体駆除に関する指針〉の一文だ。

 また、軍隊がヌエの駆除を行う場合は、対象のヌエの数も規模も異なるが、きちんとした隊形を組んで行っている。つまり、今ヌエに取り囲まれている彼らの業務は、本来、このような状況を想定していない。最悪の状況にあるのだった。


 1匹との間合いを詰めるタナカ機。ホネクイを突くために踏み込もうとしたそのとき、もう1匹の鋭い尾がタナカ機の右足を突き刺した。

 バランスを崩すタナカ機。尾の先が装甲板の間に入り込んでいる。

『タナカ!!』

 指揮車のタカハシの無線だ。スピーカーが割れるほどの音で聞こえてくる。


 タナカ機と2匹のヌエ、指揮車の射程距離まで移動したイトウ車が放水を始めた。

 2匹は高濃度の塩水を浴びた。タナカ機に気を取られていたためだ。2匹の動きが鈍る。


 タナカ機の右足に刺さっていた尾が抜け、そこから生体甲殻機の血液が噴き出す。


 スズキの耳はタカハシやイトウから入る無線に、スズキの目はホネクイを振り回すサトウ機に集中していた。

「サトウ機が別の2体と交戦! タカハシさんほかは、そっちの2体に集中して!」

 指揮を出すスズキに、気の休まる時間は一瞬たりともない。


 タナカ機は、弱ったヌエ2匹を続けざまにホネクイで仕留めた。

「ふう……」

 大きな息が漏れる……。

 タナカ機の右足の出血はほぼ止まっていた。

 ヘルメットのモニターに映るのは、東の山から差し込む青白い光。

 まもなく夜が明けそうだ。


『タナカさん! サトウさんを支援!』

 スズキの無線にわれに返ったタナカは、牽制射撃を行いながら、サトウ機のもとへ駆け寄った。機械とはいえ、痛めた右足の動きが痛々しい。


 サトウ機は2匹を相手にホネクイを繰り返し振り回している。その姿は、ヌエを倒すというより、追い払っているようにしか見えない。そこにタナカ機が近づく。


 ホネクイを振り回すサトウ機。そのホネクイをかわすようにして回り込むタナカ機。

「やああああああああああああ!」

 体重をかけたタナカ機の右足の傷口から再び血が噴き出す。

〈ピキイイイイイ!!!!!!〉

 ヌエの断末魔が山にこだまする……。

 サトウ機の背後に回りこんだタナカ機が、1匹に一撃を加えたのだった。

 タナカ機は、そのままバランスを失い、前のめりになって倒れ込んだ。


「おお……」

 指揮車にいたタカハシが声を漏らした。


 仲間のヌエの悲鳴に一瞬気を取られたもう1匹のヌエ。

 サトウ機がその尾を左手でつかむ。

 つかんだ次の瞬間、右手のホネクイを突き立てた。


 わずか数分に満たない出来事だが、5人には〈数十分〉にも感じた。


「イトウさん、念のために全部の死体に放水しておいてくれる?」

「あっ……。水、もう、残ってないっすよ」

「……了解。じゃあ、私がまく……。イトウさんは、銃座の弾薬を補給して、強化服の着用をお願い。高橋さんは引き続き周囲を警戒。タナカさんはキセナガを荷台に載せたら降機。降りるときは周りに気を付けて……。サトウさん、タナカ機の足の応急処置をお願いね……」

 後処理の指示を一通り出すと、スズキは、ハンドルを握って自分の車両を移動させ、ヌエの死体に塩水をまき始めた。


(ヌエとは、まさにいい得て妙……。まったく……)

 スズキは思った。


 体長10メートル前後のものが2匹、体長5~6メートルくらいのものが3匹。

 その目測は尾を除いた長さだ。

 長い尾も含めれば倍くらいの大きさになる。


 10メートルのヌエが四足で立った状態なら、体高は5~6メートル余りになるだろうか。

 体の大きさには個体差がある。

 小さなもので体高わずか1.5メートル、大きなものでは体高8メートルの個体が過去に確認されている。

 特に近年では大型の個体が数多く出現している。


 一見すると、翼の生えた巨大なネコ科の動物のような姿。

 しかし、よく見てみると違う。

 ヒヒのような白い頭と長いたてがみ。

 海外では〈ライオンの頭〉と形容する人もいる。


 そして白い身体にはトラのような縞模様。


 細長い尾はまだら模様で、確かに蛇のようにも見える。

 その尾の長さは体長以上だ。

 尾の先にはクナイの先端のようにとがった突起物がある。

 タナカ機の右足に刺さったのはこの部分だ。


 力なく開いた口の中からは鋭い牙が何本ものぞいている。

 犬歯のようなものはない。

 哺乳類の歯というより、肉食恐竜の歯と形容したほうがいい。


 前足にも後ろ足にも鋭い爪があり、自在に出し入れが可能だ。


 また、肛門はあるが、生殖器はない。

 それがこの生き物の大きな特徴であり、謎のひとつだ。


 さらに、大きな特徴がもうひとつある。

 翼だ。コウモリのような翼で、色は白く、細かい毛が生えている。


 ファンタジーゲームに出てくるモンスターを想像するといいだろう。

 諸外国でもその国の伝説や民話にちなんだ怪物や妖怪の名前で呼ばれているらしい。

 国際的な名称は〈chimera〉だが、日本語読みで〈キメラ〉と発音しても、海外では通じないらしい。


 ……やがて、数台の車両が、朝日に黄色く照らされながら、道の向こうからやってきた。

 武州軍の小隊だ。


「キセナガ2機でヌエ5体……。災難でしたな……」

 強化服を着た部隊長が運転席にいるスズキに言った。

「しかし、危なかったでしょう。危機一髪でしたな。想像つきますよ。怪我人が出なくて本当によかった」

 スズキは、その言葉を無言で受け止め、代わりに質問をした。

「この先の道を進みたいんですけど……。何か情報あります?」

「もしかして、奥多摩ダムの警備に行く人? 奥多摩はねえ、さっき連絡が入って、ヌエが取り付いちゃっているらしい……。今、警備の民間会社が対応していて、ウチの別の部隊がヌエを〈はがし〉に向かっているよ」

 隊長は答えた。その眼は、朝日にくっきりと照らされた西の山々に注がれていた。


 隊長の無線からは、慌ただしい口調で隊員たちが取り交わす連絡が聞こえてくる。


 スズキの無線にも連絡が入った。

『タカハシだけど、警備は中止だって……。今、お客さんから本社に連絡が入って……』

「うん、今、隊長さんから聞いた……。そう……。了解……」

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