月影の陽向
いつもの如く何をするでもなく無気力にしていたら、やけに浮かれている地球がやってきた。
「よ!今回もばっちり見たぜー!相変わらずいい仕事するよなぁ、お前」
「………何の話だ」
最近こいつはテンション妙に高くてうっとおしい。どうでもいいがこいつが興奮すると気温が上がるから、地球上の生き物のためにも自重した方がいいんじゃないのか。
「何って金環日蝕のことだよ。今日もすげぇ綺麗に見えた」
肩をばしばしと叩いてくる地球にうんざりする。
「はぁ……そんなもの珍しくもないだろう、お前からしてみれば。それなのに毎回毎回…」
疲れないのかこいつは……
「ばっかだな~、こういうのは一期一会だろうが!似たような現象は一杯あるけど、おんなじもんは二度と見れないんだぜ?しっかり見て、楽しまなきゃ、損だろうがよ」
俺の肩に手を回して、地球が大きなため息をついた。ため息を吐きたいのは俺の方だ。
「………お前の価値観は、どれ程経とうと理解できないな」
「っか~!冷めすぎだっての、お前!クールなのもいいけどさ、たまには馬鹿みたいに騒ぐのもいいもんだぜ」
「…………」
普段からクールの欠片もない奴に言われてもな……納得しかねる。
「シカトかよ~?……ま、いっか。無理に馬鹿騒ぎしても疲れるだけだしな」
地球はしきりに頷きながら勝手に自己完結し、俺の肩に回していた腕を外した。
その後も次から次へとどうでもいい話を延々と聞かされ、饒舌な地球にうんざりしながら適当に聞き流す。
「~でさ、…あ、太陽だ」
「…!」
ふと俺の背後に視線を流した地球が呼んだ名前に、俺は僅かだが反応してしまう。本当は今すぐ振り返ってその眩しい姿をこの瞳に灼きつけたい。けど、それをするには俺の捻くれた性根が邪魔をする。
「お、地球じゃん。今日もテンション高いな」
「まぁな、こう毎日面白いことがあればテンション下がる暇なんかないって」
地球に声を掛けられて、背後から太陽が近づいてくるのが分かった。背中に感じる彼の発する温かさを意識しただけで―――締め付けられるような想いが、込み上げる。
「お前楽しそうに生きてんなー……?月、どうした」
「!…え、……いや」
込み上げてきたものを抑え込んでいる間に、いつの間にか太陽が隣に並んでいた。その眩しすぎる存在感に内心動揺するが、そこは持ち前の固い表情筋のお蔭で顔には表れない。
「あぁ、そうだ。太陽も今日はお疲れ!きれいだったぜ~金環日蝕!」
「労いどーも。っても俺別に何もしてねーけど」
「分かってねーな~。偶然だから余計感動できんだろ?」
「そんなもんか?」
「そうさ!」
太陽が来たことで地球の標的が反応の薄い俺から彼に移る。地球が振る話題に太陽が笑って相槌を打ち、太陽が広げた話に地球が感心を示す。そんな二人を冷えた目で眺めながら、俺はただ無言で見守る。
俺は例外を除いてどんなものにも興味が持てない。地球のように豊かな大地もなければ、太陽のように他者を照らす輝きもない。俺にあるのは岩石と金属からなる歪な大地と、とうの昔に活動を止め冷えてしまった内部だけだ。他者を惹きつける|魅力(磁場)もなく、誰かを潤すことも出来ず、何かを生かすこともままならない。ただただ、温度が失われた光を落として為されるがままにぼうっと|生き(回っ)ている。
自らが何も持っていないことに、本来なら嘆くべきなのかもしれない。けれども、大地とともに心まで渇いてしまった俺は、自分にですら興味が持てないのだ。どんなことに対してもリアクションしない俺に、地球はよくクールだとか何だとか評価を下すが、何と言うことはない。クールなんかじゃなくて、感情の熱が乏しいのだ。冷めきった心に僅かなりとも残っている熱情も――――彼への想いを、温めるだけで精一杯だ。
「………なんだ?」
ふと視線を感じて迷走していた思考を引き戻せば、地球が何故か会話に参加していない俺を見ていた。見られている意味が分からなくて怪訝な顔で聞けば、小さくため息を吐かれる。………本当に、意味が分からない。
「ったく無自覚かよ……」
「どうした?月が何かしたか?」
太陽もわけが分からないと首を傾げ地球に疑問を投げる。地球は小さく肩を竦めて、苦笑のような呆れのような何とも言えない顔で笑った。
「何でもねー。……じゃ、俺そろそろ行くわ。馬に蹴られるのはゴメンだからな」
「?」
「は?」
勝手に完結してしまった地球に俺も太陽も戸惑いを隠せない。
「それじゃ、仲良くなお二人さん」
「あ、おい…!」
引き留める太陽の声も気にせず、地球が俺たちから去っていく。追いかける理由も特にないので、太陽と並んだまま立ち尽くす。
………そういえば、太陽は何しに来たんだ。
「……太陽」
「ん?なんだよ」
「…何しにきた」
言ってからしまったと思った。来訪の理由を訊くにしても、今の聞き方は如何にも来て欲しくなかったように聞こえる。そんなつもりは、ないのに。
「ご挨拶だな~。理由がなくちゃ、仲間に会いに来ちゃいけないのか?」
「そんなことは……」
からかうような太陽の口調に、気分を害してはいないのだと分かり、一先ずほっとした。
先の失言を取り繕うために、俺は必死に言葉を選ぶ。
「そんなつもりではなくて……ただ、何か用があったのではと。もし、それが地球への用事なら、…俺なんかに構ってないで、追った方が」
「別に用なんかないけど?」
「…そ、そうか」
俺の言葉を遮って目を合わせてきた太陽に、折角選んだ言葉がもつれてしまい、かろうじて相槌を返すことしかできなかった。
まっすぐに覗き込んでくる太陽の眩しさに耐えられなくて視線を泳がす俺に、太陽が俺には決して真似できない温かい笑いを向ける。
「仲間…って言ったのが気にかかる?」
「…?」
それは、惑星ですらない俺は……仲間としてすら認めてもらえないということか。
「あーあー、お前またネガティブな方向に解釈してるだろ」
「!」
図星をさされて太陽の顔を見れずに俯く。
黙して俯いてしまった俺の頬に太陽が両手を添え、ゆっくりと上げさせられる。逆らわず顔を上げるが未だ目を合わせようとしない俺に、太陽は落ち着かせるように額を合わせてきた。
「確かに用はないけど、お前に会いに来たんだよ」
「……なん」
なんで、と訊こうとしたが、呆れた太陽の柔らかい声に遮られる。
「おいおい…理由なんてそれこそ野暮だろ―――恋人に会うのに、口実なんかいらないだろ?」
「あ……」
囁かれた言葉に、咄嗟に返す言葉が見つからない。
二の句が継げず無意味に口を開閉してしまう。普通なら赤面しているくらい動揺をしているが、熱のない俺は赤くなるどころか青白い顔で冷たい汗を一筋流した。
「ははは、すっごく動揺してる?」
「っ……」
冷や汗を流しただけでほとんど表情は動いていないのに、太陽は正確に俺の心情を言い当ててくる。
「ぁ、の……太陽、…ち…近い、んだが」
「そうだな」
そう言いつつ、太陽が俺から離れる気配がない。額を合わせたまま動揺している俺が面白いのか太陽が楽しそうに笑う。楽しそうなのはいいが、この距離で笑われると吐息が顔に当たって………困る。
太陽が俺の様子を観察して楽しんでいるのは分かっているけれど、与えられる熱が離れてしまうのも嫌で自分から動けない。ぐるぐると同じとこを巡って空回りしている思考。同じ軌道上を巡るのなんて……体だけで十分だ。
「つ~き」
「…なんだ」
合わせていた額をずらして太陽が俺にすり寄ってきた。俺の頬に唇を掠め首筋に鼻梁を埋め、笑い混じりの吐息が冷たい肌を泡立たせる。
「…っ、……く、すぐったい」
「冷たいよな、お前の肌」
「…太陽からしたら、大抵の奴は冷たい」
「まぁそうなんだけどさ。………月の冷たさは、触ってて気持ちいい」
「……そうか」
満足そうに俺の肩口に顔を埋めてくすくすと笑う。俺の頭を抱えるように抱き締めている太陽に我慢が出来ず、俺もおずおずとその温かい背中に腕を回す。腕から伝わる熱が俺とは比べ物にならないくらい温かくて、縋り付いてしまいたくなり自然と手に力がこもる。
「……っ?!…なに、を」
太陽の熱に浸っていたら、いきなり首筋に歯を立てられた。驚いて背に回していた手を離し、俺たちの間に隙間が出来る。……太陽が何をしたいのか分からない。
「ちょっと腹が立って」
「……すまない…?」
太陽の機嫌を損ねた原因に思い至れない。
分からないままに謝罪を述べれば、今度は呆れたような困ったような顔で太陽が俺に凭れてきた。
「謝るとこじゃないって。……月のことは愛してるけどさ、その卑屈さは少しめんどくさい」
「………すまない」
不意打ちで言われた愛の言葉と欠点を指摘してくる遠慮のない言葉に、喜べばいいのか落ち込めばいいのか。口癖のように謝ってしまい、太陽の責める視線が突き刺さる。
「あーやーまーんーなっての」
「…………」
いよいよ口にできる言葉がなくなり、唇を引き結んで、凭れて覗き込んでいる太陽から顔を逸らした。
「……お前、分かってないよ」
「…そうだな」
否定することのできない自分に、もはや嘆く気持ちも湧いてこない。渇いた大地は太陽の光を跳ね返すだけで、そこに込められたものを吸収できない。俺の冷え切った心では、温度の違いすぎる太陽の気持ちが推し量れない。何度言われても―――愛されている理由が、分からないんだ。
「俺は、何も分からない。太陽が何に怒っているのか、何に悲しんでいるのか、何に喜んでいるのか、―――何で、俺なんかを愛してくれるのか……何もっ、…何も分からない」
冷えた自分を諦観してしまった俺に柔らかい太陽の声が語りかけてくる。
「月はさ、分かってるけど分かってないんだ」
「?」
謎かけの様な言葉に俺は逸らしていた顔を太陽に戻す。凭れている太陽を覗き込めば、声と同様、その顔はひどく優しげなものだった。
「俺がさっき、少し怒ったのは…月がもっと求めてこないから。お前に会いに来たってのに、「地球を追わなくていいのか?」なぁんて訊いてくるわ、こんな傍にいんのに自分からは触ってこないわ、言うにことかいて「近いんだが」ってお前なぁ……月の無表情っぷりは慣れてるし、何考えてるのかも分かるようにはなったけどさ、………流石に返されるものが少ないと俺でも不安になるんだよ」
「…すまない」
反射的に謝ってしまうと、太陽が吹きだすように笑いを漏らした。
「ぷ、はは…ここでも謝るのか?……じゃなくてさ。そうやって一人で勝手に不安になって、誤魔化すために擦り寄ってたら………すっげぇ優しく抱き返してくれるんだもんなぁ。不安になってた自分が馬鹿みたいで、それに少し腹が立った」
「八つ当たりしたんだよ」と気まずそうに俺に顔を押し付けて、さっき噛まれたとこを労わりのこもった舌で舐められる。
「っ…太、陽」
「なのに俺より先にお前が謝ってくるからさ……なんでそこまで自分の悪い方に取るんだよ!…って無性にムカついた」
噛みつかれた部分は多分、薄く歯型がついている。太陽の舌がそれをなぞるように動いた後、音を立ててキスが落とされる。……優しい仕草に俺の中の熱が上がり、無意識に喉が鳴った。
「なぁ、月」
「……なんだ」
「お前がネガティブ思考なのは知ってるからもういいんだけどさ、あんまり卑屈になりすぎないでくれよ」
「…それ、は」
無理だ、と続けてしまいそうになった口を慌ててつぐむ。
何もない自分に俺は自信なんて持てない。独りきりなら何も感じなかったかもしれないが、俺はこうして個性豊かな仲間に囲まれている。その中で一際輝いている奴に、愛を囁かれているのだ。嬉しくて堪らない反面、戸惑いを隠せず釣り合わない自分自身に嫌気が増す。
「お願いだ…俺の好きな奴を、貶めるのはやめてくれ」
「!」
切実な思いを孕んだ太陽の呟きに、息の根が詰まる。何か言葉を返したいのに、何も返せない自分がもどかしい。
太陽の愛情を信じていないわけじゃないんだ。俺はただ、自分が信じられない。太陽が俺の何を愛してるのか、どこを好きになってくれたのか、分かっているのに――分からない。愛されている自分ですら信じられない俺は、愛されている理由を理解することが出来ない。
「俺、は……俺を信じることが、できない」
遠まわしに太陽の願いには答えられないと伝えると、太陽が少し寂しそうな笑顔を俺に向けた。
「知ってる」
………そんな顔をさせたかったんじゃないのに。
「お前は嫌ってるけど、俺は月の体、嫌いじゃない。さらさらしてて気持ちいい。その無表情な顔もお前らしくていいよ。…ま、たまに不安になるけどさ、その分ちょっとでも表情が変わるとすっげぇ嬉しくなる」
凭れているだけだった太陽が俺の背に腕を回して抱きついてくる。俺も誘われるように抱き寄せて、空いていた俺たちの隙間が埋まった。
「お前自身を貶めるのはやめて欲しいけどさ、月の後ろ向きな性格だって嫌いじゃない。俺は自由人で何でも自分の思うように動いてしまうから、色々と立ち止まって考えてしまう月の目線は貴重なんだ。お前はその慎重さを臆病だって、冷静さを冷たいって思うんだろうけどさ……俺はそれがお前の優しさなんだと思う」
惜しみなく与えられる言葉に、抱き締める腕が力を込める。
「っ……、でさ、お前自分のこと歪で魅力なんかないって言ってるけど」
俺が手加減なしで抱き締めているせいで、太陽が少し息苦しそうに息をつめた。それでも、彼は腕から逃げずに喋りつづける。
「俺の光を反射して輝く月は―――すごく綺麗だ。お前が歪だと思ってる部分が綺麗な模様になってて、俺の何もかも照らし出しちまうようなギラギラした光じゃなくて、お前の反射する光はどんなもんでも包み込んでくれるようなふわふわした光なんだよ。……月光はお前の優しさ、そのものだ」
「太陽……」
ここまで言われても、俺は自分の良さを信じることなんてできない。
「すまない……どんなに言葉を重ねてもらっても、俺は俺を信じられないんだ」
例え、今この一瞬は信じれたとしても、その情熱を保つことは無理だ。俺の中にある情熱は全てが太陽を想うことに注がれていて、他の熱を保ち続けることなんてできるほど熱くも大きくもない。矮小な自分が、本当に惨めだ。
「いいさ。俺がお前に言いたいだけ」
与えてくれた言葉を片っ端から無に帰した俺を、笑って受け入れてくれる彼が―――どうしようもなく愛しい。
「…太陽」
「うん」
陽だまりの香りがする太陽の髪に顔を寄せて彼の名前を呼ぶと、くすぐったそうな返事が鼓膜を震わせる。
「太陽……太陽っ…」
「うん」
許容を超えた愛しさに、まともな言葉なんて出るはずもなくて。
でも、黙っていることもできなくて。
ひたすらに、愛しい名前を舌に乗せる。
「太陽…、好きだ……太陽」
「うん。……うん、…はは、ヤバいな」
「なにが、ヤバいんだ…?……俺に、好かれるのは…嫌か?」
「違うって」
「すまない……でも、嫌がられても…俺はお前が好きだ。…俺の中にある、他の全てが熱を失くしても………この熱だけは、冷めないんだ」
ままならないこの熱の置き場に困って、正直消してしまおうと思ったこともある。実際、消そうとしたこともある。…けれど、何をしても、どうあっても、この熱は消えてくれなかった。
「太陽が好きだ。…好きで、どうしようもなくて……こんな暗い熱、消してしまおうとしたけど…消し方がずっと分からない。…だから、分かったんだ――消し方なんて、ない」
「っ~!…おっまえなぁ!」
「…!?」
太陽がいきなり声を荒げたかと思うと、がばっと襲いかかるようなキスを仕掛けてきた。
「ん、は…っ……、ぁ」
「…?、ぅ……っ」
突然のことに目を白黒させている俺に構わず、太陽の舌が入ってくる。熱い。俺の体温が低いせいもあるが、太陽の舌は慄きそうなほど熱い。絡まってくる熱に、驚きで縮こまっていた俺の舌が徐々に溶かされていく。
「ふ、…!…む…、んっ…」
「っ……、は…、………」
舌の緊張が解されていく内に俺も浮かされたように太陽とのキスを貪り、いつの間にか主導権を奪い取っていた。
存分に貪り合った後、最後に太陽の唇を一舐めして離れる。
「……どうした?」
「っは、…ん……お前、卑怯だろ」
後半は俺に吐息を奪われていたせいで、太陽は息をきらしていた。太陽の息が整うのを待ちながら、その背中をゆっくりと撫ぜる。
「普段は好きって言葉もあんまり言ってくないくせに、たまにこうやって情熱的な告白してきてさ………お前、今の自分がどんな目してるか分かってる?」
「分からない…教えてくれ」
太陽の指が俺の眦に添えられ、目の下を優しくなぞられた。
「俺でも火傷しそうなくらい―――熱く潤んでる」
「……そうか」
比喩だとしても、太陽を火傷させそうな熱が自分の中にあったことに、驚きを隠せない。
「あーもう、本当に卑怯だ」
「す、すまない」
太陽がぎゅうぎゅうとこちらに体を預けてくる。俺より太陽の方が体格がいいから、体勢的に少し辛いが……これが太陽の重みなんだと思えば、愛しさしか湧いてこない。
「こんな視線注がれて、熱烈な告白されて……不意打ちだ。照れるだろがっ」
こっそり覗き込んでみれば太陽の頬が薄赤く染まっている。珍しい表情に俺の熱も煽られた。
「太陽」
「なに」
「可愛い」
「おまっ!……このやろー、無表情のくせになんで目と声だけはそんな熱っぽいんだよ」
照れ隠しなのか、太陽が怒りを装って俺の耳を引っ張る。
「俺の熱は、太陽の熱だ」
耳に当てられた手を掴んで、俺の手を絡める。
「もし、俺の孕んだ熱を熱いと感じてくれるなら、それは太陽が俺に注いでくれた熱だ。俺の輝きを綺麗だと言ってくれるなら、それは太陽が俺に与えてくれた光だ」
「っ~、……だから!ハズいっての!」
いよいよ太陽の顔が真っ赤に染まっていき、羞恥に耐えられず太陽が顔を隠そうとする。だが、俺は指を絡ませた太陽の腕を解放せずに、珍しい光景をじっくりと見つめた。
「見んなよ…それか手、離せって」
「でも、見たい。……駄目か?」
「タっチ悪いな…!」
俺の拘束から逃げるのを諦めて、最後の手段とばかりに太陽が俺の肩口に顔を押し付けて隠してしまう。……太陽の照れた顔を見れなくなって残念だが、これ以上やると機嫌を損ねてしまいそうなので大人しく肩を貸す。
「……月」
「なんだ」
しばらくそのままでいると、くぐもった声で名を呼ばれた。肩にあたる太陽の頬はいつもより熱く、まだ顔の赤みが引いていないのだと分かる。
「俺も、大好きだ」
「っ――!」
囁かれた太陽の言葉は、今日感じたどんな熱よりも熱かった。
……卑怯なのは、どちらだ。
END
オチなんかない。
書くことになったきっかけは金環日蝕ですが、金環日蝕とはまるで関係ない話になりました。
念のため言っておくと月×太陽です。月×太陽です。月×太陽です!
(大事なことなので三回言いry
イメージとしては月が170㎝後半で線は細くないけど痩せ型、太陽が180㎝前半で余計な筋肉も余分な肉もない均整の取れた体型。身長差は多分、顔半分かそれより気持ち月が低いくらい。ヘタレ攻めというより卑屈攻め。卑屈過ぎてヤンデレに発展できないのがミソです。
地球のキャラがおちゃらけているのは仕様です。白状すると、あいつが一番書きやすかった。みんなの間をウロチョロしながら、ちょっかいかけつつ見守るのが地球の役目です。
擬人化初めて書きましたが、これじゃない感半端ない。もう言い訳も思いつきません。背景も設定も何も考えずに、自分の持ってるイメージだけを頼りに書いてしまったんで、もはや擬人化とは呼べない気がするのはきっと気のせいじゃない。