ほんのちょこっと
シャーペンの字を綴る音と、少しかすれ気味の低いテノールが響かせる科学的な単語が教室内を支配した。
室内に綺麗に並べられた机と椅子に生徒たちは猫背気味に座り、首を前へ向けたり手元へ向けたり突っ伏して目を閉じてみたり。
ロボットみたいに同じ動作を繰り返す皆の真ん中あたり。廊下から三列目の前から二番目。そこが私の席だ。
高校に上がってからというもの、一年の頃は普通科と特進科とおおまかにしかわけていなかったクラスわけは大きく変わり、高校二年になった今、私のまわりに座るクラスメイトたちは、皆、理系のクラスを選んだ人間ばかり。
「(なんでコッチ選んだんだろう)」
カツカツとリズムよく鳴るチョークの音がわずかに速くなって、私はノートをとることを諦めると、あからさまに頬杖をついて前を見つめた。
教科書を右手に、左手にはチョークを持って、少しよれた白衣をはおる先生は、漫画から出てきたみたいな理科の先生。あ、裾汚れてる。
白衣の下は白衣より明るい白のワイシャツ。ボタンを一つだけあけて、黒のネクタイを締めている。ズボンはネクタイ同様黒のスラックス。スリッパはチェス板みたいな柄をしていて、実は密かにあのデザインを狙っている。
どれも素っ気なくて有名衣服チェーン店か何かで買った大量生産物のハズなのに(しかもくたびれている)、女の子たちに騒がれるのは190もある身長のせいだろうか。
「ここ、テストに出るからな」
淡々と授業を進める先生と目があった。
授業受けろよ、みたいな顔。
怒るというより呆れてるみたいな、そんな顔。
なんでこんな先生がモテるのか意味わからない。
特別お洒落じゃないし、ただの背高のっぽだし、授業は意味わからないし。(単純に私が科学が嫌いなのもあるが)
いつか、友達が言っていたことをふと思い出した。
「先生って、ヘビースモーカーだから、すれ違った時とか、ふわっと香水にまじってタバコの臭いがするの!」
「…で?」
「しかも、メガネかけてるんだけど、ちょっとした時に外して目頭押さえてるとことか…っていうかメガネを外すのがイイっていうか!」
「だから?」
「しかもちょっとだけ顎鬚があるじゃない?大人ーって思わない!?」
「…別に……」
要するに、煙草と香水の混じった香りのする、メガネの、顎鬚がモテるってことか。
そこまで考えて、それって、女子高校生だからこその憧れなのでは?と疑問が浮かぶ。
完全に大人に幻想抱いて夢見てるだけじゃね?
思考は完全に授業から大脱線。
途端に衝撃を受けた頭。バコンっていい音しましたけど。
「上の空になってんじゃねーよ」
「うわ、先生ひどい。バカになっちゃう」
「安心しろ。底辺の人間はそれ以上落ちることはねぇよ」
なんてひどい先生だ!
心内で愚痴をこぼす。
先生は私の頭を叩いた教科書を片手に黒板の前へと戻る。
わざわざ来るほどアホ面でもしていたのだろうか…。それだったらかなり恥ずかしい。
仕方がないのでノートをとろうかと先ほど放棄したノートとシャーペンに視線を戻すと、一枚の紙切れ。
ノートの切れ端で作られた、そのパッと見ゴミみたいな紙は二つ折りになっていた。
あけて見ると、中には簡潔に「七時頃行く。着替えておけ」
書かれた内容を頭の中で整理して、中身を飲み込むと、コレを置いていったであろう人間に目をやる。
そいつは、目を細めて小さくほんのちょこっと口端を持ち上げた。
ほんのちょこっと
なんでこんな男に私は落ちたんだろうか。
追いつきそうもない板書をとりながら、私は男の行った大学を受けるがためだけに理系を選んだ自分に問いかけた。
国公立の大学を受験するなら二年の時理系履修すなあかんって担任に言われて突発的に書きました(汗)
完全にまとまらなかったです。不完全燃焼。
いつか書き直すと思います…。
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