7 五人目の幸福
――その後。
両親や祖父には驚かれはしたが、アデルくんと私は無事に婚約することになった。
これまでの経緯から、私のことで気を揉んでいた両親は、ずいぶんと安堵してくれて……。
気を張っていた私としては、拍子抜けしたくらいだ。
そして――これからのことで、忙しくしていたとき。
柔らかな風の吹く穏やかな午後。
休日のアデルくんと一緒にロラン家に帰宅すると、何やら屋敷の前が妙に騒がしい。
「誰だよ、お前!」
「お前こそ、誰だよ!?」
数人の男性が集まって、何やら揉めているようだが……って、うわ……オスカー様とエドマンド様とフィリクス様とジーン様……!?
「俺は、ララティナに会いに来たんだ!」
「ぼくもだよ!」
「私もだ!」
……あ〜完全に忘れてた……。そういえば、会いに来るとか言っていたなぁ、あの人たち。
いや。それよりも、こんな一斉に集まることある? すごくない? こちらとしては、手間が省けて有難いけども……。
私は大きく息を吐いてから、彼らに声を掛けた。
「――あら。皆さま、お揃いでどうなさいましたの?」
「「「ララティナ!!」」」
彼らが同時に私の方へと振り返る。圧が強い。
「ララティナ! なんなんだ、この男たちは!?」
「私は、彼女の元婚約者だ! 今日は彼女とやり直すつもりで、ここに来ているんだ! 邪魔をしないでくれないか!?」
「はあ!? ぼくもそうなんだけど!? 邪魔はそっちだろ! もう帰えんなよ!」
「俺だって、そうだよ! 帰るのは、あんたらの方だろ! ――ねぇ、優しくて賢いララティナ。君は俺を選ぶんだよね? 恥ずかしがらなくても、大丈夫。遠慮せずに、俺の胸に飛び込んでおいで! 思いっきり受け止めてあげるから!」
「ララティナとやり直すのは、この俺だ! 外野は引っ込んでいろ!! ほら、早く返事を聞かせろ。俺の手を取れよ、ララティナ」
「ララティナ……ぼくの運命の人。もう一度、ぼくとやり直そう? いつだって、ぼくの気持ちは君にあったはずなのに……気付くのが遅くなってごてんね? 次は、絶対に後悔なんてさせないから! だから、ぼくを選んでよ!」
「……君の元婚約者っていうのは、どれもこれもロクでもないな。まあ私も、人のことを言えたものではないが……。しかし、前回の反省を踏まえて今度こそ、君を大切にすると約束する。……私とやり直そう、ララティナ!」
「ララティナ、どうか俺を!!」
「俺を!!」
「ぼくを!!」
「私を!!」
「「「選んでくれ!!」」」
四人の声が、綺麗に重なった。
こんなに必死になるのなら、浮気やモラハラや、真実の愛に目覚めたり他の女性ばかり大切にしたりしなければ良かったのに……と呆れる。
強いて言うなら、ジーン様が一番マシなことを言っているのかもしれない……だからといって、彼を受け入れるなんて、ありえないけれど。
小さく息を吐くと、私は皆さんに笑顔を見せる。
「――申し訳ございませんが、全員お断りいたします」
私は彼らに見せつけるように、隣にいるアデルくんに腕を絡めた。
「私、彼と婚約いたしましたの」
「「「は???」」」
呆然とする彼らを無視して、私はアデルくんと目を合わせて微笑み合う。
「そ、そんな……」
「ララティナ……? 嘘だろ? 嘘だと言ってくれ!!」
「そんなガキの、どこがいいんだ!?」
頭を抱えたり、膝を付いたりと忙しそうな彼らにもう一度視線を向ける。
「どこって……全てですわ。アデルくんは浮気やモラハラなんて絶対にいたしませんし、真実の愛を見付けたなどと宣ったり、私以外の誰かを優先して可愛いがるなんてことを、断じていたしませんもの。どんなことがあろうと、必ず私の味方でいてくれた……愛しくて大切な方なんです」
ふふっと笑いかけると、元婚約者たちの愕然とする様が目に入る。
「皆さまには、感謝していますのよ。あなた方のお陰でアデルくんと、こうして結ばれることが出来たんですもの。ふふっ、皆さまという地獄を乗り越えて、私は今とても幸せです!」
ここまで静かに見守っていてくれたアデルくんが、口を開く。
「――そういうわけだから。もう二度と、僕の婚約者に近寄らないでくださいね?」
アデルくんの圧に、ぐっと言葉に詰まる四人。
「あのとき、浮気なんかしなければ……」
「あのとき、本性を見せなければ……」
「あのとき、真実の愛を間違えなかったら……」
「あのとき、最初からララティナを優先していれば……」
何かをぶつぶつと呟きながら、項垂れて帰って行く元婚約者たち。
「……ふう。何とか終わったわね」
「そうだね。――ララティナさん、これ」
アデルくんが私の左手を取ると、薬指に美しい紫色の宝石のついた指輪が嵌められる。
「……これ、は?」
「結婚指輪。ララティナさんには、僕の魔力を分け与えてるし、ある程度の安全は保証されてるんだけど……一応、これにも魔法を掛けておいたよ。何かあれば、すぐに駆けつけられるように探知機能も付けてあるから、必ず身につけておいてね?」
彼の言葉に少し驚いたあと、ふっと声を漏らしてしまう。
「ふふっ、アデルくんてば本当に過保護ねぇ。でも、すごく嬉しい。素敵な指輪をありがとう」
「過保護にもなるよ。ララティナさんは、魅力的な人だからね。さっきの奴らみたいなのが今後も現れないとは限らないでしょう?」
あんな人達は、そうそう現れないと思うが……。でも、アデルくんが私のことを想ってくるのが嬉しくて思わず頬が緩んでしまう。
(……そうだ。私からも渡さなきゃ)
私はきゅっと頬を引き締めると、仕舞ってあった小さなケースを取り出して彼に差し出す。
「じゃあ、私からも」
ケースの中には、赤紫色の宝石のついた指輪が入っていた。私は指輪を取りだとすと、彼の左手の薬指に指輪を嵌める。
「良かった、サイズはピッタリね」
「こ、れは……?」
「これと同じ。結婚指輪よ」
私が自分の薬指で輝いている指輪を見せて、ふふっと笑っていると、アデルくんに抱きしめられる。
「……ごめん。まさか、こんな……嬉しくて、どうにかなりそう。あはは」
喜んでもらえたことに安堵しながら、私も彼の背中に手を回す。
「この宝石、ララティナさんの目の色と同じだね」
「ええ。こっちの宝石は、アデルくんの目の色ね。――その指輪に特別な力は込められてはいないけど、あなたがずっとずっと幸せでありますようにって私の願いを込めておいたわ」
私は抱きしめていた腕を緩めて、至近距離でアデルくんの目を真っ直ぐに見つめながら口を開く。
「幸せになろうね、アデルくん」
満面の笑みで伝えると、アデルくんの美しい瞳に涙の膜が張られて、きらめく星々のように輝いていた。
「……うん。幸せになろうね、ララティナさん」
――暖かな日差しの中。
私たちは静かに笑い合いあうと、手を繋いで屋敷へと戻って行くのであった。
◇おわり◇
最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
ブクマや評価(↓☆)などをいただければ、とても励みになります。よろしくお願いします。




