水の都、アクアレル
アクアレルの街並みは、
学生の頃美術館で見た様な、
水彩画に似ている。
石畳の道の脇には、必ず水路があり
その上を小舟が行き来している。
人々は橋を渡り、
時には、濡れるのも気にせずに水路を歩く。
水が生活の一部なのだろう。
私は、目新しい物ばかりで
キョロキョロ目線を配らせる。
そこには、本当に人々の生活が
ある事に気づく。
水路で洗濯をする人、
水晶瓶に水をくむ人、
水面に魔法陣を浮かべ、何かを冷やしている商人。
「・・・・ゆっくりしてる街なのかな・・・」
思わず呟くと、
何か視線を感じる。
ふと前向くと、通りすがりの女性がこちらを見ている。
不思議そうな目を向けている。
また、遠くに見えている人々は
耳打ちをしながら
こちらを見ている。
「やっぱり・・・この格好かな?」
私は、スーツとパンプスのままで
この街の人々とはかけ離れた、
格好をしていた。
ローブでも、軽装でもなく
戦うような恰好でもない。
「完全に、アウトな格好だよね」
街の人々は、
露骨な態度は示さないが
好奇心と、警戒が混じった目だ。
ぐぅ~!
少しずつ張りつめていた緊張が解け、
代わりに現実的な感覚が戻ってきたらしい。
それもそのはずだ、
公園では、休んでいただけで
夜ご飯を食べてはいなかった。
しかも、その日の昼は忙しく
私は、1分チャージの
栄養ゼリーしか食べていない。
水路沿いに、小さな食堂が見える。
石造りの建物の軒先に、
木の看板が下がっている。
文字は全く違うはずなのに、
なぜか「食事処」だと分かった。
扉を開けると、
ひんやりとした空気と、水の匂い、ご飯の匂いが
漂っている。
中では、数人が食事をしていた。
「・・・・一人、いいですか?」
皆、一斉にこちらを見る。
・・・・また、この視線。
この街に、私のような恰好の人間はいない。
また、見た目だって
この町の人日は、金髪や赤髪、白髪が多い。
真っ黒の髪は
まったくといって、出会う事はなかった。
店員らしき中年の女性が
はっとした顔をして、
私を奥の席へと案内をしてくれた。
少し待って出てきた料理は
白身の魚のソテーと、
透明なスープ、
中には、水草のような野菜と
光る粒が浮かんでいる。
恐る恐る口へ運ぶ。
「・・・・美味しい!」
塩気は控えめで、
胃腸の弱っている私には
丁度良い味付けだ。
「疲れた体に・・・染みるぅ!」
私は、口に頬張りながら
食べ進める。
食べている最中も、視線が消える事はない。
しかし、珍しいものを見るように、
チラチラ見ているようだ。
食事を終え、会計をしようとした時
私は真っ青になった。
「そうだ、お金・・・・持ってなかった」
一応、食い逃げは出来ない。
お金を確認する姿を見せつつ
バックの中を見る。
・・・・そこには、使い込まれた財布があった。
入っている訳がないと思いつつ、
中身を見る。
すると、一瞬財布が光を放った。
目線を向けると、
そこには見た事のない硬貨が入っている。
私は、何事もなかった顔をして
店内の中年女性へ支払いをする。
お見せを出ると、
ふと、文字が目の前に出てきた。
【通貨交換:済み】
【基準:来訪者本人の所持金全部】
「私の所持金全部、両替されたんだ・・・」
異世界に来てまで、
財布の中身が引き継がれているとは思ってもみなかった。
「普通は、チートとか、神様がお金って準備するよね・・・」
そんな事を考えながら、
ふと前を見ると
水車のそばで子供たちが
水をあけ合って遊んでいる。
その風景はどこか、
平和で、和やかな空気だった。
パンッ!
私は、両頬を手で音が響くほど叩き
・・・・頑張れ私!
と気合を入れ直した。
この世界は、多分良いところだ!
その瞬間、
【現在地:アクアレル】
【進行状況:本日のタスク1つ消化】
【未タスク:有】
【猶予時間:残り3時間】
【※このままいくと、タスク消化まで残業有り】
どうも、私の退勤は3時間後らしい。
前に進むしか道はないのだ。
「住居可能な街に来たし、次は情報収集と安全確保を一緒にしよう!」
やっぱり、一石二鳥で進めたい気持ちが
高ぶってくる。
アドバイスに、ギルドに行けと言われていた。
完全に忘れかけていたアドバイスを思い出し、
私は、歩き始めた。
「初日から、残業は無しでしょ」




