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三題噺もどき4

八つ当たり

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくななじゅうはち。

 




 ガリ―と、頭の中で音がする。

 さもすれば、歯でも欠けたのではないかと思ってしまうような音だ。

 口の中には甘い香りが広がる。

 適当に取ったが、りんご味のものだったらしい。りんごの甘い香りと申し訳程度の酸味が口の上をすべる。

「……、」

 ついでにとでも言うように、ほんの少し錆びた鉄のような匂いがした。

 キャンディを砕くついでに、どこかを一緒に噛んだらしい。

 あまり慣れないことはするものではないな……やはりキャンディは舐めてこそ、だな。

「……」

 鼻の方まで抜けてきた血の匂いを、ほんの少し鬱陶しいと思いながら、仕事を進めていく。

 小さくマウスを動かしながら、カーソルを操作する。

 口の中に放り込んだキャンディは、粉々になるまで口の中で砕いていく。

 その度に、音が頭の中に響き、こめかみまで揺れるような感覚に襲われる。

「……」

 その度に、少しずつ、血の匂いが濃ゆくなっていく。

 あまりにも噛むのが下手すぎやしないか私。

 まぁ、そりゃ鋭いモノがあるにはあるが……軽く掠っているくらいだろうか。そこまで痛みは伴わない。分からないだけかもしれないが。

「……」

 今は、とりあえず。

 音でも血の匂いでも、何でも。

 頭の中をいっぱいにしてくれるなら、何でもいい。

 下手な思考に襲われるよりは。

 よほど。

「……」

 それなら仕事の事を考えた方が今はいいのだけど。

 そうなるとかなり集中力が上がってしまって、もう終わりかけなのだ。

 だから他の何かで思考を埋めておきたいと思って、らしくもなくキャンディを噛むなんて言う事をしている。

 以前も、口の中を盛大に噛んだので、それ以降はしていなかったのに。

「……」

 今日は朝からいやなモノを見た。

 アレは趣味も悪ければ性格も悪い。

 あの言葉よりも先にみたなら、別に何も思わなかっただろうけど。

「……」

 今朝。

 いつものように朝食を終え、少しの休憩を兼ねてテレビを見ていた。

 地元のニュースを取り扱ったローカル番組がついていたのだが。

 そこに、アレが映り込んでいたのだ。わざとかどうかは知らない。

 アレが住処にしていると言う場所の近くにある水族館で、何やらイベントがあるとかないとかでキャスターが取材をしていたのだが。

「……」

 別に、通り過ぎるくらいなら他の一般人と同じように見えただろう。むしろアレは映らないようにだってできたはずだ。もしかしたら、普通の人間には見えてなかったのだろうか。

 ―アレは、明らかに、カメラ越しに、こちらを見ていたのだ。

「……」

 にやりと。

 あの人と同じ。

 歪んだ三日月を浮かべて。

「……」

 久しぶりに悪寒が走った。

 ぞわり、背筋が凍るような感覚に襲われた。

 恐怖に似た感情と。

 忘れていたはずの、あの日々の記憶が一気に蘇ったような気がした。

「――つ」

 気付かぬうちに、唇を噛んでいた。

 口内を傷つけたそれとは違う痛みに、思わず手が止まる。

 思っていた以上に深く噛んだらしく、その先から血がこぼれる。

「……」

 口の中には入りこまず、外にこぼれるそれを、どうしたものかと。

「―ご主人」

 あぁ、しまった。タイミングが悪いな。

 もうそんな時間だったのか。

「なにしてるんですか」

「……かんだ」

 隠しようもないものは、隠さず言うしかないだろう。

「……傷は」

「分からん」

 塞がってはいるだろうが、ズキズキとした痛みは残っている。

 ついでに、口内もヒリヒリと痛みだした。

「……見せてください」

「ん」

 外に出た分はもう、衣服についてしまっている。

 ほんの少しだけ、唇に残った赤を、その袖で拭われ、傷元をさらされる。

 見やすいようにほんの少し口を開けていた。

「……中も噛んだんですか」

「中はかすり傷だ」

「……」

 呆れられた。

 残念。

「……とりあえず、服を変えて、休憩にしましょう」

「……ん」

 今度から、キャンディに八つ当たりするのはやめておこう。





「……なんで蜜柑」

「もう傷は塞がってるでしょう」

「……いじわるめ」

「何か言いましたか」














 お題:りんご・キャンディ・水族館

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