12-2.それぞれの結末ver.A
かつて自分を傷つけた男性と対峙している時、ふと頭によぎったのは、昔から知っている絵の上手な青年だった。彼はあの頃から変わらず見守ってくれている。
アルと呼ばれている青年──アレクシスはこの国の王子であった。弱者の保護活動に尽力しており、それは国民の間で評判となり、その容姿も相まって、今やアレクシスは王室の人気を下支えしている。
王子と言っても上に幾人もの兄姉がいるから、強い権力も跡目争いに絡む可能性もその気も無い。それでも権力に群がる大人は少なくないものだ。
最初は、権力には興味が無いことを示す手段として、貧しい者たちへの支援を選んだに過ぎなかった。王都を離れて施設を巡っていれば自然と権力争いから距離を取れたから。ゆえに王族として一通りの教育を受け終えた頃から、弱者救済に取り組んで来たのだった。
しかし、自分とそう年の変わらぬ子供達が過酷な境遇にいるのを見過ごせるほど、アレクシスは冷徹な人間では無かった。自分の身を守るために始めたことだったが、やがてそれは彼の中で使命へと変わっていった。
ある時、支援先の施設で、スミレ色の瞳が印象的な少女に話しかけられた。
『あなた新入り?』
『たまに出入りしてるだけだよ』
『ふーん』
それ以上、その少女は聞いてこなかった。
出会った時はまだ幼さの残る少女だったが、直接勉強を教えるようになる頃には、アルにとって彼女は特別な存在となっていた。
でも彼女はまだ16で、自身はまだ王室内の立場を確立していない不安定な身だった。
『とりあえず僕のお嫁さんになる?』
結婚しても王族の一員としての仕事はいくらでもあるし、福祉活動をするなら即戦力だ。彼女への好意を差し引いても彼女は優秀だったから、最善の道を探っていたところだった。
直球で愛を伝えるには勇気が出ず、冗談混じりに問うた。
『アルはお兄ちゃんみたいなものだもの。それにみんなのアルを独り占め出来ないでしょ』
『じゃあ、信頼できる貴族の屋敷で、独身の男性がいない安全なところを探さないとね。既婚でも好色ではダメだ。何よりセイラの能力が発揮できるところでないと』
(我ながら意気地が無かったな)
フラれるのが恐くて冗談めかしたことを、アルは後悔することになる。
あの日は、本当に迂闊だった。
普段なら必ず信頼できる相手にしか渡さないメッセージカードを孤児院の少年に預けてしまったのだ。セイラの次に優秀な少年で、下働きとは言え王宮に勤めることが決まっていたから、油断してしまった。
*
「信頼できる貴族のところで、セイラの能力が発揮できる屋敷を紹介できるんだけどどうかな?」
かつて紹介のときにアルが言っていた条件を思い出した。
「独身男性も、好色な既婚男性もいない?」
「独身男性はいるかな。でも初恋の女性のことがずっと忘れられないでいる」
「素敵だわ」
「うん。忘れようと努力したこともあったんだけどどうしても出来なくてね。でもいい加減諦めなくてはと思ったところに君が現れて、運命だと思った」
「?」
「僕はあの時からずっと君が好きだった。いなくなった間も…ずっと断っていたんだけど、公爵位を授かる話を受けることにしたんだ。セイラ、公爵夫人になってくれませんか」
そう言ってアルは、アレクシスの守護紋章がはいったシグネットリングを差し出した──
*
「なぜ かあたまは とおたまを あるとよぶの?」
「お父様はアルだからよ」
「とおたまのおなまえは あれくしすでしょう?」
「お母様にとってはいつまでもアルなの。お父様はみんなのアレクシス様だけど、アルはお母様だけのものなのよ」




