戴冠する農家
ーー僕の目は、王冠を手にこちらへやってくるギルドマスターを捉えた。
「はっ」
ベッドの上で目が覚めた。
僕は[風爪鴉]をスキルで生成した作物で倒した…はずだ。
その後の意識がない。
そしてここはノクリアさんのギルドではない。
「やっとお目覚めになられましたか。」
知らない声だ。
声の主を確かめるべく上体を起き上がらせると、そこには黒髪のメイドさんが立っていた。
「えっと…あなたは?」
「名乗るような者ではありません。それよりも、王様…いえ、ギルドマスターがお待ちです。早く支度なさってください。」
ノクリアさんの話によるとギルドマスターとやらはこの国の王族をじわじわと蝕んでいるらしい。
何か裏があるのだろうか。
まあ今考えても分かることはないだろう。
一旦考えるのをやめて、用意されている衣装に着替える。
「おぉ…」
ギルドの制服をより装飾したような豪華な衣装に袖を通す。
「そして、こちらはあなたが討伐した混沌の素材でできた武器です。私が制作させていただきました。お納めください。」
そういって渡されたのは、鋼色に光る腕甲。
手甲側には鳥の足を模した装甲があり、太陽と月のような紋章が刻まれている。
こういうのってギルドマスターから渡されるんじゃないのか。
「力を込めると左右に[風爪鴉]の爪が飛び出します。何卒どうかお使いください。それではご案内します。」
そんな謙らなくてもいいのになと思いながら左手に装着し、メイドさんに連れられ、建物の外へと出る。
四方から道が集まるラウンドアバウト、その中央の大きな広場に先ほどまでいた建物があったようだ。
円形広場の中にさらに円形に僕の倍ほどの高さの赤い幕が張られている。
空には色とりどりのバルーンが飛んでいる。
距離にして50m程先だろうか、赤い円の反対側、幕を超えるほど高い位置に陽光を受けて煌めく王座があり、男が座っている。
金色に輝く髪、そこに載る王冠、きっと鋭い目、筋骨隆々で日に焼けた肢体、真紅のマント、豪華絢爛な衣服。
いかにも勇者といった風貌だ。
隣のメイドが口を開く。
「王の前ですよ、ひれ伏してください。」
「え?国王ではなく、ギルドマスターでは…」
「ひれ伏せといっています。」
言葉と同時に膝の裏を蹴られて跪かされ、頭を掴まれ地にぶつけられる。
僕の視界は石タイルの路地の模様で埋まった。
頭に鈍い痛みが走る。
「痛ぁ!」
「狩猟王がその程度で騒がないでください。」
その程度って…
いや、
「狩猟王?」
「あなたが[風爪鴉]を狩って狩猟王になったことで、謁見が許可されています。ありがたく思ってください。」
「な、なるほどぉ、ちなみにこれから何がおこな…」
僕が質問しようとすると、聞き馴染みのある声が左後方から耳に飛び込んでくる。
「やぁやぁ。お前も戦闘職なこと隠して狩りするなんてタチが悪いねぇ。なんだいその格好は。随分とマゾヒストなんだねぇ。」
いつぞやのC級冒険者の声だ。
C級はそのまま僕の横にひれ伏す。
言っていることは全て間違っていたが、それより
「なんであんたがここにいんだよ。」
「うるせぇ、今から表彰式が始まるんだ、黙ってろ。」
僕は言い返そうとする。しかし、またも僕の声を制するように声が飛ぶ。
「その通りだ。これより狩猟祭の表彰式、および私、シンヤ・ナナカワリの即位式を始める。」
王座から飛び立ち、宙に浮きながら、太陽を背に、シンヤが厳粛に告げる。
これが覇気という物なのだろう。
凄まじい威圧感だ。
しかも、飛行ができるほど強力な異能を持っている。
反抗したら何をされるかわかったものではない。
「さて、まずは狩猟祭の表彰と行こうか。一番強い混沌を倒した君、タツヤ・オオマガリくんにはこの王冠をあげよう。」
そう言って赤い円を越え、飛んだまま冠を被せる。
何も脅すようなことは言っていないのに、体が硬直する。
ここでメイドがいなくなっていることに気づく。
頭を上げる。
「あっ、ありがとうございます。」
「そして、だ。横の君。君のおかげで、私は王に即位できる。」
赤い幕が落ちる。
幕は、宙に浮いていた大きな円形の石版によって吊るされていたようだ。
その大きな石版の上にシンヤは降り立つ。
その大きな石版の下には、底が見えない大穴がのぞいている。
穴には一本の綱が渡されている。
そしてそこには、ノクリアさんが両腕を綱に縛られている。
猿轡をかまされているが、驚いたような表情を見せている。
体が動きそうになる。
しかし、理性ではシンヤに止められてしまうだろうとわかっている。
理性で強引に体を止める。
シンヤが口を開く。
「『イ ノウカにとっての台風の目の日、一対の種がこの地で眼を醒ます。
人の王は魂を継ぐために真の力によって奈落へと堕ち神の子の目を覚ます。
神の王は目覚めると魂を支配し全界を砕き、終焉へと導く力を得る。』
これがこの石版に書かれている文章だ。ただ、王に直接手を下すと民への心象が悪い。純血である一人娘を探すのには苦労した。だが」
シンヤはC級冒険者を指差す。
「君が見つけてくれた。素晴らしい。今日をこの台風の目の日としよう。そして私は絶大な神の力を手にし、この世界を支配下に置く。」
シンヤはさらりと髪をかきあげる。
「さあ、真の力、私の異能で終わらせよう。」
シンヤは蒼空へと光を溜めながら飛び上がり、大きな石版がこちら側にスライドし、僕とC級の上を覆う。
今かもしれない。
上からは石版で僕の姿は見えない。ノクリアさんを救うには今しかない。
前を向く。
体は軽い。
ノクリアさんと目が合う。
僕は立ち上がる。
走り出す。
ノクリアさんの顔は横に振られている。
僕は立ち上がる。
走り出す。
腕甲を撫で呟く。
「優しい人ですねあなたは。今助けます。」
石版の陰を抜ける。
左手にグッと力を込める。
鋼の刃が二方向に射出される。
穴の淵に足がかかる。
綱の両端が切断され、ノクリアさんの体が一瞬空に浮く。
瞬間、僕はその体を抱きしめる。
刹那、天から白い光が降る。
「〈異能菜園〉」
もうすっかり見慣れた菜園。
ノクリアさんを救う奇跡が起こるならここしかないだろう。
そして、奇跡は起こっていた。
奇跡の種はこぼれていた。
その奇跡を手でむしり取る。
〈ウルティマウルチマイ〉
状態:E
究極の粳米。究極の思いに呼応する。




