討伐する農家
ーーー僕の植えた種は、実をつけていた。
僕は大曲辰家。訳あって狩猟祭に参加させられたのだが…
全長は5mほどあろうかという鳥がこちらに向かって飛翔しながら突進している。さらに、頻度は多くないものの前足から金属製の杭のような形の爪を射出している。
「あれがこいつに…」
眼下に転がっているC級の冒険者を見る。彼の右肩にはその爪が突き刺さっている。
「…まっずい」
いよいよ衝突する寸前になり僕は姿勢を低くし突進をかわした。
頭上を銀の鳥が通過する。
小さくC級冒険者が呟く。
「あ…あいつは…[風爪鴉]。再生する鉄の爪や刃を射出しながら突進してくる混沌だ。」
「…なるほど、あんたは大丈夫なのかよ。」
「俺は死んだふりをしているから平気だが、お前は死体になるだろうな。」
その瞬間、キィィイイインという金切り声を上げながら[風爪鴉]は追い風を纏って再び突撃を仕掛けてくる。
「くっそぉ…」
C級に気を取られて回避が危うかったがなんとか左方向に飛び退いてかわす。あの金属製の羽の骨の打撃を喰らったらただでは済まないだろう。
[風爪鴉]は着地するなり、頭をこちらに向けると同時に尾を振りこちらに鉄の鱗を放つ。
僕は野に寝そべる。数m先に鉄の破片が突き刺さり、鈍い光を放っている。
「どうすればいいんだ…落ち着け…」
仮にC級を放置したとしても僕は逃げ切ることはないだろう。とすると生き延びるためには助けを待つか、倒すかと言うことになる。後者は避けたいが、今は狩猟祭の真っ最中なので助けがくる望みの方が薄いだろう。となると、
「一人であれを倒すのかよ…」
ほぼ不可能に近い。僕は大した武器も戦闘技術も持っていない。いつかは飛来する凶刃が僕を突き刺すだろう。
それに、[風爪鴉]だって愚かではない。無理に攻撃を仕掛けず回避に徹する僕を見て、空中からの突進は無意味だと察して、地に降り各部位の再生を待っている。
今か?
僕は大鎌を振りかぶる。
それを見るなり[風爪鴉]は左に軽く飛翔し、ホバリングしたままこちらをじっと見ている。
一瞬風が吹いた。
目の前の[風爪鴉]が…
地に打ち付けられる強い衝撃を感じる。
部位の再生でなく高速突進の溜めか…
きらめく鉄の爪が飛んでくる。
死ぬ…
しかし、それは訪れない。
「あぶな…」
思わず手放してしまった大鎌の刃が爪を防いでくれている。
ただ、このままでは命を落とす。僕は大鎌を支えにし立ち上がる。
仕切り直しの形になるが、圧倒的不利は覆らないまま再び[風爪鴉]はホバリングを始める。
[風爪鴉]はどうやらこの手が有効であると判断したらしい。
次あの速度で突進されたらどうにもならない。
僕は痛む背中に鞭を打ち、[風爪鴉]の周囲を一定の距離を保ちながら走る。緩急やフェイントも交えつつどうにか当たらないように祈る。
またあの風を感じるが、今回は打ち倒されていない。
目を動かし[風爪鴉]がどこにいるか探ると背後から突進をかけていた。
しかしこれは通常速度の突進。
今だ。
僕は大鎌の刃の先を突き刺すように[風爪鴉]に振るう。
[風爪鴉]はあの凶悪な爪を打ち出す。
「いてぇええええええ」
苦痛にうめいたのは僕の方だった。致命傷は避けたものの、左腿の部分に爪が貫通している。
立てない。
よろめく。
前に転倒する。
「アレは、[風爪鴉]はどこだ…」
キュアアアアアアア
転がるように後ろを振り返ると、[風爪鴉]の右翼に大きな刺し傷が見える。僕の鎌も当たっていたらしい。だが、
キィィアアアア
左の腕と翼が地に這いつくばる僕を潰そうと振りかざされる。
「うぉあっ」
僕はすんでのところで転がってかわす。
[風爪鴉]は追撃とばかりに右の翼と腕を上げて同じ攻撃を仕掛けようとするが、右翼が痛んだようで飛び退く。
僕は再び大鎌を杖にして立ち上がる。今度は杖を手放して立つことはできなさそうだ。
目の前には[風爪鴉]。右翼の傷は持ち前の再生能力によって癒え始めているように見える。
「終わったか…」
今度こそ死を覚悟する。もう僕は満身創痍だし、C級はこの戦闘中微動だにしていない。
[風爪鴉]はその場で飛翔し、旋回を始める。
「何してるんだ…?」
僕は不用意に動くことができない。その間にも[風爪鴉]は旋回を続ける。
ゴォォ
その場にはつむじ風が起こる。旋回は続く。
ゴォォオオ
風の流れがはっきりと目視できるようになる。
僕は少しずつ後退りを始める。旋回は続く。
ゴォォオオオオオ
もはや竜巻となったそれの頂上に[風爪鴉]は鎮座する。旋回が止まる。[風爪鴉]の姿が竜巻の中に
消える。
この風に乗って突撃するつもりか。
次に聞く声は[風爪鴉]の勝鬨だろうと思っていた。
「タツヤさん!死なないでください!」
声が聞こえる。
間に合わないだろう。
彼女と僕の間には竜巻が挟まっている。
僕は最後の挨拶がしたかった。
しかし、声もうまく出すことができない。
情けなさと恐怖で涙が流れる。
目を竜巻から声の主の方へ向ける。
ノクリアさんの姿を捉える。
その瞬間、走馬灯を見る。
ノクリアさんに命を救われたこと。
セルディアさんとの訓練。
カスC級冒険者。
そこそこ板についたギルドの業務。
僕の使い道のわからない異能。
まだ、まだあるかもしれない。
僕の未来は。
竜巻の頂上が一瞬だけきらめく。
僕は唱える。
「〈異能菜園〉」
いつぶりか、緑褐色の光に包まれる。
今度は自分の体が回転している感覚がする。
見覚えのある平野の耕地が目の前に現れる。
そして、僕の植えた種は、実をつけていた。
「米?」
とりあえず大鎌で刈り取る。
手に取ると稲穂は形を変えなくなっており、さらに自動的に情報が表示された。
〈ウルティマウルチマイ〉
状態:D
究極の粳米。究極の思いに呼応する。
どのように使えばいいのかもわからない。
どのような効果を発揮するかもわからない。
だけれど。
「いける。いこう。」
僕は、作物を手に異能菜園から抜け出す。
眼前にはどす黒く荒ぶる竜巻。
そしてその中から[風爪鴉]が風の勢いを一身に受け、こちらに飛び出す。
僕は手に握っている稲穂を高く掲げ、強く願う。
ーーー生きたい。
極めて白い光が稲穂より出でて、黒い空を割る。
[風爪鴉]は僕に触れる前に白い光に撃ち抜かれ墜落した。
僕はそれが目に映ると、意識を失った。




