花の中で舞う蝶
無限に続く上昇階段の扉を、軽やかに跨ぐ、宇宙の特異点へと至り、我らが家となる。
「しずく、マニキュアを塗ってくれ。」彼女は銀河で編まれたソファに横たわり、猫のようにだらりとしていた。その猫は鋭い爪を見せつけ、飼い主にネイルを塗ってほしがっているようだ。
「ねえ、ご褒美はある?」私は含み笑いを浮かべながら彼女を見た。
「んー、わかんない。何でも好きなものちょうだい」無限の宇宙座標の中で猫が大きく伸びをすると、時空の糸で縫われた抱き枕に顔を埋めた。
「これ以上のご褒美があるかしら?」満足そうに立ち上がり、ソファの脇に跪いて彼女の手を優しく掴む。宇宙の果てまで辿り着けるほど美しい手だった。生まれながらのお嬢様。柔らかく白い指先は、蘭の花のような曲線を描いている。
「……んふっ」軽く嚙み、舌で舐め、指の股を這わせる。
「あははっ!やめてよ!」彼女は笑い転げ、髪の毛がふわりと揺れた。……美味しかった。ようやく満足して、私は彼女の手を解放した。
「あら、エッチ。」彼女は湿った手を見つめ、そう嬌声を上げた。
「君だけだよ、この一輪のバラ以外には。」私は彼女のなめらかな手の甲に深く唇を押し当て、赤い蝶のようなキスマークを残す。
「いいえ、私は花の中で舞う蝶なの」彼女の指先が私の額を軽く突く。お嬢様は不機嫌だ。
私は素直に謝罪した。彼女の体を傷めたら、とんでもない罪になる。
「かしこまりました、花の中で舞う蝶様。ご用命を承りましょうか?」胸の前で両手を捧げ、恭しい姿勢を見せた。
「ええ、私のメイドには、この足に美しいネイルを塗ってほしいの」彼女は気高く顎を上げながら、まるで宇宙一誇り高き貴族のようにそう言った。
私の視線は、彼女の細い手から、完璧なボディラインを辿り、やがて目的地であるその繊細な足元へと至る。私は息を飲んだ。
その足は透き通るように輝き、宇宙のすべての芸術家を狂わせるほどの芸術品だった。
「どうしたの? この高貴な足に、私のメイドは仕える気がないとでも?」
「光栄です。」私は彼女の手に細やかなキスを落とす。
その手には長く伸びた爪が生えていた。透き通る玉のようで、鋭く、そして脆く。小指には淡い蝶が描かれており、無限の天体々で編まれたその羽は、今にも飛び立ちそうなほどに広がっていた。
「とても美しい蝶です。あなたが描いたのですか?」私は彼女の小指を口に含んだ。この蝶の美しさは、永遠に手放したくないほどだった。
「ええ、あなたも欲しい? ちょうどペアになれるわ。」彼女は私の手を優しく持ち上げ、美しい指先で私の小指をなぞる。私の爪も十分に伸びてはいたが、彼女のものと比べれば見苦しいほどに醜かった。
まだ短すぎる。私は手を引っ込めた。この惨めな手を見せたくない。忌々しいほどの劣等感。
「そのうち伸びるわ。」彼女は強引に私の手を掴み、離そうとしない。その強い眼差しには逆らえなかった。
「わかった。好きにしてください。」
私は手を彼女に預け、もはや隠すことをやめた。
彼女は真剣な眼差しでベースコートを塗り、紺色のネイルで無限の宇宙天体々を凝縮したような蝶を丁寧に描いていく。
指先に広がるひんやりとした感触。
私の胸は期待と幸福でいっぱいだった。
「幸せ……!」思わず声が漏れる。抑えきれない気持ちをそのまま伝えてしまった。
彼女が顔を上げると、その瞳はまっすぐに私の心の奥まで覗き込んできた。
私は彼女を抱きしめ、耳元で囁いた「一生、君のネイルを塗らせてくれ。」
彼女は笑った。
ミルクをたっぷり飲んだ子猫のように、満たされた幸せそうな笑顔。
これが、私たちの永遠だと思った瞬間だった。
彼女が描いたあの蝶はまだ色褪せず、青い羽根は今も鮮やかだ。
あまりに真剣に描いたせいか、その蝶は命を得て、羽ばたき、私から飛び去っていった。
子どもの頃に聞いた話のようだ、完璧すぎたから、失ってしまったのだ。
むしろ欠けたままの方が良かった。
それなら、ずっと私のものだったのに。
無限階段の門に囲まれた宇宙の特異点で、空っぽの部屋にはもう一人の女主人がいない......生命は、もはやそこには存在しなかった。
彼女は去った。この場所の生命の輝きまでも、持ち去ってしまった。
私は決して忘れない......彼女の後ろ姿は、あの日、愛し合うと決めた時と同じように、断固として、迷いがなかった。
分かっていた。彼女がそういう人間だということを、私には彼女を留めておく力などないことも、それなのに、なぜか心のどこかで、あの蝶が私のために羽を休め、永遠に留まってくれると願っていた、この永劫の上の永劫てまで、共にいられると。
鋭い痛みが心臓を貫く、俯くと、自らの折れた爪が見えた、伸びていた爪が無理やりへし折られ、血肉が引き裂かれ、真紅の血が涙の代わりに滴っていた。
無限に続く上昇階段の扉は滴り落ちる鮮血の力で無限に粉砕され、再生される。
その中に保護された宇宙特異点、私たちが作った家が揺れている。
さっきまであんなに美しかった蝶が、今は胴体を真っ二つにされ、半分だけの身体で、欠けた命を脈々とさせている、それでも、彼女は永遠に私のものだ。
私は手を握り締めた、残された彼女を、この掌に強く押し当てるために。たとえ、この胸が張り裂けるほど痛くても。
掌のピンク色の蝶は、もう砕け散った、私自身の命のように、きっと彼女は悲しんでいるだろう、でも…ごめんね、私はこんなにも臆病で、たった一人で泣かせておくなんてできなかった、宇宙外れのファレノプシスのように、萎れゆく自分を見つめさせるなんて、わたしには耐えられない。
愛しい人よ、どうか生きて、私を恨んで、激しく、深く恨んでくれ。
......
しずく
無限に続く上昇階段の扉