生活魔法とお買い物 下
昨日、予約投稿ミスって投稿してしまいました。
すぐに消しましたが通知がいってしまった方、お騒がせして申し訳ありませんでした。
中に入ると、少し甘ったるい古い木の匂いがした。
私達を見て、黒い制服を着た魔法協会の人が声を掛けてくる。
「こんにちは、本日はどのようなご用件で?」
とても人当たりの良い青年だ。
絶対営業向きだなと思っていると、カレンさんが私の背中に手を添える。
「この子、魔力通しが終わってなくて。お願いできますか?」
「もちろんです。では、お連れの方はそちらでお待ちください。さ、どうぞ」
そう言って、青年が奥の部屋に手を向ける。
「よろしくお願いします」
軽く会釈をした後、私はカレンさんに小さく手を振ってから奥の部屋に入った。
部屋の中は、少しひんやりとしている。
「何も怖いことはありませんよ。まあ、ほとんど説明みたいなものですから、どうぞ気楽になさってください」
「あ、はい……」
うーん、丸い石壁がお洒落だ。
アンティークのような机と椅子、ランプ、書物……書斎みたいな雰囲気ね。
「あ、そちらの椅子にお掛けください」
「ありがとうございます」
よいしょ、ふぅ……。
ちょっと、ドキドキするなぁ……。
青年は分厚い本とペンを用意して、私の向かいの椅子に腰を下ろした。
「改めてご挨拶を。本日、魔力通しを担当する協会員のノーマンと申します。よろしくお願いいたします」
「ナギです、よろしくお願いしますっ!」
「さっそく始めていきましょう。まずは状態を観察しますね、手をお借りします」
私はサッと手を差し出す。
ノーマンさんはニコッと微笑み、私の手を取った。
「ふーむ……なるほど、問題なさそうですね」
良かった……何が問題なのかわからないけど、とにかく良かった。
「魔力通しを行うと、ご自分の恩恵を見ることができるようになります。他人には見ることができません。ですので、びっくりなさらないためにも、事前に図で説明させていただきますね」
ノーマンさんは分厚い本をパラパラとめくり、私の前に広げて見せた。
そこには元の世界で昔遊んだRPGゲームのようなステータスが描かれていた。
「これは……」
「このように各項目があり、それぞれに意味があります。例えば、この『魔力』の項目は文字通り魔法の力や使える度合いを表しています。Sが一番高いとされていますが、これは聖女様や勇者様など、選ばれた方々のみに表示されるようですね」
「なるほど、普通はBとかCとかって感じですか……」
「そうなります。あと、この下の枠の中、ここに表示されたものが使用できる魔法やスキルになるのですが、こちらはレベル表示です。例えば生活魔法ですと『生活魔法LV1』といった具合に表示されます」
「レベルが高いとどうなるんですか?」
「効果が上がる、範囲が広がる、用途が増えるなど、元々の魔法がさらに強化されるイメージですね」
「わかりました、ありがとうございます」
「では、リラックスして、深呼吸をしていきましょう。鼻からすって……口からはいて。そう、ゆっくりすって……ゆっくりはく……いいですね、だんだん肩や腰周りが温かくなっていきますよ……すって……はいて~」
深呼吸を続けていると、段々、頭がボーッとしてきた。
うーん、何か気持ちいい……。
「こんどは、ゆっくり左右に体をゆらします……ゆら~……ゆらり、はい、もう一度、ゆら~……ゆらり、だんだんと円を描くように……ぐる~……ぐるり、いいですね~、ぐる~……ぐるり……」
ヤバい、体がぽかぽかしてる……。
あれ? 私……いま、何をやってるんだっけ……。
――と、その時!
「んん…はあぁぁいいいーーっ!! 通ったぁああーーっ!!!」
「ひっ⁉⁉」
突然、ノーマンさんにガシッと肩を掴まれる。
えっ⁉ な、何⁉ 心臓がパクパクいってるんですけどっ⁉
「お疲れさまでした」
「は?」
「すみません、驚かないと意味がないのでご容赦ください」
ノーマンさんが丁寧に頭を下げた。
「あ、いえ、すみません……つい」
「お気になさらず、それが当たり前の反応ですから。では、恩恵を確認してみましょうか。『ゼミエル』と唱えてみてください」
「はい、ゼミエル……」
こんなので見えるようになるの? と、疑心暗鬼になりつつも唱えてみる。
すると、目の前にステータス画面が表示された。
うわっマジで見えるんだけどっ! 異世界すごいっ!
――――――――――――――――――
名前:神楽木 凪
年齢:21
種族:ヒューマン
職業:浮かれた異世界人
適性:錬金術師
体力:A
魔力:S
スキルポイント:1000
スキル:錬金術LV1 多言語理解LV1
――――――――――――――――――
「おぉ~っ! 見えます!」
「おめでとうございます」
浮かれた異世界人って!
まあ、間違ってはないんだけれども……。
うわ、魔力がS⁉ これは黙ってればわからないか。
ふーん、多言語理解があるから言葉が通じるし、文字も読めるのね。便利~。
あれ? 肝心の生活魔法がないけど……。
「あの、生活魔法はどうやって覚えれば……」
「スキルポイントは表示されていますか?」
「はい、数字が表示されてますね」
「では、左手の人差し指で数字に触れてください」
「はい……おおっ⁉」
指先が触れると同時に、さらに別枠のステータスが表示される。
「そこに表示されているのが、現在取得可能なスキルになります。スキル名の横の数字が消費ポイント数です。最初ですから、20ポイントもあれば多い方ですね。ポイントは、日頃の努力に応じて増えていきますので、気落ちされませんように……」
「そ、そうですか……」
うーん、1000ポイント……。
ノーマンさんの口ぶりだと、ほとんどないのが普通らしい。
これは……あまり言わない方が良さそう。
それに、何だか凄そうなスキルが表示されてる……。
ざっと見ただけでも『鑑定LV1 800』『聖魔法LV1 800』『状態異常無効 200』『鑑定阻害LV1 50』『剣技LV1 10』『盾技LV1 10』『生活魔法LV1 5』『物理耐性LV1 10』『古代魔法LV1 1000』……などなど、ちょっと一般人が持ってるとヤバそうなものまで並んでいた。
とりあえず『鑑定』は欲しいよね、これ絶対便利なやつだし!
あとは……生活魔法かな。
他は持っててもトラブルになりそうだし、見なかったことにしよう。
あ、それなら鑑定阻害も覚えた方がいいか……。
えっと全部で855ポイント。
うーん、ここで大部分を消費してしまってもいいんだろうか……。
えぇい! 私はこの王都でポーションを売って生きていくんだ!
決して世界の危機を救うわけじゃない。
快適な異世界ライフを送るためのスキルがあれば十分!
よ~し、パパッと覚えちゃおっと。
私は鑑定と鑑定阻害、そして念願の生活魔法を覚えた。
ふぁーっ! これで汗かいても平気~っ!
「生活魔法は覚えられましたか?」
「おかげさまでバッチリです!」
「それは良かった。それではまた、何か気になることや、ご相談があればいつでもいらしてください。魔法協会の扉はいつでも開いておりますから」
「はいっ、ありがとうございます!」
ノーマンさんにお辞儀をして部屋を出る。
席を立ったカレンさんに私はOKサインを送った。
「良かった、生活魔法覚えられたのね?」
「はい、これで何も怖くありません」
「あはは、大袈裟ねぇ。それじゃあ工房に行きましょうか」
「はい!」
ノーマンさんに見送られ、私達は魔法協会を後にした。
よぉーし、異世界ライフ順調だよー!
応援ありがとうございます!
明日もお昼12時更新です、よろしくお願いいたします。