生活魔法とお買い物 上
宿を出た後、私は真っ直ぐにカレンさんのお店に向かった。
露店の店主達が談笑しながら、お店の用意を始めている。
うーん、朝の街も雰囲気が良いなぁ。
店前に着くと、カレンさんが荷物を中に運び入れていた。
「おはようございます、カレンさん」
「あら、おはよーナギ、ちょっと待っててー」
「あ、私も手伝います!」
積まれた荷物を持って、カレンさんの後を追う。
「ありがとー、助かるわー。それはカウンターの前ね」
「はーい」
ようし、良いとこ見せないと!
張り切って荷物を運んでいると、カレンさんが困ったような笑みを浮かべて言った。
「ナギ、ゆっくりでいいわよ?」
「大丈夫です! 体力には自信がありますから!」
といいつつ、1時間も経たないうちにフラフラになっていた。
「もう、だから言ったのに……ふふっ、でもお陰で早く終わったわ。ありがとね」
「いえ……お…お役に立てて……よかった……す……!」
なんか息が切れちゃってお相撲さんみたいになってる。
「あはは! ちょっと待ってなさい」
カレンさんはバテバテの私を見て笑いながら店の奥へ入って行く。
すぐに小さな瓶を持って戻ってきた。
「はい、飲んで」
「これは……?」
「ポーションの失敗作。失敗っていっても効果はあるのよ? ただ、傷や病気を治したり、ポーションとして求められるラインを越えられなかったってだけ。私も作業で疲れた時に良く飲むのよ」
「なるほど……じゃあ、遠慮無くいただきます」
グイッと一息に飲み干す。
うーん、ちょっと青汁っぽい感じだけど飲みやすいかも。
「ん? あれ……何か体が軽いです……」
「ほらね、効いたでしょ?」
「はい、あんなに疲れてたのに……ってことは、商品のポーションはもっと凄いってことですよね?」
「ええ、そうよ。んー、普通のポーションなら、風邪や切り傷くらいならあっという間に治っちゃうかなぁ。上級とかになると、討伐で大怪我を負った人とかに使われるわね。まあ、作れる人も限られてくるし、お値段もそれなりに上がっちゃうから、上級は普通の人じゃ手が出せないかなー、主に騎士団や貴族とか、王城向けね」
「なるほど……」
そっか、貴族もいるんだ。
なんか身分の差がはっきりしてそうよね。
まあ、私には関係ないだろうけど。
「さて、荷物も運び終わったし、ナギの洋服を見に行こっか?」
「やったぁ! 行きましょう!」
カレンさんに案内してもらいながら、王都の洋品店に向かった。
洋服を専門に扱う店以外にも、寝具やカーペットと一緒に売っている店も多い。
どこに行っても、カレンさんがいるとみんなが挨拶をしてくる。
カレンさんが言うには錬金術師は重宝されるのだとか。
「普段着なら最近はこういう動きやすくて淡い色のワンピースが流行かなぁ。ほら、無駄に胸元もあいてないし、腰も詰まってないから楽だしね」
「ぐっ……か、可愛い……ごれ゛に゛ずる゛っ!」
可愛さ極まって変な声になってしまう。
「あはは! ちょっとナギっ! 笑わせないでよね、もう!」
「えへへ、ごめんなさい」
「あと、作業着は軽くて丈夫なのが良いわね、これとかポケットも多いし便利かも」
「なるほど……」
色々とカレンさんに見立ててもらいながら、私は普段着と仕事着を三着ずつ。
合わせて六着を購入した。
全部で銀5枚か……。
魔術師さんにもらった慰謝料は全部で銀200枚。
すでに宿代で銀30、洋服で5、残りは銀165枚……。
食費は宿で食べられるからお昼分だけよね?
まあ、ポーションさえ作れるようになれば、なんとかなりそう!
「あ、そうだ! カレンさん、私も魔法を覚えたいんですけど……」
「え?」
「いや、今朝、テレサさんに『洗浄』を掛けてもらったんですけど、いいなぁって思って。生活魔法って言うんですよね?」
「え……ナギ、魔法使えないの⁉」と、カレンさんが目を丸くする。
「みなさん、使えるんですよね?」
「普通は5歳になったら魔法協会で『魔力通し』をするでしょ?」
「そ、そうなんですね……私の育った場所はそういうのが無くて」
「うーん、魔法を使わない国もあるって聞いたことはあるけど……珍しいわね」
「あー、えっと、ほら! 協会って近いんですか? 費用が掛かったりしますか?」
マズい……! なるべく召喚のことは知られないようにしたい。
私は質問を被せてごまかすことに。
「費用はかからないわよ。ここから近いし、さっさと終わらせちゃおっか?」
「いいんですかっ! ぜひっ!」
やったぁ! これで生活魔法が使える!
昨日は手ぬぐいで体を拭いただけだったから……。
「あ、そういえばカレンさんはお風呂とかどうしてます? 生活魔法ですか?」
「うーん、お風呂って、大浴場のことよね?」
「そうですそうです」
「たまに気分転換に行くけど、大抵は洗浄で済ませちゃうかなぁ。貴族の人達は家に浴場があるらしいけど、さすがに私達みたいな庶民の家だとなかなかね……」
「そうなんですね……」
「ナギ、お風呂好きなの?」
「はいっ! 毎日入りたいです!」
「そうなんだ、じゃあ今度一緒に浴場に行ってみる?」
「行きます! 誰が何と言おうと行きます!」
「あはは、わかった。落ち着いたら行こうね。あ、着いたよ」
カレンさんが魔法協会の建物を指さした。
どことなく元の世界の教会に造りが似ている。
「いきましょ」
「はい!」
明日もお昼12時の更新です。
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