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第一部完【連載版】思ったよりも異世界が楽しすぎたので、このまま王都の片隅でポーションスタンドでも始めてのんびり暮らします。  作者: 雉子鳥幸太郎
第一部

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会合

今日は月に一度行われる貴族御用達商人達の会合に来ていた。

豪奢な舞踏会場には、王都の実力者たちが集っている。


グラスを傾け、取引を語らう者、噂話に花を咲かせる者……。


僕は、どこか場違いな自分を感じつつも、それを決して表に出すことは無く、若手の注目株であるアンリ・ド・ラメールを演じていた。


主要な同業者に挨拶を終え、会場の端で一息入れていると、ラマニフ家の一団が近づいてきた。先頭はカルロ・ラマニフ……ラマニフ家の長だ。


僕はさりげなく、その場を離れようとしたがラマニフの使用人に道を塞がれる。


仕方なく、営業用の笑みを浮かべ、挨拶をした。

「お初にお目にかかります、アンリ・ド・ラメールでございます」


「……君の噂は良く聞いているよ」

テーブルの料理を指で弄びながら、カルロが言った。


背筋に冷たいものが走る。

僕は自分の心を必死に落ち着かせながら、次の言葉を待つ。


「フィーゴはどこに消えたのか。君なら知っているのでは?」


カルロはボイルされたエビの頭をむしり、しゃぶりついた。

僕は焦りを悟られないよう、平静を装って答える。


「……いえ、若輩者の私には知る術がございません」


「フンッ……父親そっくりだな」


僕の服で指を拭き、カルロは試すような目を向けてきた。

僕はじっと嵐が過ぎるのを待つように、ただ笑みを浮かべ続けた。


「まあいい――お父上の二の舞にならんようにな」


耳元でささやかれ、僕の全身が怒りで震える。

だが、ここで僕がラマニフ家と揉めれば、姉さんやナギさん、大切な身の回りの人たちを危険に巻き込んでしまうかも知れない。

こみ上げる怒りをグッとこらえる。


その時、突然会場がざわめいた。

大勢の人が道を開け、一瞬で僕とその人物の間に道ができた。


「アンリ、待たせたな」

「で、殿下……⁉」


「な、なぜ、次期公爵が……」

カルロの声が震えていた。


「ん? そちらは……おぉ! ずっと、ご挨拶をと思っていたのですよ、カルロ・ラマニフ殿!」


シオンが両手を広げ、ずかずかとカルロの側に寄る。

二人の身長差は親子ほどあり、シオンは見下ろす格好となった。


たじろぎながらも、カルロは引きつった愛想笑いを浮かべる。

「これはこれは、シオン・アルヴォラリス殿下におかれましては、ごきげんうる――」


言い終える前にシオンはカルロの手を握り、ぐいっと力強く引き寄せた。

「俺は父上のように甘くはない」

カルロの耳元でささやくと、大袈裟に笑い、ぽんぽんとカルロの肩を叩く。


「は……はは、それでは、私はこれで……」

青ざめた顔のカルロが、その場を去ろうとした時、シオンがベクターに目配せをした。

ベクターは僕にウィンクをすると、カルロの前に立ち、「お送りします」と手を出口に向ける。


「い、いえ、そのような……」

「さぁさぁ、遠慮なさらず」


有無を言わさず、ベクターはカルロを会場の外に連れ出すと、そこには王国最強を誇るアルヴォラリス公爵家の騎士団が集まっていた。


「総員! カルロ・ラマニフ殿を見送って差し上げろ!」

「「はっ!」」


ザンッと剣を地面につける音が響く。

一糸乱れぬ統率、一国を落とす戦力を目の当たりにして、僕は圧倒される。

カルロの足が震えているのが見えた。


ベクターは「大丈夫ですか?」と、カルロの体を支える。

そしてカルロの目をのぞき込むようにして言った。


「爵位に勝る影響力などない――これは警告だ、わかるな? カルロ・ラマニフ」


感情のない声に、カルロの足がさらに激しく震えだす。

ベクターの目さえ直視できないようだ。


「は、はいっ……! そ、それはもう!」

パッとベクターは笑みを浮かべ、使用人にカルロの身を預ける。


「どうやら、ラマニフ殿は具合がよろしくないようですなぁ」

「は、はいっ! あの、私どもでお連れしますので、し、失礼いたしました!」


ラマニフの使用人が主人を慌てて馬車に乗せる。

そして、逃げるようにして走りさっていった。


「殿下、これは一体……」

シオンは僕に身を寄せ、「ナギには内緒だぞ?」とだけ言って去っていった。


僕は呆然と騎士達を眺める。

アルヴォラリス……なんて力なんだ。


あれほど恐れられていたラマニフが、まるで叱られた子供のように怯えていた。

この先、ラマニフ家が僕に手を出すことはないだろう。


僕にはシオンのように、ラマニフ家を退けるような力はない……。

シオンに感謝する気持ちはある。


だが、何だ……この胸に、ぽっかりと穴の開いたような空しさは。



僕は……僕の力で、ナギさんを守れたのだろうか?



同じ問いがずっと頭の中を巡っている。


シオンのような圧倒的な力も、ベクターのような鋭い剣も持たない。

僕に残されたものは、この空虚な胸の中だけだ。


いくらナギさんを守りたいと願う気持ちがあっても、守れなければ、その想いに意味なんて……。


「アンリ様、馬車のご用意ができました」

「あ、うん、ありがとう。じゃあ、行こうか」


僕は使用人に笑みを向け、馬車に乗り込んだ。


窓の外では、まだ騎士たちが整然と並んでいる。

その威容が、僕の無力さを更に際立たせているようだった。


座席に凭れ、僕は静かに目を閉じる。


答えは、まだ出せそうにない……。

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