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第一部完【連載版】思ったよりも異世界が楽しすぎたので、このまま王都の片隅でポーションスタンドでも始めてのんびり暮らします。  作者: 雉子鳥幸太郎
第一部

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閑話 我が剣は主のために

夕暮れ時、林道に影が長く伸びていた。

木々の間から漏れる最後の陽光が、一人の若い騎士の手の震えを映し出す。


「お前、初めてか?」

声を掛けられ、騎士は慌てて背筋を伸ばした。


「いえっ、防衛戦には何度か……」


ベクターは若い騎士の肩に手を置き、静かに言った。

「そんなに気負うな。やるべきことをやる、狩りと同じさ」


「はっ!」


木漏れ日が作る影の向こうから、馬車の走る音が近づいてくる。


ベクターは無言で手を上げた。

林の中から騎士たちの姿が現れ、馬車を包囲するように散開していく。


突如として前後を塞がれた馬車が、息を呑むように停止した。


「なっ……なんだあんたたちは⁉」

御者が声を上げる。


ベクターが手を下に投げるように合図を送る。

次の瞬間、狼狽える御者の眉間に一本の矢が突き刺さった。


「―――」


声にならない声を漏らし、御者はゆっくりと馬車から崩れ落ちた。


「何だてめえらは!」


荷台から数人の男が飛び出してくる。

覆面を被った無言の騎士たちが、まるで影のように間合いを詰めていく。


追い詰められた男たちが、たまらず襲いかかってきた。

それを冷徹な刃が一瞬のうちに薙ぎ払う。


残されたのは、馬車の中のフィーゴひとり。

小動物のように縮こまっていた彼は、騎士の手で馬車から引きずり出された。


「な……なんだお前らは!」

地面に尻を付き、後ずさりながらフィーゴが声を絞り出す。


ベクターが顎で合図すると、騎士たちがフィーゴの両脇を掴み、強制的に立たせた。

そして、ベクターはゆっくりとフィーゴに近づき、その目を覗き込む。


「貴様たちは面子を気にするようだが、それは俺たちも同じだ」


「ま、待て! 何の話だ⁉」


「お前は聖域を侵した。それだけの話さ」


淡々と答えるベクターが、ゆっくりと剣を抜いた。

金属の擦れる甲高い音に、フィーゴの顔から血の気が引いていく。


「お、俺はラマニフ、フィーゴ・ラマニフだぞ……⁉ 俺を殺せば親父が黙っちゃいない! 全員死ぬ! はははっ! 一族皆殺しだ! いいのかっ⁉」


「よ~く知ってるさ、闇の公爵様だろ?」


剣先がフィーゴの顎に突き付けられる。

ひと筋の赤い血が剣を伝って流れた。


「ひ……ひぃ!」


ベクターは夕暮れの空を指差した。


「いいか? この陽の下に貴様らの場所などない。闇なら闇らしく、暗い場所でじっと震えていれば良かったのさ――」

「や、やめ……ぐぶっ!」


剣が喉を貫く。

フィーゴの顔から生気が抜け落ち、両手がだらんと垂れ下がる。


後ろで見ていた若い騎士が、恐る恐るベクターに尋ねた。


「……あの、主はこのことを?」


「いいや?」

「なぜ、ですか……?」


ベクターは剣の血を払いながら答えた。

「我が主は俺に『万事解決』を命じられた。ならば、俺はそれを用意しなくてはならない。わかるな?」


それを聞き、若い騎士はサッと剣を体の前に掲げた。

「はっ、我が剣は、主のために――」


「よし、それでいい」

ベクターは若い騎士の肩を叩く。



「死体は燃やせ! 馬車は荒らして物盗りに見せかけろ! 急げ!」



ベクターが手を叩くと、騎士たちが慌ただしく動き出す。

馬車の轍が丁寧に掻き消され、死体の傷口は潰される。

辺りには荷物が散乱し、すべての痕跡が上塗りされていく。


そして、準備が整うと、若い騎士が火種をベクターに手渡した。

その顔には、先ほどまでの初々しさは微塵も感じられなかった。


「その顔を忘れるな」


ベクターはそう言って、フィーゴの死体と馬車に火を放った。

瞬く間に炎が上がり、夕闇に赤い光を投げかける。


「――行くぞ、長居は無用だ」

「「はっ」」


馬の蹄の音が林道に響き、ベクターと騎士たちの姿が闇に溶けていく。

残された炎は、静かな林の中で煌々と燃え続けていた。

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