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第一部完【連載版】思ったよりも異世界が楽しすぎたので、このまま王都の片隅でポーションスタンドでも始めてのんびり暮らします。  作者: 雉子鳥幸太郎
第一部

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人参の思い出

「え? あの絵に近づいた人……?」


私は近くにいたスタッフさんに少しだけ時間をもらって、事件当日に絵の周りで何か気になることはなかったか尋ねてみた。


「人気のある絵だからね、立ち止まって眺めている人も多いけど……ほら、すぐ近くにテーブルがあるでしょ? あそこにお客さんが座っている時は、皆遠慮して近寄らないかなぁ」


そうか、たしかにあのテーブルが埋まっていると、わざわざ近づいて見ようとはなりにくい距離だよね……。


「ありがとうございます」

お礼を言って、厨房に戻ろうとすると、スタッフさんが何かを思い出したような声を上げた。


「あ、そういえば……」

「何かありました⁉」


「そういえばあの日、あのテーブルに座っていたのって、ラマニフ家の人達だったなって思って……」

「食中毒が起きたのは、あのテーブルのお客さんだけってことですか⁉」

「ええ、そうですね……。あと、何人かは立ち上がって絵の前で鑑賞してましたね」


「そ、それって、絵に触れたりしてましたかっ⁉」

「さ、さぁ……そこまでは」


「ありがとうございます、とても参考になりました!」

『クアッ』


私は深くお辞儀をして、急ぎ厨房に戻った。



 * * *



厨房を調べていたカレンさんに、スタッフさんから聞いた一連の情報を聞いてもらった。カレンさんは、真剣な表情で数秒考え込む。


「なるほど……ちょっと整理してみましょうか」


カレンさんは手元にあったタマネギを調理台の上に置く。


「食中毒の被害にあったのはラマニフ家の人達だけだった」


そう言って、今度は黒い実をその近くに並べる。


「ロクジュソウの染料が使われた絵は、彼らが座ったテーブル席の側に」


私は小さく頷く。


「リリーさんの話だと、食中毒の原因となったロクジュソウの顔料は、今では、ほぼ手に入れることができないのよね?」

「はい、作られている職人さんがいないそうです」


「絵には顔料を削った跡があった……そして」


ニンニクをタマネギの近くに置く。


「事件当日、スタッフは、ラマニフ家の人達が数人で絵を鑑賞する姿を見ている」


「やっぱり、偶然入ったとも思えないですし、わざと自分たちの料理に入れたんじゃないでしょうか……」


「私もその可能性が高いと思う。恐らく、難癖をつけるためだと思う。それか他に何か目的があるのかも知れないけど……」


カレンさんが人参を手にとって、懐かしそうに目を細めた。


「昔ね……両親が突然いなくなっちゃって。あの頃は、アンリといつもお腹をすかせてさ……父の知り合いなんかも頼ってみたけど、みーんな門前払い。もう、このまま死ぬのかなぁって本気で思ってた」

「……え」


「あっごめんね、辛気くさい話しちゃって……」

「い、いえ! そんなことは……」


「そんなとき、ゴミを捨てに来たマカロンさんが私たちを見つけて。優しい人だから私たちのこと放っておけなかったのね、お店のまかないを分けてくれたの」


カレンさんは嬉しそうな笑みを浮かべる。


「それから、私たちは野良猫みたいに、ゴミ捨て場のある路地裏でマカロンさんを待つようになってさ。今考えると良い迷惑よね? ふふふっ」


当時を思い出しているのだろうか、カレンさんが目線を上に向ける。


「美味しかったなぁ……マカロンさんのシチュー。たまに、人参が入ってるとアンリが「カレン! 見て見て!」って、大騒ぎしちゃって……。だから、マカロンさんには返しても返しきれない恩があるの」


「ぞ……ぞうだっだんでずが……!」

「ちょっ、ナギ?」


やばい……泣ける。

私、小さいころ、人参嫌いで残してた……ごめんなさい、うぅっ。

こんなに優しいふたりが、こんなにも辛い思いをしてたなんて……。


「もう、大げさなんだからぁ……ほらほら、泣かないで」

「すみません……」


涙を拭いて、やっと落ち着きを取り戻した時、厨房のドアが開く音が聞こえた。

振り向くと、そこにはアンリさんとマカロンさん、そして見たことのない男性が立っていた。


三人とも、泣いている私を目にして、一瞬言葉を失ったように見えた。



「カ、カレン……これはいったい……」



呆然とするアンリさんに、カレンさんが慌てて手を振る。


「えっ、違う違う! 違うからね⁉」

「「……」」


どうやら、私のせいで誤解させてしまったみたいです……。


明日もお昼12時更新です。

よろしくお願いします!

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人参は甘くて美味しかったんでしょう
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