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第一部完【連載版】思ったよりも異世界が楽しすぎたので、このまま王都の片隅でポーションスタンドでも始めてのんびり暮らします。  作者: 雉子鳥幸太郎
第一部

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ル・シエル・アジュール

目隠しの植木に囲まれた、隠れ家のようなお店。

それがここ、ル・シエル・アジュールだ。


白い壁にはカラフルなステンドグラスがはめ込まれ、王都のど真ん中とは思えないほどの静けさが漂う。


「うわぁ……すごい! めちゃくちゃお洒落ですね!」


店内に一歩足を踏み入れると、そこには異世界とは思えないモダンな空間が広がっていた。

華やかな服装の貴族から、休日を楽しむ家族連れの平民まで、様々な客で賑わっている。


「ここのオーナーが支援している若い芸術家たちが、ディスプレイデザインを手掛けているそうですよ」と言って、アンリさんが黒と赤を基調とした絵画に目を向ける。


モチーフは王都かな? 夕日に照らされた街が、黒と赤にわかれていた。

細部まで丁寧に描き込まれた建物の輪郭が、どこか郷愁のような物憂げな印象を醸し出している。


「どおりでお洒落なわけだぁ……」


「ナギさん、マカロンさんに用があるんですよね?」

「あ、はい、これを渡すように言われてるんですけど……」


私は手提げ袋を持ち上げて見せた。


「ご心配なく。僕が案内させていただきますよ」


アンリさんは慣れた様子で、スタッフに目配せをする。

すると、スタッフが奥のバックヤードに続く扉を開けてくれた。


「あの、アンリさん……入ってもいいんですか?」


私が小声で尋ねると、アンリさんは少し考えるように上を向き、

「んー、普通は入れませんね……」と言って柔らかな笑みを浮かべた。


「ですが、僕は少し顔が利きますので」


た、頼もしい……!

やっぱカレンさんの弟さんだよなぁ……うんうん。

もしや、最強の姉弟なのでは?



私はアンリさんについて、バックヤードに入る。

細長い通路の奥に調理をする人影が見えた。


「ほら、奥が厨房になっているんですよ」

「なるほど……」


奥へ進み、厨房に入る。

中は通路と違ってかなり広く、料理人たちが忙しなく働いていた。


「マカロンさん!」


アンリさんが声をかけると、大柄で丸っこい男性が顔を上げた。


「おぉ! アンリじゃないか」


マカロンさんは他の料理人たちに指示を出した後、私たちの方へやってくる。


「お待たせ、いやぁアンリが彼女連れだなんて初めてじゃないかい?」


「かっ……かのっ……かのっ……」

突然のことで思わず息が止まりそうになる。


「ナギさん⁉ ちょ、し、しっかりして⁉」

「おい、水だ! 水をくれ!」


マカロンさんにお水をいただき、何とか落ち着きを取り戻す。


「大丈夫かい?」

「はあ……すみません、ご迷惑をおかけしました……」


「いやいや、私も軽率だったよ。すまんね、年頃の子に……」

「あ、いえ、そういうわけでは……」


「マカロンさん、改めて紹介します。こちら僕の姉のお弟子さんでナギさんといいます」

「へぇ! カレンの……彼女が弟子を取るだなんて初めてじゃないかい?」

「ええ、そうですね」


え、そうなんだ……!

私が初めての弟子……へへ、嬉しいな。


「ナギさんはまだ、錬金術師になったばかりですが、実力は姉のお墨付きですよ」

「いえいえ、そんな……」


「ほぅ、そいつは期待できるな。なんせ、アンリもカレンもお世辞なんて頼んでも言わない性分だからなぁ、はっはっは!」

「さすがマカロンさん、よくご存じで」


クスッとアンリさんが笑う。

二人はかなり気心が知れているというか、かなり付き合いが長そうに感じた。


「あ、そうでした! これを渡すように言われてきたのですが……」


私は手提げ袋をマカロンさんに手渡す。


「ああ、そうそう、ちょっと待ってくれるかな……」


マカロンさんはそう言って、厨房の棚から食材を少しずつ手提げ袋に入れていく。そして、袋がいっぱいになるとマカロンさんが戻ってきた。


「では、これをカレンに渡してもらえるかい?」

「これは……」


玉ネギに人参、ジャガイモ……?

カレーを作るわけでもなさそうだけど……。


私が不思議に思っていると、マカロンさんが顔を寄せ、少し声のトーンを落として言った。


「ウチで食中毒があったのは知っているよね?」

「あ、はい……」


「カレンの毒消しポーションで悪化することもなく、どうにか丸く収まったんだけどねぇ……ちょっと、面倒なことになってしまって……」


「――面倒なこと?」


アンリさんが片眉をあげる。


「実はね……、食中毒になったのはある貴族家の団体客だけだったんだ」

「えっ⁉」


狙われたってこと……⁉

私はアンリさんと顔を見合わせる。


「事件性がある、と?」

「いやいや、そんなことは無いと信じたい。だが……問題は、その客があの()()()()()の三男坊だったってことなんだ……」


「――⁉」


サッとアンリさんの顔色が変わる。

そんなに怖い人なのだろうか……。


「その坊ちゃんが連日、犯人捜しと称して店に来るようになってね。店の雰囲気も悪くなるから、こちらで調査させてもらうってことで手を打ったんだ」

「なるほど、だから食材を……」

「ああ、カレンなら何かわかるかも知れないからな」


マカロンさんは力なく言った。

目の下のクマが、この件での不安な心情を物語っている。


「わかりました、そういうことならお任せくださいっ! すぐにカレンさんに調べてもらいますから!」


考え込んでいたアンリさんが、口を開く。


「……ラマニフ家が関わっているとなると、一刻も早い方がいいでしょう。ナギさん、すぐに工房へ戻りましょう」

「はいっ!」


「悪いなアンリ、よろしく頼む」

「いえ、マカロンさんには、返しても返しきれない恩がありますから……」


そう言って、アンリさんは「さ、行きましょう」と私の手を取った。

自然と手を引かれる形になり、細長い通路を行く。


「あ、あの、アンリさん……」


アンリさんが振り返り、

「何が起きるかわかりません。少なくとも、この店を出るまでは僕の側を離れないでください」と言った。


離れないで……離れないで……。

ぐ……こ、このパワーワード……!


違う、そういう意味じゃ無いってわかってるのに!

あぁ~、もうっ! こんな時に私は何を馬鹿なことを……。


たぶん、ラマニフ家という人たちは、アンリさんが警戒するほど危ない存在なのだろう。

だからこそ、私に何かあってはいけないと、こうして……。


その気遣いを素直に受け止めなきゃいけないのに、どうして胸がドキドキしてしまうんだろう……。


いつも応援ありがとうございます!

明日もお昼12時更新です、よろしくお願いします!


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