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第一部完【連載版】思ったよりも異世界が楽しすぎたので、このまま王都の片隅でポーションスタンドでも始めてのんびり暮らします。  作者: 雉子鳥幸太郎
第一部

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修羅場か、広場か

「ナギー!」


作業部屋の扉がガチャッと音を立て、カレンさんの顔が覗く。


「ごめん! あと三本追加ねっ!」


カウンターでの接客に追われているのか、顔を出したまま慌ただしく言って、すぐに引っ込んでしまった。


「はぁーい、今作りまーすっ!」


カレンさん、大丈夫かな……。


今日は朝からてんやわんやだった。

いつものように、リロンデルでテレサさんの作る朝食を堪能し、のんびりと工房に向かったのだが……。


王都の中心部にある人気高級レストラン『ル・シエル・アジュール』で食中毒が発生したという知らせが入り、毒消しポーションの注文が殺到しているのだ。


「もう何本目だろう……」


朝からずっと作り続けているせいか、腕が少し重たくなってきた。

でも、具合の悪い人を待たせるわけにはいかないよね。


「よしっ」


私は深く息を吸い、気持ちを入れ直す。


毒消しポーションは、月見草を使う。

黄色いランプシェードみたいな可愛らしいお花だ。


まずは、ちょっと抵抗があるけど、お花の部分をすり鉢で丹念にすりつぶす。

花の原型がなくなったら、裏ごししてペースト状にっと……。


そして、地水は先に容器に満たしておいて……。

布でペーストを包み、容器に浸す。


「……ふぅ」


包みからじわじわとペーストの成分が地水に染み出していく。

容器に火をかけたら、ゆっくり弱火で煮込みながらマドラーで混ぜる。


その際、マドラーから魔力を注ぎ入れるイメージ。

これが肝なのだ……。


ゆっくり、慎重に……ここでのイメージは角砂糖じゃなくて、ガムシロップにした。

しかも、喫茶店とかであるような小さなミルクピッチャーみたいなやつで入れるイメージ。

これなら魔力の注ぎすぎも防げると思ったからだ。


魔力がうまく調和すると、ポーションの色が鮮やかな黄緑色に変わる。

黄緑色に変わった液体を見つめながら、「鑑定」と呟く。


――――――――――――――

名称:毒消しポーション

品質:★★★☆☆

効能:食中毒や軽度の中毒症状に即効性のある効果を発揮する。

――――――――――――――


よし、品質もちょうど良い、これなら大丈夫……!

そこですぐに火から下ろし、別の容器に移し替える。


「ふぅ……あと二本!」




――二時間後。


「ナギ~、ほんと助かった! ありがとう~!」

「いえ、間に合って良かったです」


「レストランの人たちも大事に至らなかったようだし、ひとまず安心ね」

「でも、食中毒って、何が原因だったんでしょうか?」


「さあ……、あの店は料理人もちゃんとしてるし、衛生面も王都の検査は厳しいから問題はないと思うんだけど……」


そっか、この世界にも検査とかあるんだ。

たしかに街も綺麗だし、衛生的に無理だと思ったこともないもんね……。


「ちょっと様子見てきてもいいですか?」

「あ、それなら、これ持って行ってくれる?」


カレンさんは大きめの手提げ袋を出してきた。


「店主のマカロンさんにカレンの使いだって言えばわかるから」

「は、はい……わかりました」


何だろう?

まあ、行けばわかるか。


「クラモー! 一緒にいこー!」


店の奥に声をかけると、クラモが飛んできた。


「すっかり仲良くなっちゃって……ふふっ」と、カレンさんが微笑む。


「へへへ、私のボディーガードですから」

『……クァ~』


クラモが私の頭の上で、ため息のような鳴き方をする。


「えーっ、何その嫌そうな感じー⁉」

『クァクァクァ』


今度は愉快そうに笑っている。

どうもクラモにからかわれているようだった。


「あはは! もぅほら、急がないと日が暮れるわよ?」

「はーい、じゃあ行ってきます」

『クアーッ』

「いってらっしゃーい」


小さく手を振るカレンさんに手を振り返して、私はクラモとル・シエル・アジュールへ向かった。



 * * *



ル・シエル・アジュールは、噴水前の広場から南に入った場所にある。

高級店だが客層は幅広く、中でも貴族と平民が同じ店内で飲食するお店は、王都広しといえどもこの店だけだろう。


カレンさんやブロンさんから、とても美味しいと話には聞いていたけど、実際に行くのはこれが初めてだ。


今回の食中毒は残念だけど……原因がわかれば毒消しポーション以外にも、何か役に立てるかもしれない。


噴水前の広場にさしかかると、クラモが何かに反応した。


「どうしたの?」

『……』


返事が無い。どうしたんだろ?

何か美味しそうなものでも見つけたのか……。


クラモの視線の先を追うと、そこには広場のベンチに座るシオンさんの姿があった。

あれ? シオンさんだ……。


見間違いかと思ったが、あのイケメン具合は間違えようもない。

これだけ引きで見ても周囲の空気感が違う。

恐るべし……。


どうしようかな……お使いもあるしなぁ。

かと言って、このままスルーしていくのも気が引ける……。


あれこれ迷っている間に、シオンさんと目が合ってしまった。

向こうも気づいたようで笑顔で手を振ってくれている。


これは行くしかないか……。

腹を括って、私はシオンさんの元へ向かった。


「こんにちはー」

「やあ、ナギ。今日も兄弟子と一緒か?」


爽やかな笑みを浮かべて、ベンチの隣をポンポンと叩く。

手元には何とテイクアウトのチーズヌードンがっ⁉


「それ、シオンさんもお好きなんですか⁉」

照れる間もなく、チーズヌードンのお陰ですんなりと隣に座ることができた。


「ああ、これ? この前、初めて食べたんだけど癖になるな」

「そーなんですっ! この絶妙な塩加減と焼けたチーズの香ばしさがたまらなく……オホンっ、王都でシオンさんに会うと、何だか不思議な感じがしますね」


「俺もだ。初めて会ったときはヴォルホークを連れてるし、ふふっ、森の民(エルフ)かと思ったよ」

森の民(エルフ)⁉ えっ、本当にいるんですかっ⁉」


「あはは! いるわけないじゃないか。いたとしても、俺たちの前には姿を見せないだろうな」

「どうしてですか?」

「……そうか、ナギは知らないのか。それなら、王立図書館に行ってみるといい。あそこなら詳しい文献がある」


王立図書館……⁉ すばらしい響きだ。

そんなものがあるなら是非行ってみたいっ!


「シオンさんっていろいろと詳しいんですね」


お仕事とか聞いてみたいけど……ちょっとなれなれしいかな。

そう思っていると、シオンさんが先に尋ねてきた。


「ナギはたしか……錬金工房で働いているんだったよね?」

「あ、はい、まだ半人前ですが……へへへ」


『クアッ!』

「「っ⁉」」

突然クラモが鳴き、シオンさんとふたりでびっくりする。


それからシオンさんと顔を見合わせ、どちらからともなく笑った。


「「あははは!」」


「クラモも半人前だっていってますね」

「くっくっく、兄弟子は厳しいんだな」


楽しそうに笑うシオンさんを見て、私も嬉しくなる。


「そうか、早く一人前の錬金術師になれるといいな」

「はいっ! そのためにも頑張らないと」


「大丈夫、ナギなら――」

シオンさんが私の後ろを見て眉をひそめた。



「ナギさん……?」



その声に振り返ると、そこには美しい白金(プラチナブロンド)の髪をなびかせたアンリさんが立っていた。


明日もお昼12時更新です!気に入ってくれた方は、

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