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第一部完【連載版】思ったよりも異世界が楽しすぎたので、このまま王都の片隅でポーションスタンドでも始めてのんびり暮らします。  作者: 雉子鳥幸太郎
第一部

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マイホームプラン

私は馬車を降りた後、工事中の家に向かった。

クラモが頭の上から飛び立ち、家の周りを一周する。


『クァクァー!』

「うん、工事が始まってるみたいだね」


家の横に荷車が停まっていて、木材や工具、石材なんかも積まれていた。


「こんにちわー」


庭で木材を切っていた職人さんが顔を上げる。


『クアッ!』


クラモの鳴き声に、職人さんは手の動きを止めた。


「ん? 近所の子かな? って、ヴォ、ヴォルホーク⁉」


若い職人さんは慌てて誰かを探すように周りを見回した。

そりゃ驚くよね……。


「驚かせてすみません、この子はクラモと言って私の兄弟子なんです」

「兄弟子……? ちょっと何を言ってるのか……」


「あ、ごめんなさい、私はこの家の家主で、錬金工房カレンGで見習いをしているナギといいます。クラモはその工房の先住鳥といいますか……」

「……」


余計意味がわからなくなってしまったようだ……。

うーん、説明が難しい。


「おぅ、どうした、ヴェルン」

「あ、親方、このお嬢さんが自分の家だって……」


家の中から出てきたのは、大柄でひげもじゃの職人さん。

親方ってことは、工事の良し悪しはこの人の胸三寸にあるわけだよね……。

営業風に言うならこの人がキーマン。失礼の無いようにしなくちゃ。


「はじめまして、錬金工房カレンGで見習いをしているナギと言います。今日はご挨拶と皆さんに差し入れを持ってきました」


なるべく、自然な感じにっと……。

元の世界の経験だが、職人さん達に挨拶をするとき、あまり堅苦しいのは好まれないことが多かった。同じ気質の人が多いと思うから、きっとこの方が受け入れてもらえるはず……!


「おう、ナギか。俺は職人頭のドノバンだ。ヴォルホークを連れてるなんて、まだ子供に見えるが錬金術師ったぁ、大したもんだなぁ……」


親方は腕組みをしたまま、まるで珍しい物でも見るように、私を色々な角度から眺めている。第一印象は悪くなさそうだ……。


「あの、ここが本当に君の家……なのか?」


ヴェルンと呼ばれた若い職人が言う。


「はい、アンリさんに聞いていただければわかります」

「ヴェルン、お前はホントに細かいことばっか気にして、母さんそっくりだな。そんな細けぇことは良いんだよ。それより差し入れってのが気になるな、何を持ってきてくれたんだ?」

「ちょ、親方……」と、何か言いたげに手を伸ばすが、途中で手を下ろした。


私はバッグを広げてポーションの瓶を見せる。


「疲労回復効果のある飲み物を持ってきました。ちょっと多めに持ってきたんですけど、人数分あるかどうか……」

「ほぉ、回復効果か。ちょうど一息入れようと思ってたところだ。おぉい! 集まれぇ! 一服するぞーっ!」


親方が腹の底から大声をあげると、家の中からぞろぞろと職人さん達が出てきた。


「お疲れさまです!」


挨拶をすると、親方が私を紹介してくれた。


「おい、みんな驚くなよ、この子が家主のナギだ。なんと錬金術師様だぞ? 失礼のないようにしろよ」

『クアッ!』


クラモが催促するように鳴く。


「おぉ、悪い悪い、こいつはクラモ、見ての通り信じられんがヴォルホークだ。まあ、細かいことは気にするな」と、親方が手を払った。


「はじめまして、ナギと言います。差し入れを持ってきたので良かったらどうぞ」


職人さん達は物珍しそうにクラモを見ながら話し始める。


「俺、ヴォルホークなんて初めて見たぜ」

「錬金術で調教してんのかな?」

「騎士が数人がかりでも倒せないって聞いたぞ」


「おぅ! てめぇらロクに挨拶もできねぇのか!」


親方の檄が飛ぶ。

皆がビクッと肩をふるわせ、慌てて挨拶を返してきた。


「よろしく!」

「お世話になってます!」

「差し入れありがとうございます!」


「お嬢ちゃん、悪かったな。まあ、こいつら腕だけは確かだからよ、その辺は安心してくれ」


親方はそう言って、

「お前ら、ありがたく差し入れをいただくぞ」と皆を近くに集めた。


バッグからクラモが嘴で器用にポーションを取り出し、皆の前に並べていく。


「おぉ……賢いんだな」

「ありがとよ」


職人さん達はクラモの賢さに驚いた様子で、口々に感嘆の声を上げた。


「よし、じゃあ俺から……」


最初に親方がグイッと飲み干すと、他の職人さん達も一斉に飲み干した。


「ん? 味は……まあ、ちょっと苦いか」

「あれ? 俺、昨日の筋肉痛が取れたかも?」

「おぉ! 体が軽いな!」

「ホントだ! 休み明けみたいだ!」


皆が嬉しそうに笑い合いながら効果を実感している。

やっぱり、この失敗ポーションは使える……!

マリーさんの件もあるし、カレンさんと相談しなきゃ。


「はっはっは! いやぁ、さすがは錬金術師様だな! こいつは助かるぜ!」


親方がバンバンと私の背中を叩く。

するとクラモが親方の頭をつついた。


「あっ痛ててっ……」

「ほら親方、ナギさんには強すぎるってクラモが怒ってますよ」


ヴェルンさんが間に入ってくれた。


「すまんすまん、つい……ナギ、悪いな」

『クアッ』


「いえ、大丈夫ですから」


私を庇ってくれたんだ。

ふふっ、兄弟子格好いいぞ。


それにしても、ヴェルンさんって細かいところに気がつくタイプなのかな。

親方とは本当に正反対で面白い。


「工事の方は順調ですか?」

「ああ、うん。元々の造りがしっかりしてるからね。簡単な修繕で済みそうだよ」


「良かった、じゃあ早く住めそうですね」

「そうだね、でも……」

「何か問題が?」


「いや、ナギが錬金術師だって聞いて思い出したんだけど……一階の客室は作業部屋にすれば良いんじゃないかなって思ってさ」

「作業部屋……」


たしかに専用の作業部屋は欲しいけど、普通の部屋をそのまま使えばいいかなって思ってたんだよね。


「導線も庭に繋がってるし、親父に……いや、昔、親方に聞いた話だと、工房って独特の換気システムや採光の仕方があるらしいから、もし普通の部屋を作業部屋に使うつもりならと思って」

「えっ⁉ そうなんですか⁉」


知らなかった……。

そっか、薬品とか扱うし、換気は重要だよね。

直射日光も素材を痛めちゃうか……。


「ちょっと聞いてみるよ。親方ー!」と、ヴェルンさんが親方を呼ぶ。


「ん? どうした?」

「一階の客室を作業部屋にすればどうかなって」


「一階? ああ、別に構わんが、この飲み物を買うことは――」


その時、家を囲むように建てられた丸太の足場が風で揺れ、上に置いてあった木材が転げ落ちた。


「「あぁっ⁉」」


職人さん達が声を上げる。


『クアーッ!』


ぶわっと風が舞ったかと思うと、クラモが凄まじい速さで落ちた木材を空中で回収して、何事も無かったかのように庭へ木材を置いた。


「「う……うぉおおおお――――――――っ‼‼」」


歓声を上げ、職人さん達は飛び上がって喜ぶ。


「守り神だ!」

「ああ、現場の守り神だぜ!」

「ありがとよ! クラモー!」


ヴェルンさんが、ホッと胸をなで下ろす。


「あの木材はとても希少なんだよ。あの高さから落ちたら傷が付いて使えなかったと思う。本当に助かったよ……ありがとう」


「お礼なら兄弟子に言ってあげてください」


クラモが誇らしげに私の元へ舞い戻ってきた。


「クラモ、ありがとう! 君のお陰で工事を中断せずに済んだよ」

『クァーッ』


クラモはバサバサッと羽根を羽ばたかせた。


「おぅ、ナギ。明日から作業部屋の改装に入るから、また来てくれるか?」


親方が私に向かって言う。


「はい、もちろん! あ、ところで、作業部屋の件なんですけど……」


「親方は錬金工房を何件か手がけてるんだ。たしか、その時の図面も残ってたはずだから持ってくるよ。それを参考にしながらナギの希望を聞くってのはどうかな?」


ヴェルンさんが嬉しそうに提案してくれる。


「本当ですか⁉ ぜひお願いしますっ!」

『クアッ!』と、クラモも賛成の声を上げた。

「よし、決まりだな」


親方が頷くと同時に、クラモが飛び立った。

皆で家の上を気持ち良さそうに旋回するクラモを見上げた。


工房のある家――。


なんだか、ますます自分の家って感じがしてきた…!

カレンさんにも良い報告ができそうだ。


明日もお昼12時更新です。

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クラモの部屋も作らないと・・・
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