男友達?
そろそろ陽泉花のストックが切れそうになり、今日はクラモとまたあの森へ素材を集めに来ていた。
「お風呂っ、お風呂っ、楽しいお風呂っ、綺麗なお~風呂~♪」
嬉しくて自然と口ずさんじゃうな~。
早くアンリさんから連絡こないかなぁ。
あ、そうだ!
ちょっと気が早いけど、部屋に飾るものとか見に行きたいよねぇ。
王都だとどこが良いんだろう?
戻ったらカレンさんに聞いてみようかな。
さて、陽泉花の群生地は大丈夫かな。
さすがにあれだけ咲いてたんだし、まだ残ってるはずだよね。
茂みをかき分け、森の中を進んで行く。
「クラモ、こっちであってる?」
『クァッ』
最近は前よりも意思疎通ができるようになってきた。
何となく雰囲気でわかるのだ。
茂みをかき分けると、可愛らしい白い花が一面に咲き誇っていた。
「よかったぁ! 前より増えてるかも!」
早速、花を採取しようとした、その時。
『キュェーッ!!』
私の前にクラモが舞い降りる。
「きゃっ⁉ ど、どうしたのクラモ⁉」
「おっと、怒らないでくれ、驚かせるつもりはなかったんだ」
「へ?」
見ると、木の陰から以前、ここで会ったことのある男の人が出てきた。
「あなたは……シオン、さん?」
「ああ、そうだ。君はナギだよね? 俺も覚えてるよ」
『キュエエエッ!!』
クラモが威嚇するようにシオンさんに向かって羽根を広げる。
「クラモ、この人なら大丈夫。ありがとね」
『……クァ』
少し不満そうな声で鳴き、クラモは羽根を収めた。
「ふぅ、何とか兄弟子には許してもらえたようだな」
シオンさんが少しおどけたように微笑む。
「あははっ、覚えてたんですね。そう、兄弟子です」
なぜだろう?
こんなに格好いい人なのに、不思議と緊張しない。
もう何度も会ったことがあるみたいだ。
「……君は、いや、それより少し話さないか?」
「もちろん、私でよければ」
シオンさんは「ここに」と自分のマントを木陰に広げた。
「あ、大丈夫ですよ。私、作業着ですし」
「おいおい、少しくらい格好つけさせてくれよ」
「いやいや、十分格好いいですから」
ん? あぁああっ⁉
つい、勢いで余計なことを……。
「へぇ、ナギには俺が格好良く見えてるんだな?」
「あ、いや、その……」
「ははは! そんなに困った顔しないでくれよ、社交辞令くらいはわかるさ。この辺は虫が多いからそのまま座ると後悔するぞ?」
「いっ⁉ む、虫……⁉」
「俺のも狩猟用のマントだ、こういう使い方も普通だから気にせず座ってくれ」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……失礼します」
私はそっとマントの上に腰を下ろした。
「兄弟子にこれをやってもいいか?」
シオンさんは懐から乾燥肉を取り出して、自分でも食べて見せた。
「乾燥肉ですか?」
「ああ、なかなか美味い」
「ちょっと見せてもらっても?」
「ん? ああ、どうぞ」
疑うわけじゃないけど、クラモが口にするのだ。
万が一があっては後悔してもしきれない。
私はそっと「鑑定」と呟く。
――――――――――――――
名称:王鹿の乾燥肉
品質:★★★☆☆
効能:低カロリー、高タンパク、鉄分豊富なヘルシーな保存食
――――――――――――――
おぉ……お酒のつまみに良さそう。
これなら大丈夫かな。
「クラモ、これシオンさんがくれるって」
『……』
クラモは少し警戒しながらも、乾燥肉に興味を示している。
「よう、兄弟子。俺からのプレゼントだ。気に入ってくれるといいんだけどな」
『……クァ』
シオンさんをジッと見つめた後、クラモは私の手から乾燥肉をヒョイッとついばんで口の中に放り込んだ。
『クァクァッ!』
クラモはシオンさんに向かって礼を言っているのか、嬉しそうにその場で小さく二度ジャンプした。
「喜んでるみたいですね」
「これでナギと話しても怒られないで済みそうだ」
「あはは、クラモはそんな過保護じゃないですよ」
「そうか? 俺には妹想いの過保護な兄貴に見えるけどな」
一瞬、お互いに沈黙し、その瞬間、クラモが気の抜けた合いの手を入れた。
『クア~』
「「あははは!」」
男友達って、こういう感じなのかな?
元の世界では男の人とこんな風に話すことってなかったから、何だか新鮮に思う。
「こうしてのんびりするのは久しぶりだな……」
シオンさんが青く澄んだ空を見上げる。
その横顔がなぜか悲しそうに見えた。
「何かお悩みとかあるんですか?」
「え? そんな風に見えた?」
「あ~! ち、違うんです、いえ、違わないというか、何となくそう思っただけで、深い意味はないんです、あはは……」
話しやすい雰囲気だったから、つい口に出てしまった。
折角、仲良くなれそうなのに、あまり踏み込んじゃ駄目だよね。
「……実は、最近、家族を失いかけたんだ」
「えぇっ⁉」
「あ、いや、正確には家族ではなくて、仲間と言った方がいいか」
「お仲間さん……で、でも、ご無事なら良かったですね」
びっくりしたぁ……。
でも、何か大変だったのかな。
「ありがとう。でも、色々あってな。今までのように、彼らと接することができなくなった。それが正しいことだって、頭ではわかっているんだがな……」
これはもしかして、管理職ならではの悩み⁉
シオンさん有能そうだし、身なりもちゃんとしている。
たぶん、その仲間というのが同僚とか部下のことなのかも。
「……同じ目線でいられなくなった、とか?」
シオンさんがハッと私の顔を見た。
「驚いたな……なぜ分かるんだ?」
「それは……勘です」
「勘?」
「はい、勘です」
「ぷっ……あははは! いやぁ、ナギは面白いな!」
シオンさんがお腹を抱えて大笑いする。
「そ、そんなに笑わなくても……」
「いやぁ……悪い悪い、こんなに笑ったのはいつ以来かな……。お陰で気持ちが楽になったよ」
「それは何よりです」
「あとこれは、私の主観なんですけど、シオンさんみたいに周りの人のことをきちんと考えてくれる人が上司だったら……私は嬉しいですよ!」
「……」
シオンさんが少し驚いたように私を見つめる。
その視線に気付いて、私は慌てて言葉を続けた。
「す、すみません、余計なことを言ってしまって……」
「いや、謝ることなんてないさ。事実、仲間というのは部下のことだ。だから、たったあれだけの会話からそれを見抜くなんて、ナギは凄いなと思っただけだよ」
風が吹きぬける。
白い陽泉花を揺らし、数枚の花びらが空高く舞い上がった。
シオンさんが立ち上がり、私に手を伸ばした。
「今日は良い気分転換になった。ありがとう、ナギ」
「いえ、こちらこそ」
すんなりと手を取る。
アンリさんと違って、シオンさんの手は厚くて固かった。
シオンさんは慣れた手つきでマントを払う。
「――また、どこかで会えるといいな」
白い歯を見せて笑うシオンさんは、とても爽やかだ。
私のことをあれこれ深く尋ねてこないところも、丁寧に距離感を図ろうとする誠実さと思慮深さを感じる……。
はっきり言おう、好印象です。
はあ……これはカレンさんには言えないな。
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