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第一部完【連載版】思ったよりも異世界が楽しすぎたので、このまま王都の片隅でポーションスタンドでも始めてのんびり暮らします。  作者: 雉子鳥幸太郎
第一部

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貴族御用達商人

カレンさんについていくと、見たこともないような豪邸の前に辿り着いた。


「ナギ、ゴールドαはちゃんとある?」

「は、はいっ、ここに……」


私は上質な紫色の布で包んだゴールドαの瓶を見せる。


「よし、じゃあ行くわよ」

「ちょ、カ、カレンさん⁉ ストップ!」


カレンさんの服をぐっと掴む。


「ん? どうしたの?」

「いえ、せめてここが誰のお屋敷なのか、心の準備ができれば……」


「ああ、ごめんごめん! ついついナギなら平気かなって思っちゃって」


てへっと笑みを浮かべるカレンさん。

コホンと咳払いをした後、豪邸に手を向ける。


「ここは貴族御用達商人のアンリ・ド・ラメールのお屋敷です!」


貴族御用達商人って……なんか凄い人?豪商的な?


「アンリさんって呼べばいいんですか? それともラメールさんの方が?」

「んー、ラメールかな。私はアンリって呼ぶけど最初はラメールの方が良いと思う」


「ラメールさん……はいっ、わかりました!」

「じゃあ、行きましょう」



 *  *  *



執事らしき男性に案内され、私とカレンさんは応接室のふかふかのソファに腰掛けて、ラメール氏を待っていた。


テーブルには高級そうなティーセットと、美味しそうなクッキーが用意されている。

紅茶を頂きながら、この豪邸の豪華さに感心していると、開け放たれた扉の向こうから話し声が聞こえてきた。


――誰か来たようだ。


「では、私の方で探してみましょう」

「そうしてもらえると助かる」


スッと横切った背の高い男性と一瞬、目が合った気がした。

あれ? あの人、どこかで見たような……?


「ナギ、どうかした?」

「あ、いえ、なんでもないです」



「――やあ、お待たせ」


それからしばらくして、応接室に颯爽と現れたのは、背の高い美形の紳士だった。

いや、女性と見間違えてもおかしくないくらい整った顔立ち……!


切れ長の目に透き通るような白い肌。

プラチナブロンドの長い髪を後ろで一つに纏めている。


「ご無沙汰ね、アンリ」

「はあ、カレン……月に一度は顔を出せって言ったよね?」


あれ? なんだかすごく親しげな雰囲気……。


「私も色々忙しいのよ」

「……で、そちらは?」


うっ……なんて眼力……。

何もされてないのに、緊張して照れてしまう!


「あ、は、初めまして、ラメールさん! 私はナギといいますっ!」


とにかく失礼のないよう、深々と頭を下げた。


「アンリでいいよ」


アンリさんは短く答え、カレンさんに目を向ける。


「私の弟子なの、とっても優秀なのよ」

「弟子? カレンが?」


「どういう意味よ!」

「どうって……あれだけ、僕には一人が良いって言ってたじゃないか」


え、そうだったの⁉

もしかして、カレンさん、無理してくれてるんじゃ……。


「余計なこと言わないで。それより今日は相談があって来たの」

「相談? カレンが僕に?」


「いいから、とにかくこれを見てちょうだい、ナギ?」

「あ、はい!」


私はテーブルの上にゴールドαを置き、包んでいた布を丁寧に外した。


「――⁉」


アンリさんの表情が引き締まる。


「これは……手に取っても?」


カレンさんが私を見やる。

私は「どうぞ」と瓶を差し出した。


「……鑑定」


アンリさんは呟いた瞬間、大きく目を見開いた。


「これは……カレンが?」

「いいえ、ナギが作ったの」


驚いた顔で私を見るアンリさん。

アンリさんも鑑定が使えるんだ……。この感じだと、物の鑑定ができるのかな?


「……これを彼女が?」

「品質は言わなくてもわかるでしょ?」


「ああ、で、これを僕にどうしろと?」

「売却先を紹介して欲しいの。それと、王都で家を探してるんだけど、良い物件があったら教えて」


「……用件はそれだけ?」

「ええ、それだけ」


数秒の間、カレンさんとアンリさんが無言で見つめ合う。

先に口を開いたのはアンリさんだった。


「久しぶりに帰ってきたと思ったら……まあいい、ポーションの方はちょうど探している客がいる。かなり身分の高い方だから、金払いも問題ないだろう」

「さっすがー! アンリってホント有能よねぇ~」


屈託なく言うカレンさんを見て、アンリさんは小さく溜息をついた。


この二人、もしかして……。

元恋人? いや、そういうのとはちょっと違うかな。


「あの、お二人は……昔からのお知り合いなんですか?」


一瞬の間の後、アンリさんは髪をかき乱しながら、カレンさんを諌めるように見た。


「はあ……。カレン? ナギさんに言ってないのか?」

「あはは……バレた?」


「え?」


「ごめんナギ。これ、弟なの」

「えっ⁉ お、弟さん……‼」


スッと私の前に立ち、優雅に会釈をしてくれた。

これだけ美形だと、まるで映画のワンシーンみたい……!


「いつも姉がお世話になっております」

「い、いえ! とんでもない! 私がお世話になってますんでっ! 絶対に!」


あわあわしてしまい、自分でもよくわからないことを口走ってしまう。


「ふふっ、ナギさんは面白い方ですね」


え、笑みがもはや凶器……!

姉弟揃って美形すぎじゃない?


「い、いえ……そんな……」


「家をお探しだと伺いましたが、ラメール家でも幾つか物件を所有しております。どのような家をお考えですか?」

「あ、えっと……浴室付きの家を探してるんです」

「浴室ですか……」


「はい、もしなければ、改装して作ることも視野に入れて……」

「なるほど、そういうことでしたら、腕の良い大工がいますから何とかなるでしょう」


「本当ですかっ⁉ あ、でも……予算はどのくらい必要なんでしょうか?」

「そうですね、いまの相場ですと……これくらいかと」


アンリさんは私に指を4本立てて向ける。

4本……金4枚? いや40枚?

いまいち金銭感覚がわからないな……。


「金4000枚ってところでしょうか」


「――ぶふっ⁉」

紅茶を吹き出しそうになる。


「ちょっと、大丈夫?」

カレンさんが背中をさすってくれる。


「すみません、大丈夫です……ちょっと驚いてしまって」


「金4000なら、まあ妥当じゃない?」


カレンさんがさらっと言う。


「いや、4000って……」

「大丈夫でしょ、アンリ、それいくら?」


カレンさんがポーションに目を向ける。


「……そうだね、最低でも3000は」

「さ、さんぜんっ……⁉」


そんなに⁉

あんな簡単に作れちゃったんだけど……いいの⁉


「当然です。並の錬金術師には作れないものですからね」

「えっ……そうなんですか⁉」


心配そうな顔で私を見ていたアンリさんが、カレンさんに言った。


「カレン、いったい彼女に何を教えてるんだ? 何も知らないじゃないか」


「い、いや、それはだって、まだ教え始めたばっかりだし……ねぇ?」

「そ、そうなんです! 本当に最近弟子になったもので……」


「あのさ、昨日や今日、錬金術師になって作れるようなものじゃないよ?」

「いえ、その、自分、作れてしまって……すみませんっ!」


営業時代の性か……。

なぜか直角お辞儀で謝罪をする私。


「あはは! やっぱりナギって面白い!」


なぜか、ツボに入ったカレンさんが楽しそうに笑い出す。


「……とにかく、一度、物件を見て回りましょうか」

「はい、よろしくお願いします!」


「そんなに堅苦しくなさらずに、カレンの弟子なら身内同然ですから」

天使のような笑顔で言うアンリさん。


「アンリさん……ありがとうございます」


本当にありがたい……眼福です。


「駄目よアンリ、ナギは渡さないからね?」


カレンさんが私をぐいっと引き寄せた。


「……」


アンリさんは無表情でカレンさんを見つめている。


「カレンさん、そんな渡すも何も……」

「そっか、残念。ナギさん、すごく僕の好みなんだけどなぁ」


突然くだけた口調で告げられ、私は思わず目を見開いた。

これまでの丁寧な物腰が嘘のように、アンリさんは意味ありげな笑みを浮かべながら、じっと私を見つめている。


「へ?」


え? 嘘でしょ? こんなイケメンが……⁉

こ、好み……ってことは、好意的とかそういう……⁉


「ほら、アンタの趣味はわかってんのよ、絶対に駄目だからね? わかった?」


カレンさんがアンリさんに釘を刺す。


駄目じゃない……カレンさん、駄目じゃないですぅ……。

私は平静を装いながら心の中で泣く。


「わかったよ、仕方ないね。じゃあ、ナギさん、これからもよろしく」

「……よ、よろしく……お願いします」


思っていた以上に、異世界での恋愛はハードルが高そうです。


ありがとうございます!

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フラグを折られたのか その分は師匠との仲を深めてー
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