問題作
「ゴールドαって……」
うーん、何だか危険なものを作ってしまったかも……。
ポーションは蜂蜜色で、見た目は意外と美味しそうだ。
「さすがにパンに塗って食べるわけにはいかないよね」
「どうかしたの?」
「あっ、カレンさん。練習してたら、こんなものができちゃって……」
私はゴールドαをカレンさんに差し出した。
「えっ⁉ ちょ、ちょっと待って……」
カレンさんは慌ててシャーレとスポイトを取りに行った。
そして、無言のまま、シャーレに透明な液体を静かに注ぐ。
これから一体、何が始まるんだろう……。
固唾を呑んで見守る中、カレンさんは慎重にスポイトを使い、ゴールドαをシャーレの中に一滴落とした。
その瞬間――液体が鮮やかな赤色に染まった。
「出た出たっ! レッドよ、レッド!」
興奮で頬を紅潮させながら、カレンさんが叫ぶ。
「あの、これはどういう……?」
「あっ、ごめん! そうよね、説明してなかったわ……。この透明な液体は、ポーションの品質を調べるための特殊な試験液なの」
「試験液……」
「色で段階がわかるのよ。イエローで星2、マゼンダで星3、レッドで星4以上。そして、ブラックなら星5確定の神話級の秘薬ってわけ。まぁ、ブラックは都市伝説みたいなものだけどさ」
「ブラックって、今まで誰か作れた人がいるんですか?」
「実際に見た人はいないわ。でも、過去の文献に一度だけブラックを作った錬金術師の記述が残ってるの。その人の素性は不明なんだけど、聖秘薬を作って、当時の女王様の命を救ったって記録だけは残されてるわ」
なんだかオカルトちっくな話だなぁ。
「聖秘薬か……。本当に人が生き返るとしたらすごいですよね」
「まぁ多分、完全に死んでいたわけじゃないと思うわ。さすがに死者は蘇らないでしょ」
「そうですよね……」
うんうん、そんな怖いもの、作りたくもない。
「それはそうと……このレッド、どうしようかしら」
カレンさんは困ったように、ゴールドαを見つめている。
「普通に売ることはできないんですか?」
「それができれば悩まないんだけど……。今は精霊祭の準備で資金を使っちゃってて、買い取れないのよ。それくらい価値のある代物なの、これ」
「そ、そうなんですか……⁉」
えっ? そんなに高価なの⁉
もしかして……マイホームの資金が、こんなに早く……⁉
いや、落ち着こう。まずは話をよく聞かないと。
「販売することで法に反したり、その……錬金術師の掟みたいなものに触れたりしませんか?」
「あはは! 掟だなんて! ナギったら、そんなの無いわよ。でも、暗黙の了解というか……こういう貴重な物は、得意先の中で一番位の高い方に話を持っていくか、ギルドを通して買い手を探すのが普通かしらね」
「じゃあ、カレンさんに代理で売っていただくことは……」
「もちろんそれでもいいけど……ギルドでも紹介してくれるわよ?」
キョトンとした表情のカレンさん。
でも、折角なら信頼できる人に任せたい。
それに、カレンさんも得意先に良い話を持っていけるはず。
うん、これもきっと、小さな恩返しになるよね。
「カレンさんを信頼していますから。それに、これだけ価値があるなら、カレンさんの得意先の方も喜んでくださると思うので」
「……っ!」
カレンさんは感極まった様子で、
「可愛いくて気遣いまでできるなんて……」と言って、私を抱きしめた。
「わわっ⁉ ちょっとカレンさん、そ、そんな大げさに……! それに……」
「それに?」
「実は、お金が貯まったら自分の家が欲しいと思ってまして。理想はお風呂付きの家なんですけど……」
「あー、そういえば浴場に行きたがってたわよね? そっか、家か……うーん、王都となるとちょっと値が張るわねぇ……」
カレンさんは頬に手を当て、斜め上を見る。
「やっぱり……ゴールドαを売っても足りないですか?」
「そりゃあ数を売れば十分足りるでしょうけど……。このレベルの物を量産なんてしたら、ちょっと危険だわ。変な輩に目を付けられるかもしれないし……」
え、何か怖そう……。
下手すると監禁されて、ポーション製造機にされちゃうかも⁉
そんなの無理無理無理! 絶対無理っ!
「あ、でも……」
考え込むように俯いていたカレンさんが、突然パッと顔を上げた。
「ナギ、出かける準備をしてくれる?」
「えっと、どちらへ」
「んー、偉い人のところ?」
そう言って、カレンさんは意味ありげに微笑んだ。
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