鑑定
「そっかぁー、ずっと言えなくて辛かったんだね……。ごめんね、私が何か勘違いさせるようなこと言っちゃったのかもなー」
カレンさんが眉を下げながら笑った。
「い、いえ、そんなことないです! 私が勝手に色々考えてしまったからで……」
「ふふっ、じゃあ、おあいこだ?」
「えっ……」
予想しなかった言葉と、カレンさんの悪戯っぽい笑みにドキッとする。
「それよりさ、もう使ったの?」
「いえ、まだ一度も……」
「じゃあ、何が鑑定できるかもわかってないのね?」
「はい、そうなんです。あ、それと……まだ、言わなきゃいけないことが……ありまして……」
カレンさんなら大丈夫だって頭でわかっていても、いざとなると、やっぱり勇気がいるなぁ……。
「大丈夫、どんな秘密でも、受け止める自信はあるわよ?」
「……じ、実は、私、異世界から来てまして……」
数秒の間、カレンさんの動きが止まったように見えた。
「……異世界?」
「はい……」
「異世界?」
「は、はい、異世界です」
「え、ちょっと待って、えっと……どうやって来たの?」
「魔術師さん達が言うには、聖女召喚というものらしいです」
「聖女召喚っ⁉ ナ、ナギって……聖女なのっ⁉」
カレンさんが驚いて席を立つ。
「あ、いえ……私は聖女ではなかったそうです。だから、お城から追い出されちゃって……その時に魔術師さんが、私に錬金術師の適性があるって教えてくれたんです」
「そうだったの……お城の魔術師……? きゅ、宮廷魔術師のことよね⁉ うん、そうよね……召喚なんて彼等くらいしか……」
カレンさんは顎に手を当て、真剣な顔で何やら呟いている。
「そのせいかどうかわからないんですが……魔力通しをしてもらって、スキルを見たんです。そしたらスキルポイントが1000もあって……」
「せ、1000っ⁉」
「怖そうな魔法とか色々あったんですけど、そういうのは苦手というか、私はこの異世界でのんびりポーションを売って、生活していければいいと思ってて……役立ちそうな鑑定と鑑定阻害、生活魔法の三つを覚えたんです」
「鑑定阻害か……私も初めて聞くスキルだわ。名前からして、鑑定されるのを防ぐスキルってことよね?」
「たぶんそうだと思います、最初は隠そうと思っていたので……」
カレンさんは腕組みをしたまま頷く。
「うん、ナギの判断は間違ってない。同じ立場なら私でもそうするわ」
「カレンさん……」
「そっかそっか、これはちょっと考えないとね……。よし、鑑定を活かす方向で行きましょう。折角のスキルは使わなきゃ損だもの、ね?」
「えっ! い、いいんですか……⁉」
「ん? どうして?」
「だって、やっぱり自分の力で覚えないと……」
「あはは! 何言ってんの、鑑定だって自分の力じゃない。手がもう一本あったら使うでしょ? それと同じよ」
カレンさんはあっけらかんと笑う。
私は何だかスッと肩の力が抜けたような気がした。
「まずはナギの持っている鑑定が何を鑑定できるのか、これを知らないとね」
「そうですよね、でもどうやって使うのか……」
「んー、まあ、スキルのトリガーなんて人それぞれだし……そうだ! わかりやすく『鑑定』って言ってみるとか?」
「なるほど……それいいですね、やってみます」
「あ、ちょい待ち! これを鑑定してみて」
カレンさんが戸棚から小さな瓶を取り、私の目の前に置いた。
「これは……ポーションですか?」
「内緒、言っちゃったら意味ないでしょ?」
「あ、そっか……コホン、では……やってみます」
私は大きく深呼吸をした後、瓶に両手を翳した。
「鑑定!」
「……」
――――――――――――――
名称:ハイ・ポーション
品質:★★☆☆☆
効能:中程度の裂傷や熱傷、感染症など幅広い回復作用をもたらす。
――――――――――――――
「で、出ました! えっと、名称と品質、効能が表示されてます!」
「やったぁ! すごいすごいっ! 錬金術師にぴったりじゃない!」
二人で手を組み、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「それで、どんな感じ? なんて表示されてるの?」
「えっと、ハイ・ポーション、品質は恐らく5段階中2段階です。なんか星マークがあって、色つきの星が二個表示されてますね。あと効能が中程度の裂傷や熱傷、感染症など幅広く効くと書かれてます」
「すごいわよ、ナギ! このポーションはね、私が初めて作るのに成功したハイ・ポーションなの。記念に取って置いたものだから、かなり古いのよ」
「なるほど、だから品質が低めなのかもしれませんね……」
「あ、あと、さっき失敗したポーション、これも観てもらえる?」
「はい、わかりました――鑑定!」
――――――――――――――
名称:回復ジュース
品質:★☆☆☆☆
効能:疲労回復、血行促進効果がある。
――――――――――――――
「回復ジュースって書いてありますね、疲労回復に良いみたいです」
結果を伝えると、カレンさんがうんうんと頷く。
「おっけー、これならいけるかな……ナギ、ポーションの作り方は頭に入ってる?」
「は、はい! 大丈夫だと思います!」
「本当はもっと時間がかかると思ってたけど……。練習を兼ねて、精霊祭用のポーションを作っていこうと思うの」
「精霊祭……?」
「あ、そっか、えっと……来月、年に一度の精霊祭があるの。このエルドラン王国の風物詩ってやつね。王都中のお店や家で、祭壇に精霊様に捧げるポーションを供えるんだけど、まあ、その注文がハンパなくてね……」
カレンさんが片手でこめかみを揉みながら言う。
「そういえば、大量に注文が来てるとか言ってましたよね……」
「そうなのよ……。まあ、一年の稼ぎの大半はここで稼いじゃうから、この時期の錬金工房はどこも大忙しってわけ」
「なるほど……」
そっか、元の世界でいうところの「おせち料理」とか「クリスマスケーキ」みたいなものなのね……。
「じゃあ、頑張って作らないとですねっ!」
「手伝ってくれる⁉」
「もちろんですっ! といっても、私じゃ力になれるかどうか……あはは」
「なれるに決まってるじゃない! 報酬は歩合で出すわ。ナギは練習を兼ねてポーションを作り続けてくれればOK。できたポーションは鑑定して、品質3以上のものを一本に付き銀2枚で買い取るわ。それ以下は買い取りなしだけど、ナギの自由にしてくれて大丈夫だから」
「い、一本銀2枚……⁉ その、材料費とか大丈夫なんですか⁉」
「うん、精霊祭用だし、いつもより売値も上がるからね。ポーションの値付けって、大体の相場はあるけど、品質や量、工房によっても差があるし、私のところが一番良いってわけじゃないけど、平均よりは少し上かなぁ。ま、ウチはずっとこれでやってるから」
「そうなんですね、じゃあ、お言葉に甘えて……」
これでかなり資金に余裕ができそう!
練習もさせてもらえるし、こんな良い話はない!
「じゃあ、早速始めてもらえる?」
「はい!」
……練習を重ねれば、精度も上がっていくはず。
そうすればロスも少なくなって、カレンさんの負担も減るし、私の腕も上がる!
みんなハッピー! まさに正のスパイラル!
よーし! 頑張るぞーっ!




