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第一部完【連載版】思ったよりも異世界が楽しすぎたので、このまま王都の片隅でポーションスタンドでも始めてのんびり暮らします。  作者: 雉子鳥幸太郎
第一部

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錬金術師の心得

素材採取を終えた私とクラモは、カレンさんの工房に戻った。

陽泉花の状態をチェックしながら、カレンさんが頷く。


「うん、上出来上出来、ちゃんと綺麗に採取できてるわね」

「ホントですかっ! 良かった~」


ホッと胸をなで下ろす。

実は採取の時、どこに剪定ばさみを入れるか迷っていた。


悩んだ挙げ句、葉の部分が終わるところで切ることにしたのだが、どうやら間違ってなかったようだ。


「じゃあ、早速これを使って回復ポーションを作っていくわよ」

「はいっ!」


窓際で役目を終えたクラモが、日向ぼっこをしながら私達を眺めている。

よし、兄弟子も見ているし、ここは良いところをみせなければ!


カレンさんは大きなガラスの器に陽泉花の花の部分を手でちぎりながら入れていく。

ある程度入れた後、私の前に陽泉花を置き、花の取り方を実演して見せてくれた。


「いい? 陽泉花はね、器に入れる時に初めて分離するのよ。ナギ、見てほら、花の付け根の部分、ここね。そう、ここに親指を置いて……うん、押し下げるように。ほら、簡単に取れるでしょ? はい、じゃあ、やってみて」

「はいっ!」


付け根に親指を置いて……押し下げる!

言われた通りにやってみると、ポロッと簡単に花が取れた。


「わぁ! できましたっ!」

「へぇ、上手じゃない。じゃあ、この器の八分目くらいまでいれてくれる?」


「はい!」


私は黙々と花を取り、器にいれていく。

魔鉱石のときもそうだったけど、実際に手を動かすのは楽しい。

ポーションを作っているんだという実感が湧くのかな。


集中して作業を続け、20分ほどで器の八分目くらいまで花を入れ終わった。


「うん、もういいわよ」


カレンさんがそう言って、魔鉱石の粉と水を持ってきた。


「前に少し説明したけど、今日はしっかり教えていくからね」

「はい、お願いします!」


おぉ……本格的な予感!

おっと、ちゃんとメモしなきゃ。

私は錬金メモの用意をして、カレンさんの言葉を待った。


「地水は『魔鉱石』と『水』を混ぜたものだと言ったよね?」

「はい、ポーションや色んな薬のベースになると」


「そう、よく覚えてたわね。じゃあ、ここでナギに質問。例えば、魔鉱石3、水1の割合で作った地水と、魔鉱石2、水2で作った地水は同じだと思う?」


うーん……割合が違うってことは、濃度が違うわけだから……。効能も変わってくる? となると、作ろうとしている物によって割合を変えるべきなのかな?


「同じじゃないと思います」

「ふぅん、それはなぜだと思う?」


「濃度によって、作れる物が変わるからでしょうか……」


「ほほぅ、偉いっ!」

「わわっ」


カレンさんがゴシゴシと私の頭を撫でた。

ちょっと照れくさいけど、悪い気はしない。むしろ嬉しかった。


何でだろう……たぶん、これが元の世界だったら、どんなに綺麗な人でも、頭を撫でられて良い気はしなかったはずだ。


でも、なぜか今は違う。

理由はわからないけど、私を覆っていた壁のようなものが、この異世界ではなくなっているからなのかも知れない。


変に構えず、相手の好意を素直に受け入れられるというか……。


「その考えで大丈夫よ。地水の濃度レシピは各工房の秘伝でもあるからね。それだけ割合はシンプルだけど奥が深いの」

「なるほど……」


「それこそ、名門と呼ばれる工房には、何百年もの試行錯誤を繰り返してたどり着いた独自の『黄金比』があったりするし、まあ、錬金術師の腕の見せ所ってわけ」


なるほど、秘伝のタレ的な……。


「じゃあ、工房によってポーションの効き具合も変わってきますよね?」

「まさにその通り! で、これからナギには私のレシピを教えます」

「えっ⁉ いいんですか……?」


「当たり前じゃない、私の弟子なんだから」

「カレンさん……」


うぅっ……なんか感動……。


「でも、ひとつだけ約束して欲しいの」

「は、はいっ、何でしょう?」


「レシピは書き留めないで」

「え……」


「大丈夫、何度もやれば体が覚えるから」


カレンさんは少し眉を下げ、

「ごめんね、でも、リスク管理は基本中の基本だから……」と、私を気遣うように微笑んだ。


「頑張って覚えます! 絶対に覚えて見せます!」


正直なところあまり自信はない……。

でも、カレンさんの期待に応えたい!

そうだ! ポーション売って生きていくのなら、これくらいできなくてどうする!


「うん、ナギなら大丈夫ね。じゃあ、最初はじっくり見ててね。私の手の動き、入れるタイミング、分量や混ぜる順番、今から何度も繰り返すから、一回ごとに見る部分を自分なりに決めておくと良いと思うわ」


「わかりました! よろしくお願いします!」

「じゃあ、始めるわね――」


その日、夕方までカレンさんは回復ポーションを作り続けた。


驚いたのは、その洗練された所作だ。

動きがブレたり迷ったりすることもなかった。


何度も何度も研鑽を重ねた証拠だと私は思った。

すごい、本当に尊敬しかない……。


今日わかったことは、回復ポーションの地水の割合は、魔鉱石の粉を大さじ6杯半、水は器に七分目、先に陽泉花を入れておき、水を静かに注ぎ入れたら、ゆっくりと混ぜながら粉を入れていく。一気に入れずに一杯ずつ入れて溶けてから次を入れる。


とまあ、こんな感じだけど……見落としている部分があるかも知れない。

明日もしっかり観察しなければ……。


後片付けを終え、カレンさんが温かいミルクティーを出してくれた。


「どう? 見てるだけっていうのも疲れたでしょ?」

「ありがとうございます。えっと……正直に言っちゃうと疲れました。でも、心地よい疲れっていうか、何だか私、生まれて初めて満たされてるような気がします」


「ふふっ、ナギは大袈裟なんだから~」


カレンさんが嬉しそうに顔を(ほころ)ばせながら、私の頭を撫でる。


「も~、やめてくださいよ~」


不思議だ――。

やっぱり、全然嫌じゃない。


「や~めないっ! ふふふっ」

「もぅー!」


「ごめんごめん」


私が乱れた髪を直す姿を楽しそうに見つめながら、カレンさんが言った。


「ナギ、あなたと出会ってから毎日が楽しいわ。ありがとうね」

「カレンさん……わ、私もですっ!」


「ほんとに? じゃあ、こっちで乾杯しちゃう?」


目を輝かせたカレンさんが、ワインのボトルを持ってくる。


「だ、駄目ですよ、明日もありますから」

「え~! いいじゃ~ん、ナギぃ~!」


「駄目ですよ、今日はもう遅いですし……」

「も~、ちょっとだけだから~」


駄々っ子みたいに体を左右に揺らすカレンさん。


「……じゃあ、一杯だけなら」

「ほんとっ⁉ よぉーっし! 今日はとことんいくわよ~!」



「もぉ~! 一杯だけだっていってるのにーーっ!」



すべてがミルクティーみたいに温かくて心地よい。

はあ……異世界に来て本当に良かった。


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明日もお昼12時の更新です!

よろしくお願いいたします!

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