シオン
今回はナギ(ヒロイン)視点ではありません。
久しぶりに森に狩猟に来てみたら、何やら面白そうなものを見つけてしまった。
あの少女……陽泉花に祈りでも捧げているのか?
その割に、麻袋と剪定ばさみも持っているし、採取する気満々にも見える……。
しかし、こんなところに、陽泉花の群生地があったとはな。
これだけあれば、騎士団用のポーションの材料として、半年分はカバーできるんじゃないだろうか。
実に素晴らしい。この場所は定例会で周知しておくとして……。
ベクター達はまだ来ないだろうし、あの子にちょっと声を掛けてみようかな。
「――やあ、こんなところに群生地があったとはね」
茂みから出て、俺は群生地に入った。
少女は目をまん丸にして、驚いた様子で固まっている。
その驚きっぷりが妙におかしくて、思わず吹き出しそうになった。
「ふふっ、悪い、驚かせてしま――」
『キュェーーーーーーッ!!』
その瞬間、どこからともなく魔鳥が飛び立った。
そして、少女を守るように、俺の前に立ちはだかる。
「な、なぜこんな場所にヴォルホークが……!」
ヴォルホークは、険しい高山地帯に生息する高位魔鳥だ。
強力な魔法を操り、人語を理解する高い知性を持つ。それゆえ、人に懐くことはないと言われているのだが……。
『キュェッ!!』
しかし、このヴォルホークは両翼を広げ、明らかに後ろの少女を守っている。
そんなことがあり得るのだろうか……。
「驚かせてすまない! 私の名はシオン、君達に危害を加えるつもりはない!」
両手を上げ、敵意が無いことを示す。
「クラモ! ありがとう、大丈夫だから……」
少女が言うと、ヴォルホークが広げていた羽根を収めた。
ふぅ、誤解は解けたようだな……。
「悪かったね、突然声を掛けたりして……」
「あ、いえ、こちらこそすみません」
ペコッと頭を下げ、少女は人当たりの良い笑みを浮かべた。
「私はナギと言います。こっちはクラモ、私の兄弟子です」
「兄弟子……?」
「あ、私、錬金工房で見習いをしてるんですが、クラモは師匠の一番弟子なので」
そう言って、ナギはクラモの背を撫でた。
「ああ、そういうことか。しかし、ヴォルホークが人に懐くなんて……驚いたよ」
「そうなんですか? まあ、懐いているというか、私が面倒を見てもらってるって感じですけどね……あはは」
変わった空気感を持ってる子だなぁ……。
何だか構いたくなるというか、危なっかしいというか。
「じゃあ、今日は採取に?」
「はい、でも……実は今日が初めてで」
「そうなの? ここ、森の結構深いとこにいるけど……帰りとか大丈夫?」
「あ、はい、それならクラモが案内してくれますので」
『クアッ!』
ヴォルホークは、お前の出る幕などないと言わんばかりに圧を掛けてくる。
間近でこの魔鳥を見るのは初めてだが、噂以上だな。
これを倒せと言われると……腕の一本は覚悟しないと無理だろう。
「へぇ……すごいね、ヴォルホークが道案内を……」
「あの、シオンさん。せっかくなのに申し訳ないんですけど、採取をしなくちゃいけないので……そろそろ、いいですか?」
「ああ、これは気付かず失礼した! 兄弟子がいれば心配は無いと思うが、森には危険が多い、くれぐれも気を付けて」
「はい、ありがとうございます」
「ではナギ、またどこかで――」
俺は軽く手を上げてナギに背を向けると、森の中へ戻った。
* * *
「シオン様! 良かった、こんなところに……勝手に先に行かれますと困ります!」
息を切らせたベクターと、数人の猟師達が追いついてきた。
「悪いな、獲物を追っていたんだ」
「シオン様の身にもしものことがあったら、ここにいる全員の首が飛ぶんですよ! もっと御自身の立場を自覚していただかないと……!」
「わかったから、そんなに怒らないでくれ。それと、屋敷以外で、その言葉遣いをやめろと言ったはずだろ?」
この口うるさいベクターと俺は、幼い頃から共に育ってきた。
代々アルヴォラリス公爵家に仕えるクリス家の嫡男で、今は護衛騎士として俺に忠誠を誓っている。
「わかったよ、シオン。しかし、本当に獲物を? さっきからウサギ一匹見かけないんだが……」と、口調を崩したベクターが周囲を見回した。
恐らく、ヴォルホークのせいだろうな……。
あんな魔鳥がいたんじゃ、この辺の小動物は、逃げ出してもおかしくはない。
「なあ、高位魔鳥って、人に懐いたりするのか?」
「高位魔鳥?」
「馬鹿いっちゃいけねぇな、旦那ぁ。あいつらは人間なんぞに懐いたりしねぇさ、ハナから眼中にねぇんだ」と、猟師のひとりが、頭を振りながら答えた。
「……そうか。やっぱりそうだよなぁ」
ナギはいったい何者なんだろう……。
もしかして、俺は精霊でも見ていたのだろうか?
「何かあったのか?」
「いや……ちょっと面白いものを見つけてな」
ヴォルホークを連れた少女か……。
ふと、彼女の驚いた顔を思い出す。
「なんだよシオン、ニヤニヤして気持ち悪いな……」
「悪い、何でも無い。さぁ、そろそろ引き上げるぞ」
獲物の方はさっぱりだったが、思わぬ収穫があった。
また、縁があれば会うこともあるだろう。
「よし、皆、引き上げだ――」
猟師達に告げたベクターの背を軽く叩き、
「ベクター、遅れるなよ?」と、俺は先陣を切って歩き始める。
「ちょっ、シオン! 先に行くなって……ったく」
後ろからベクターの愚痴が聞こえる。
獣道を進みながら、気付くと俺は鼻歌を歌っていた。
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