クラモ
「……カレンさんとはもう長いの?」
『……』
うーん、まったく会話が弾まない。
当然っちゃ当然なんだけど……。
「肉食? それとも昆虫食?」
『……』
駄目か……。
「鳥って夜目がきかないとかいうけど、クラモは大丈夫なの?」
『……』
うぅ……段々、気まずくなってきたし……。
かと言って、黙ってしまうとそれも気まずい……。
私はそんなことを考えつつ、少し暗い路地に入った。
「うわ……ここはちょっと怖いね……」
ゆっくりと周りを警戒しながら歩いて行く。
遠くから露店で飲む人達の楽しそうに騒ぐ声が聞こえてくる。
「もうちょっとでリロンデルだから……」
と、その時、前からふらふらと足元のおぼつかない男がやってきた。
そして私を見るなり、目を大きくまん丸に見開いて……
「ば、化け物だぁーーーー! ひぃいい!!」
地面を這うようにして、男が逃げ出した。
「え……?」
逃げたいのはこっちなんですけど。
何がそんなに怖いんだか……。
何気なしに、隣のお店の窓ガラスを見る。
「うわぉっ⁉」
クラモの両眼がサーチライトのように金色に輝いていた。
「あ、焦ったぁ……クラモの眼、めっちゃ光るんだね……」
さっきの人もこれを見て驚いてたのか……。
でも、考えようによっちゃ懐中電灯みたいで便利かも?
「ふふっ、クラモがいれば夜道も安全だね」
『……』
うっ……相変わらず返事はない。
ただ、心なしか最初ほどの壁は感じなかった。
「もう、ちょっとは相手してくれてもいいのにさ……」
リロンデルの前に着く。
私はクラモに「ありがとう、お陰で怖くなかったよ」とお礼を言った。
『クアッ』
クラモは短く鳴いて、バサバサッと私の頭の上から飛び立つ。
そして、くるりと上空を旋回したあと、カレンさんの工房に向かって帰って行った。
ふふっ、最後に返事してくれた。
よーし、ちょっとずつ仲良くなるぞ。
「おや、ナギ、遅かったね? おかえり」
「あ、テレサさん、ただいまです~」
何だろうこの実家感。
癒やされるなぁ……。
「さっきの……もしかして、カレンのとこのクラモかい?」
「はい、夜道は危険だからってカレンさんが」
テレサさんは顎に手を当て、むむぅと唸った。
「あのクラモがカレン以外の人間といるなんてねぇ……」
「えっ? どういうことですか?」
「元々、クラモは貴族の坊ちゃんが遊びで飼い始めたらしくてね……結局、世話もしないで毎日虐めてばっかで、カレンが見つけた時には餓死寸前だったそうだよ」
「そんな……⁉」
ひ、酷すぎる……。
その貴族のクソガキ……いますぐに爆発してしまえ!
「カレンが付きっきりで看病して、だいぶ元気になった頃に、クラモを引き取りたいって申し出たのさ……。そのせいもあって、人間不信なのかねぇ……カレン以外の誰にも懐こうとしないんだよ」
「そうだったんですか……で、でも、いまはきっとクラモも幸せですよね!」
「フフッ、ああ、カレンがいる。それに、ナギも友達になれそうじゃないか?」
「そうだといいんですけど……」
「なぁに、ナギなら大丈夫さ。あんた飯食ったのかい? もう終わったけど、まかないでいいなら用意するよ?」
「いいんですかっ⁉ ぜひっ!」
やったぁ~! お腹空いてたんだよねぇ~!
「ふふっ、じゃあ、席で待ってな」
「ありがとうございます!」
私は一階のバルの空いた席に座った。
そっか、クラモも苦労したんだな……。
でも、私がカレンさんに出会えたように、クラモもカレンさんに出会えたんだ。
やっぱ、カレンさんって優しさでできてるのかなぁ。
本当にカレンさんに出会えて良かった……。
ん……なんか……眠くなって……。
んん……。
* * *
「ほら、できたよナギ」
テレサがまかない飯をバルに持ってくると、すやすやと気持ち良さそうに寝息を立てるナギの姿があった。
「あらあら……まったく、世話が焼ける子だねぇ」
テレサはやれやれと短くため息をつく。
ひょいとナギを抱えて部屋まで運び、そっとベッドに寝かせた。
あまりにも無防備な寝顔。
テレサは苦笑して、ナギの乱れた前髪を手櫛で直した。
「ま、頑張ってる証拠だね……」
目を細めながら呟くと、テレサは部屋を後にした。
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