誕生日と三本のバラ。
毎年、誕生日に三本のバラをくれる友人がいる。
高校の時からだから…………もう十年。
「ほら」
「ありがとう!」
六月十九日の誕生花がバラだから。
ただ、それだけだと思っていた――――。
「で? 彼氏はできたのか?」
「できてたら、小林と飲んでないでしょうよ」
「…………だな」
仕事帰りに待ち合わせて、居酒屋でビール片手に乾杯。
小林はいつも小綺麗なスーツを着ている。ダークグレーに白ストライプ。ネクタイは細身の濃紺で、なんかおしゃれな石がついたネクタイピン。ネクタイと合わせた太め濃紺の四角い眼鏡は、妙にインテリ感が出てる。
黒髪はサイドを刈り上げておしゃれにオールバック。
対して、私はクタクタの紫のポロシャツとスキニーパンツ。肩まで伸びた濃いめの茶髪を少し上でひとつ結びにしてるだけ。介護士として一日中動き回っていたせいか、ちょっと汗臭い気もしている。
お互い仕事帰りなのに、どうしてこうも違うのか。
「ぷはぁ!」
「いい飲みっぷりだな」
「今日もよく働いたもん」
「ん」
いつも他愛ないお喋りや、仕事の話をする。
小林は営業先であったヒヤッとした話。私は介護での珍事件。
あとは、最近見て面白かった動画。
色々話して笑って食べて飲んで。
大体、三時間経つころにお開きにしよう、となる。
お互い同じ区に住んでいて、歩いて帰ることの出来る距離。だからなのか、小林はいつもアパートの前まで送ってくれる。
「いつもおごってくれてありがとね」
「ん」
誕生日に会える時はバラをくれるし、私が好きな居酒屋でご飯をおごってくれる。あと仕事のストレスが溜まった! って言うとすぐに飲みに誘ってくれる。高校から腐れ縁の小林は優しい。
彼女ができないのが謎すぎる。
「小林は、こんなにいいやつなのに、なんーで彼女、できないんだろうねー」
誕生日だしいいかと飲みすぎた自覚はある。そこまで酔ったつもりはなかったけど、たぶん酔ってる。
だから、つい言ってしまった。
普段からあまり好きな人の話をしたがらない小林。好きな人がいるらしいことは何年も前に聞き出した。でもそれ以外は絶対に教えてくれない。
自分は聞いてくるくせにって、ちょっと思ってたせいかもしれない。
「好きな人いるんでしょ? 告白しなよー」
「…………相手を困らせたくない」
「またそれ? 大丈夫大丈夫。小林なら絶対に大丈夫!」
「………………………………言ったな?」
小林の人より少し色素が薄い瞳が近付いてきた。
あれ?っと思っている内に重なる唇。
「へ?」
「っ…………ごめん、早和。俺酔ってるわ。帰る」
「え」
「バラの意味、調べとけ」
「え、うん」
このあと、どうやって部屋に入ったのか、覚えていない。でも、ベッドの上でスマホを抱いてのたうち回りながら眠ってしまったのは思い出した。
『三本の赤いバラは、愛してますを意味しており、告白の際におすすめです』
スマホの画面に表示されたままだったから。
―― おわり ――
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