第九話
ある日の真夜中過ぎだった。
しけた宿屋の一室で、あたしは銃器の手入れをしてた。
たまに眠れないことがあって、そんな夜は酒を飲みながら
いつも1人でこうしてる。
部屋の戸を叩く音。
あたしが声をかけると、遠慮がちにホーグが顔を見せた。
「・・・どうした?」
ホーグ「・・・・。」
「また、悪い夢でも見たか?」
ホーグ「・・・手伝う。」
しばらく黙って作業する。
あたしが酒瓶に手を伸ばすと、ホーグは顔を顰めた。
ホーグ「レナさん、酒飲みすぎだよ。」
「・・・それを言いに来たのか?」
ホーグ「・・・・。」
「あたしの肝臓は、特別強いんだ。母親譲りでね。」
ホーグ「おれ、デンシュナー公爵んとこなら行ってもいいかなって・・・。」
「・・・・。」
ホーグ「だから無茶することないよ。神獣なんて追わなくても―――。」
「本気でそう思ってんなら、目を見て言いな。」
ホーグ「・・・・。」
視線を泳がせ、うつむくホーグ。
ほんと、嘘をつくのがヘタな奴だ。
「・・・勘違いしてるようだが、あたし達は元から神獣狩りを目的に
旅して回ってるんだ。今回は、たまたま特典が付いたってだけ。」
ホーグ「オリオに、〝レナには言うな〟っていわれたんだけど・・・。」
「?」
ホーグ「・・・オリオは、肺に・・・諸島にいた時、血を吐いたんだ。」
「・・・・。」
ホーグ「狩りなんか、してる場合じゃねえよ・・・。」
気づいてたさ。それほど鈍感じゃない。
日増しに痩せてる。顔色も悪い。よく咳き込む。
「気づいてたさ。」
ホーグ「じゃあ、何で・・・!」
「やりたい事を、やらせてあげたいじゃないか。」
ホーグ「・・・・。」
待った甲斐あって、4人のハンターが協力してくれることになった。
必要な物資をそろえ、計8名のチームでコロニーを出る。
ほんとはホーグを知人に預けておきたかったんだけど、彼がどうしても
着いていくっつって聞かなくて、渋々同行を認めた。
神獣は、都市遺跡を点々としながら西へ移動しているようだった。
昼間は地中深くに潜っており、夜になると触手だけ地上に伸ばして
獲物を捕らえる。本体は常に砂の中。厄介な相手だ。
あたし達は、奴の進行方向にある都市遺跡へ先回りして、地雷を仕掛けて
潜伏することにした。
黄昏の時刻。
その日の夕焼けは、とても綺麗だった。
赤く染まる砂漠の中に立ち、物憂げに夕日を見つめるオリオ。
「・・・・。」
なんとなく彼の隣に立ってみた。真似して夕日を見つめてみる。
「・・・あたしに、できる事は?」
オリオ「・・・・。」
ガスマスクの下で、微かに笑ったのが聞こえた。
神獣狩り、ね。了解。
「北湖へ行けば、治せるかもしれない。」
オリオ「・・・考えておく。」
「・・・・。」
オリオ「ホーグは、放浪の民に任せるべきだったのかもな。」
「今さら遅い。」
オリオ「そうだな・・・。」
何を思ったのか、オリオはガスマスクを外し
あたしに手を伸ばした。
「・・・・?」
あたしは彼にガスマスクを外された。
そして―――
「!」
硬直するあたしを見て、オリオは笑いながら
ガスマスクを付け直した。あたしの分も。
オリオ「これで思い残すことは無い。」
「・・・・。」
まったく、酷い男だよ。