外伝~Lena~:第一話
あたしは、レナ。
霊感の〝れ〟の字も無い流れ者のガグル・ハンター。
金髪、瞳の色はグリーン。
肌は生まれつき白いんだけど、日焼けしてボロボロ。
ハンター業界では、それなりに名が通ってる。
自慢じゃないが、腕はいい方だ。
いつだって、死と隣り合わせで生活してる。
皆、そうだ。
一日一日をギリギリのところで生き長らえてる。
まあ、いい暮らししてるパイマーもいるにはいるが。
連中も連中で、霊感の無い人間には理解できない苦しみを抱えて
生きてるんだろう。
たぶんな。
あたしは死ぬまでガグルを狩り続ける気でいる。
そうする事でしか、生きていけないから。
南アクラシア大陸、南東部。
ハンター仲間の訃報を聞いたあたしは、コロニー〝紅蓮洞〟に訪れた。
グールと呼ばれる人食い族の居住地だ。
一緒に行動してる連中は、紅蓮洞内に立ち入ることを嫌がって外で待機中。
ギルドに所属するハンターを捕らえて食うほど、グールは粗暴じゃないが。
まあ、それでも間違って〝家畜〟を食べてる場面に出くわしたりしたら
しばらく飯が喉を通らないだろう・・・。
残された若い奥さんと、幼い息子が見守る中
質素な墓標の前で手を合わせた。
あたしに好奇心旺盛な目を向けている少年は、明らかに母親似だ。
赤銅色の髪と瞳、浅黒い肌。
まだ3歳だし、〝死〟というものをまだ理解していないだろう。
あたしが頭を撫でると、少年は恥ずかしそうに笑った。
その無邪気な笑顔には、父親ログの面影があった。
「ログの分も、しっかりツィンカを守るんだぞ?」
アグニ「うん!」
この子は、きっと強くてイイ男になる。そんな気がする。
あたしが去る時、若い母親は深々と頭を下げた。
まったく。皆、グールに偏見を持ちすぎだ。
早々に紅蓮洞を出た。
四駆の上で銃器の手入れをしてた男が3人、
あたしの姿を捉えて安堵のため息。
ケイ「賭けは俺の勝ちだな。」
ザック「待て、まだ分からんぞ。内臓が無いかもしれん。」
「残念だったな。どこも欠けてない。」
ザック「マジか?なあ、オリオ。どうなんだ?」
オリオ「・・・・。」
オリオは灰色の目で、ちらりとあたしの方を見た。
あたしは腰に手を当て、大人しく体内透視された。
オリオは笑みを浮かべ、期待に満ちた目のザックに向かって首を
横に振った。
ケイは、うな垂れるザックに手を張った。
ケイ「2万。」
ザック「ちっ!」
夕暮れ時、ゾスキアナ山脈の谷間を東へ走った。
岩山を抜けて砂漠に出たころ、周囲は暗闇に包まれた。
そこで四駆を停めて野営する。
ケイとザックが荷台で鼾をかく中、
オリオは地面に腰を下ろし、塵の舞う空を無言で見上げていた。
星なんか出てないのに。それとも、彼には見えているのだろうか。
「・・・・。」
なんとなく彼の隣に座ってみた。真似して空を見上げてみる。
「ホントに、戻らなくていいのか?」
オリオ「・・・・。」
彼がガスマスクの下で微かに笑ったのが聞こえた。
馬鹿な質問はしないでくれ、ね。了解。
オリオは、バース・ヒルスタン出身のパイマーだ。
よく知らないが、アイオンとかいう階級に入るらしい。
無口で、いつも何を考えてるのかよく分からない奴。
彼と出合ったのは数ヶ月前。
あたしがバース・ヒルスに立ち寄った際、とつぜん声をかけられた。
あたしのことを噂に聞いていたらしく、力を貸して欲しいとのことだった。
何に?
神獣狩り。
オリオは、聖音を聞く。
話によると、その力を持つ者はバース北部の領主になる権利があるらしい。
彼は、それを放棄した。
理由は知らない。どうせ聞いても答えてくれないだろう。
とにかく、オリオは神獣を追って仕留めることを求めてる。
とは言っても彼には狩りの経験が無かった。
それで、あたしを雇った。
この数ヶ月、あたしは狩りのノウハウを彼に伝授した。
そんでもって、あっという間に一流のハンターになっちまった。
オリオ「あんたこそ、戻らなくていいのかい?娘さんのとこ。」
「・・・・。」
顔を顰めたあたしを見て、オリオはまた微笑した。
そりゃ会いたいさ。
テトラ。きっと、大きくなってるだろう。
あたしは、彼女が言葉を覚える前に北湖のコロニーを去った。
ママ、なんて呼ばれたら
二度と彼女の傍を離れられなくなりそうだったから。
ハンターを辞める道もあった。
旦那も、言葉に出しては言わなかったけど辞めて欲しかったに違いない。
でも、あたしは狩りを続けることを選んだ。
身勝手な母親だ。
ハンターでいる以上、テトラの傍にはいられなかった。
いつ命を落とすか知れない身で、
彼女に愛情を注ぎ続ける訳にはいかなかった。
そんな事したら、あたしが死んだ時に辛い思いをさせるだろ?
ハンターの中でも、あたしは早死にするタイプだ。
誰もが避けて通る神獣を追ってるんだ、間違いない。
狩猟本能が強いのかな。
ハンターを辞めようかって考えたとき、途轍もない虚無感に襲われたんだ。
娘とは、もう会うことはないだろう。
あたしの分も、アスターが彼女を愛してやってくれる。
そう信じてるから、未練は無い。
「宇宙船でも飛んでるのか?」
オリオ「ああ。宇宙人がこちらに手を振ってるよ。」
あたしは呆れ笑った。
それから暫くの間、あたし達は黙って夜空を見上げていた。
見えてるものは、お互い違ったけど。