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第五十話

 シバとのやり取りについて、テトラはヨミ達にテサの研究所の事を省いて説明した。彼らを心配させたくは無かったからだ。それに、必要ならばシバが話すだろう。


 社に戻って1人で食事を済ませた後、テトラは岩風呂に浸かって今日までの事を回想した。不安が重たく圧し掛かり、自然と身体が震えた。


 北官吏の言葉が頭から離れなかった。ヨミや八部衆に南アクでの戦について聞いても、曖昧に言葉を濁されて詳しく教えてはくれなかった。


 野蛮な女部族アマゾナスと〝グール〟と呼ばれる人食い集団、総称して蛮族と呼ばれる輩に捕らわれている奴隷の解放とコロニー所有権に関する紛争。それ以上の事柄は、テトラが知るべきではないというふうに誤魔化された。


 ヤミの事も気になっていた。ランシードで会った悪魔崇拝者と何か関係があるのだろうか?その事についても、ヨミは心配いらないと言うだけで何も説明してくれなかった。


 テトラは、社に帰ってまずヤミに会いたかった。ヤクも、きっと同じ思いだっただろう。テトラ達が無事に帰った事はいち早くヤミに報告されたが、彼に直接会って生還を伝えたかった。


 ヤミにホーグのファーストネームを教えてもらっていなければ、ホーグがエリア8に駆けつける事も無く、テトラ達はレゴリスの谷川に落ちていた。激しい流れに揉まれ、身が粉々になって死んでいただろう。


 だが、その前に南アクの戦いでいったい何があったのか?


 「・・・・。」


 テトラは湯の中で膝を抱えた。何か不吉な事が起こる前触れのような胸騒ぎと不安感に苛まれた。


 テトラは顔を顰め、呟いた。


 「・・・マモン、うるさい。」

 『ふふふ。』


 テトラが応答したので、マモンは女の声で満足そうに笑った。


 「何だよ、何か用か?」


 『ヘルが無視するもんだから、あなた専用の周波数に切り替えたの。見事に繋がったわね。私って天才。あ、この声の時はタマキって呼んで頂戴。何か、悩み事?相談に乗ってあげてもいいわよ?』

 「・・・何で、悩んでると思った?」


 『ふふ・・・夢幻周波数の適応者が独りで考え事をしてる時、回線がとっても繋がりやすいの。孤独と不安に燻られ、時を忘れて思考に耽る。己の内側に潜む底知れぬ暗闇の奥に篭り、終点の無い自問自答を繰り返す・・・人間って、哀れな存在ね。』

 「考え事で、悩んでる訳じゃない。ただ・・・何となく不安なだけだ。」


 『同じ事よ。』

 「・・・・。」


 『漠然とした不安の原因を模索してるんじゃない?出口の備わっていない迷路で出口を探すようなものね、時間の無駄よ。流れに身を任せるしかないわ。』

 「何か・・・機嫌、良さそう。」


 『あら、わかる?ヘルからイフリートを頂いたの。存分に味わったところよ。』

 「アスモか、サタじゃないよな?」


 『んな訳ないでしょ。連中はヘルのお気に入りよ。あんな虫けらのどこが可愛いのやら。ヘルの所有する7体のムスリムとは、もう会ったのかしら?

 ルシフはまだマシな方だけど、レヴィアもベルフェゴも私にしてみてはゴミくずね。ベルゼはそれ以下。〝7つの制裁〟として恐れられているのは、全てこの私が在っての事よ。』

 タマキは誇らしげに言い切った。


 「・・・ヘルの様子、どうだった?」

 『どうって?』


 「ん・・・いや、やっぱいい。」

 『・・・酷く滅入ってたわ。何かあったの?』


 テトラは眉を顰めた。

 「それが聞きたくて、あたしに回線を繋げたんだ?」

 『ふふん、鋭いわね。益々、あなたが気に入ったわ・・・ねえ、何があったのよ?』


 「聞いてどうする?」

 『傷口をえぐって、心をずたずたに切り裂いてやるわ。これまでの屈辱を晴らすのよ。彼が自我を失えば、私は自由の身になれる。その後、あなたのファミリアになってあげてもいいわよ?私がいれば、世界制服も夢じゃないわ。』


 テトラは心底、タマキに嫌悪感を抱いた。その感情が伝わったのか、タマキはさも可笑しそうに笑った。


 『冗談よ、あなたのファミリアになる気も無いわ。張り合いがなくてつまらないの。上手く慰めてくれたら、私が持つ情報を好きなだけ提供しちゃう。何だって答えてあげるわ。伊達に数千年、ムスリムやってる訳じゃなくってよ。』

 「・・・・。」


 『あら?あなたが欲しているのは知識だと思ったんだけど、違ったかしら。私もまだまだ修行が足りないわね。』


 「あたしが知りたい事は、あんたにも答えられないよ。」

 テトラは湯から上がった。


 『聞き捨てならないわね。問うてご覧なさい。』

 「・・・・。」


 彼女は無視して身体を拭き、服を着替え始めた。


 『・・・ふん、まあいいわ。あら・・・行動中?ちょっと・・・シンクロ率が、悪くなったわね。』

 タマキの声に砂嵐のような音が混じり、途切れ途切れになった。


 「もう話しかけないでくれ。ヘルにばれたら怒られる。」


 『・・・彼が怖い?』

 「怖くなんかない。」


 テトラは即時に言い返すと、タマキは忍び笑った。


 『そう・・・私は怖いわ。皆が、彼を恐れている・・・恐れて当たり前よ。彼の正体をご存知?私は知ってるわよ・・・昔、彼の同族に会った事があるからね。一目見て気付いたわ。』


 テトラは服を着る手を止めた。

 「・・・何なの?」


 『気になる?気になるわよね。でも教えない。ヘルに怒られちゃう。』

 「・・・・。」


 テトラはため息をつき、帯を結んだ。


 「別に何でもいいよ。じゃあな、お休み。」

 『・・・お休み。よい夢を。』


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