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幼馴染の心

「お、お、おはよう春斗君」


 本格的に寒くなってきた11月。ちょうど家から出たタイミングで少しどもった声が聞こえた。

 女子の平均よりも背丈が小さくて、挙動不審な幼馴染、心。

 成績は可もなく不可もなく、髪を染めたことがなく、化粧もしたことがない。

 人と目を合わせるのが苦手でうまく話せない女の子。


「おはよう、心」


 小学校の時から家が隣同士。

 俺がこの町に引っ越して最初にできた友達で、気づけば保護者的立ち位置にいる。

 お互いの親に半ば強引に任されてしまい、ほとんど一緒に過ごしているのだが、未だに目を合わせてくれない。

 学校じゃしょっちゅうみんなに揶揄われることもあった。

 最初こそは嫌だったものの、当時の自分は妙に正義感だけあって、彼女を守ろうと立ち回っていた。

 今は、後ろをゆっくり歩いてついてくるだけで、並ばない。


「どうした?」


 行動を突っつくと、目が泳ぎ、顔ごとキョロキョロ周りを見る。


「あの、えっと、なにも、あ、その」

「ごめん、ゆっくり来いよ」

「あと、えと、う、うん、ごめんなさい」


 心を置いてさっさと学校に向かう。

 授業の時でも、


「それじゃこのページを、えーと3列目の2番目、読んでくれ」

「あ、は、はい」


 先生に当てられて、おどおどしながら読む。


「翌年、監察御史、陳郡のえ、えん、えとえん」


 袁傪えんさんが読めず、口は何度も同じ場所で詰まる。

 周りは黙っている奴と、クスクス笑っている奴で分かれた。

 目は完全に焦点が合わず、見るからに焦っている。

 手助けしてやりたいけど、席は遠いし、今喋りかけてもテンパってしまって聞こえない。


「袁傪」


 どこからか、爽やかな声が聞こえた。

 心の後ろの席にいるイケメン、沢城。


「あ、えと、袁傪という者」


 珍しく聞こえたのか、心はそれから躓くことなく読んでいく。

 沢城はクスクス笑っている側だったけど、他の奴らと違って妙にフォローをしている。

 休憩時間になると、


「漢字、読めないところはフリガナふっといた方いいじゃん」


 沢城が軽く心にアドバイス。


「えと、あ、ありが」

「しっかり!」


 心が言い終える前にいつもつるんでいるグループのところへ行ってしまう。

 クスクスどころか、大きな笑い声が教室中に響く。

 挙動不審に目をキョロキョロ動かしているが、多分、照れているんだろう。

 帰り道、また心はゆっくり、俺の後ろをついてくる。


「沢城に助けられてたな」


 後ろに声をかけた。


「え、あっ、うん……うん」

「毎回笑われてる。嫌にならないのか?」

「あ、その、平気、いつ、いつものことだから」

「ふーん。もうちょっとしたら進路だけど、心も進学するよな?」

「あ、ぅ、うん」

「じゃあまだまだ一緒なわけだ。楽しみだな、大学」

「うん、うん、勉強、がん、がんばらなきゃ……そのダメ、だから」


 後ろにいるから表情は分からないけど、キョロキョロ顔を忙しなく動かしてるんだろう。

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