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心の記録

『急に頼んで、ごめんなさい』


 真っ直ぐ、最期の夜に会った時と同じ瞳で、レンズを見つめている。

 あのパジャマ姿でベッドに腰かけている心がいた。


『んー全然いいよ、逆に、俺でいいの? 撮っちゃうよ?』

『大丈夫』


 なんというか、色のない返事だ。


『心ちゃん、可愛くなったね』

『ありがとう。でも、もう意味ないから』


 意味がない……なんで、化粧しようと思ったんだろうか。本当に、したかったことなのか。

 動画は一旦真っ暗になり、雑なぶつ切りで、次の映像に移動していた。

 片手で録画しながら、横たわった心の服を脱がしている。

 映像の行為よりも目に留まったのは、ブラも上にずらされた心の白い肌を青紫の痣が汚していた。薄っすら黄色が輪郭のように痣を囲う。

 沢城の手が痣に触れる。


『ずいぶん、玩具にされてるね』

『躾の一環。当番忘れたり、反抗したら、叩かれるの』

『ただの暴力じゃん』


 父親からの家庭内暴力。

 沢城はどこまで知っているのか……。


『お母さんと話せた?』

『少しだけ……叩かれたけど、電話で』

『そっか』

『生んでくれてありがとう、って言えたから満足』


 微笑む心の瞳は、全く笑っていない。  

 そんなやり取りのあと、沢城の指示で、初めての行為を次々とやらせている映像ばかりが続く。

 見たくもない沢城の下腹部と、小さな舌を這わせながらレンズを見つめる心。

 取り返しようもない喪失感に襲われていく。


『ふ……あぁ、そういえば彼女、できたんだってね』

『……』

『だから俺に頼んだの?』

『ん……元々、誰でも良かった』


 白濁とした液を手の平に漏らたあと、淡々と答える。


『へぇーあの紙、名前書いてあったけど』

『勝手に見ないで』

『ごめんごめん、誰にも言わないからさ』

『この動画も、見せないで』

『分かってる。編集でカットしとくから、俺用だしね』


 沢城、編集どうした……カットしてないぞ、くそ、身体が重い――。



 ――シーツがぐちゃぐちゃになって、汗やら何やらで濡れた小さな体は大きく呼吸を繰り返す。

 蕩けたように瞼が半分閉じて、やや放心状態。

 数秒後、何か思い出したように寂し気な表情を浮かべた。

 両手で覆い隠したあと、


『…と……くん』


 震える喉で呟く。

 汗で頬にくっついた髪の毛ごと撫でられている。

 映像は真っ暗になり、とすん、という置いた音。

 

『ごめんなさい』


 ずっと、震えている。

 

『もう録画してないし、俺しか聞いてない。全部言って、話して。俺のせいで、ここまで追い込ませたんだ』


 平気で嘘をつく。


『誰がとか……もう分かんない……辛い、痛い、苦しい……』


 嗚咽。


『ねぇ、俺と一緒にこの町から出ようよ』

『ごめんなさい……私、進学、一緒に……考えてた。でも、もう先が見えないの』

『春斗君と?』

『…………分かんないよ、真っ暗で、空っぽで、私がいない……隣に、いられない。私じゃない、私が、もうどこにもいないの』


 スマホが、滲む。

 化粧しても、してなくても、目が合っても、話し方が下手でも……どっちでもよかったんだよ。本当は。


『どうしたら、よかったの? 私……だって、わ……し、のせいで……』


 心と一緒にいられるだけで、よかったって……分かったんだよ。

 こんなのが、俺の手元にある、唯一の、生きていた記録なんて……――――。

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