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「――――迷ったわ」





 空を仰ぎながら深々とため息を付く。


 その呟きを馬鹿にするかのように「カァ〜カァ〜」と鳥が鳴いた。


 ここは霊峰と呼ばれる山地。そこで俺は絶賛、遭難中である。

 周りには良く似た木々が無数に伸び、最早どこから来たかさえ見当もつかない。



「失敗したわね……。これならモドキちゃんを連れてくるべきだったわ」



 いつもなら下界に降りるとき眷属が必ず同行することになっている。理由としては単純、道案内役だ。


 目的地は麓にある町。そこにある冒険者協会へ行き、冒険者ライセンスを発行してもらうこと。


『今の王都は厳重警戒体制だからね。身分証がないと話にならないよ』


 とは、ユノの言だ。


 なのでそこへ行ってライセンスを貰うことが第一目標だったのだが……。



「……それすらできないじゃない」



 な、情けなさすぎる……。俺はそのへんの木にもたれ掛かってしばらく落ち込んだ。


 さて、そうしている間にも時間は容赦なく過ぎていく。もう既に日が陰って来ていた。

 森の中の夜は早い。予定ではもう着いている頃合いだったが今だに俺は森の中。早々にどうにかしないとマズイ。



「……ん?」



 ぴくっと大きな耳が震える。微かに何かが聞こえたのだ。しかも、それはこちらに接近している。



「早いわね……。それもかなり大きな――――」



 と、言い終わる前にそれは姿を現した。





 ドォン!!





 耳をつんざくような轟音をたて、天を突くほどの大木を突き飛ばし姿を現したのは――――巨大すぎる熊。



「これは……グリズリーね」



 Aランクの魔物(モンスター)だ。正式名称はジャイアントグリズリー。一匹いれば村1つぐらい容易く破壊できる力を持つ。




 ――――グヴォォ!!




 咄嗟に後ろへ飛ぶ。直後、もといた場所が吹き飛んだ。



「う〜んっいい攻撃。さすが上位ランク」


 

 手から生えた大きな爪。それは普通の大きさじゃない。刃渡り50cm超えの凶悪な得物だ。

 

 少し距離を取って着地。ギラついた野生の瞳がこちらを睨みつける。



「降りてきて早々こんな大物と出くわすなんて。運がいいのか悪いのか……。だけど、ちょうどむしゃくしゃしてたの。肩慣らしにはちょうどいいわねっ」



 すぅ……と息を吸う。身体中の魔力が高まるのを感じる。




「“四刃刀(フォースブレード)=一太刀”」




 振り上げた右手で空気を掴む。手のひらに収束した魔力が伸びて実体となる。



 空を一振り。大気を割って風圧を成す。



 それは魔力で形作った刀。右手で仄かに光る魔力剣(エネルギーブレード)




「さあ――――来なさい」




 切先を相手に向けて、構える。



 戦いの火蓋は切って落とされた――――かのように思われた。






「――――って、ちょっとっ!?」





 何かを思い出したように顔をあらぬ方向へ向けた相手は俺を無視して脱兎の如く逃げ出した。



 それをポカンと見つめる。



 なにが起きたのか分からず呆気にとられていると、風に乗せて微かに声が聞こえた。




「……もしかして誰かいるの?」




 振り向いた視線の先。木々のざわめきが悲鳴のように鳴き、暗く不穏な雰囲気を醸している。

 


「ああ……そういうこと」



 合点がいった。その先から奇妙な気配がする。それは自身がよく知るものだった。



 (これは……“陰”の瘴気だな)



 まさかこの霊峰で出くわすとは思わなかった。しかもこれは……かなりの大物だ。



「グリズリーが逃げたのも頷けるわね……。これは骨が折れそう」



 はぁ……とため息と共に握っていた刀を投げ捨てると、光の粒子になって消失する。



「ユノは“かんなぎ”に任せるって言ってたけど……」



 このまま見て見ぬふりするのは簡単だ。しかし、さすがに気が咎める。恐らくこの先には誰かがいて、既に戦闘中なのだろう。自身の大きな耳が微かながらもその戦闘音を捉えている。


 “陰”に魔術の類は効果がない。だから、一般的に人間が対抗しようにも防戦一方でジリ貧なのだ。それに今回はかなり強力な個体。



「仕方ないわね。――――行きましょう」



 そう決めた。



 そして、俺は足を踏み出す。






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