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義妹なんかじゃいられない

作者: 山本輔広

 部屋から二人の喧嘩する声が聞こえて俺は部屋へと戻った。


「何騒いでるの?」


 こちらに気付いた幼馴染の愛華はバッグを手に持つと俺のほうへと詰め寄ってきた。

顔をすれすれまで近づけて睨みつけてから、プイとそっぽを向く。


「別に! 知らない!」


 俺のことを押しのけると愛華はそのまま部屋から出ていく。

 何があったのかと妹の理香を見れば、同じように怒ってはいるようだが視線が混じると少し涙を流した。


「大丈夫か理香、愛華と喧嘩するなんて珍しいじゃん」

「だって、愛華さん、私のこと……私、私……」


 よほどのことがあったのか、理香は両手で顔を覆うと嗚咽をあげている。

何があったのかはわからないが泣いてる妹をそのままにできやしない。

身体を抱き寄せて背中をさすってはみたが、理香の涙はしばらくやむことがなかった。



 喧嘩があってから数時間。

夜中、理香が部屋へとやってきた。


「お兄ちゃん、ちょっといい?」

「ん? どうした?」


 俺のベッドに腰を降ろすと、まだ腫れぼったい目でこちらを見る。

また今にも泣きだしそうな顔をしている。

本当に理香はいったいどうしたというのだろう。


「あのね、私たち血が繋がってないじゃん」

「うん」


 理香は妹だが、正式には義妹だ。

俺の父親が再婚し、新しくできた母親につれられて理香はやってきた。


「もし……違う形で出会っていたら、お兄ちゃんは私のこと、どう見てたかな?」

「どうって言われてもな」


 現在理香は高校生だ。

高校でも一番といえるくらいには可愛いし、普段から甘えん坊な性格も可愛らしく思う。

 そんな理香と別の形で出会っていたら、勿論異性として意識はしていただろう。


「お兄ちゃんは私のこと好きになったかな?」


 その好きは、異性として、ということだろうか。

唐突に突き出された質問に、俺は腕組をして考える。


「年下ではあるけれど、理香は凄い可愛いからなもしかしたら、意識はしてたかも」

「本当!?」


 しょんぼりしていた顔があからさまに明るくなる。


「そっか、そっか。じゃぁ、今の私は……どうかな?」

「え、もちろん可愛いよ」

「異性として見れる?」

「異性としては……どうだろう」


 あいまいな答えに、理香はまたしょんぼりとしている。

 理香を異性として見るなんて今まで考えたことがない。

確かに見た目は可愛いし、甘えん坊な性格もいいし、何かあるときはいつも一緒にいた。

端からみればカップルにだって見えていただろう。


「今日ね、愛華さんと喧嘩したのはね、それが理由なの」

「え?」

「私がお兄ちゃんのこと異性として好きだって言ったの。そしたら愛華さん兄弟じゃ無理だっていうから、

感情的になっちゃって」

「ま、まって。理香は俺のこと異性として好きなの?」


 急な義妹の告白に脳が追い付いていない。

え、理香が俺のことを好き?

兄としてじゃなくて?

義兄としてじゃなくて?

 少し深呼吸してから理香を見る。

そんな潤んだくりくりの目で見られると、急に理香を異性として意識してしまう。

見た目は可愛いし、スタイルも女性らしく出るとこが出て足はスラリと長い。

男だったら誰だって見てしまいそうな美少女が目の前にいる。


「……やっぱり妹だと嫌?」

「嫌っていうか、そんな急に言われても心の整理が」


 つくわけがない。

今まで妹として接してきた理香にいきなりそんなことを言われても。

どう答えればいいのかわからない。

何を言えばいいのかすらわからない。

頭は混乱しているのに、目はその長く伸びた生足に向いてしまう。


「そうだよね、妹だもんね……ごめんね、急に」


 立ち上がる理香。

そんな悲しそうな顔をして部屋を出ていこうとするな。

しかし、何をいっていいのかもわからない。

何を、何を言えばいいのか。


「なぁ、理香」

「なぁに、お兄ちゃん」

「アイス……買いにいかない?」


 理香はきょとんとした顔をしたあとに、笑顔で頷いた。



 二人で近くのコンビニを目指し歩いた。

お互いにスリッパに部屋着姿だ。

 歩いていると反対方向から同じような恰好のカップルが歩いてくる。

カップルは手を繋いで帰ったら何の映画をみよう、なんて話をしている。


「お兄ちゃん、手、繋いでもいい?」

「うん、いいよ」


 手を繋いだことならば、はじめてではない。

だけど今の状況だと変に意識してしまって手が震える。

手汗はかいているし、握った理香の手は柔らかいし。

感覚がおかしな方向へアップデートされてしまっている。


「私たちも、他の誰かから見たらカップルに見えるのかな?」

「見えるだろうね」


 街灯に照らされた理香の顔は、桃色に染まって乙女になっていた。

 本当にそんな顔をしないでほしい。

そんな恥ずかしそうに頬を染める乙女な姿を見せられたら、妹じゃなくてただの女の子に見えてしまう。

いや、もしかしたらそう見たいのかもしれない。


 父親が再婚してから、理香とはいつも一緒だった。

当時はまだ俺が小学生で、理香は幼稚園だった。

理香が幼稚園児のときは泣き虫だった。そして泣きじゃくったときはいつも抱きしめて『いいこいいこ』と頭を撫でていたな。

理香が小学校にあがったとき、小学校までの道のりを二人手を繋いでよく登校していた。

俺が中学にあがっても、高校にあがっても、大学にあがっても。

いつも隣には理香がいた。


「私ね中学生のときに他のクラスの子に告白されたの」

「そうだったの?」

「うん、断ったんだけど、そのときからかな。お兄ちゃんのことを意識しだしたのは」

「……」

「友達とも誰が好きなんて会話をよくしたんだ。でも、私にはそういう人がいなくて……

好きな人の話題をしたときはね、いつもお兄ちゃんが浮かんでいたの。

お兄ちゃんほど優しい人はいないし、頼れる人はいない。だから、他の男の子には見向きもしなかったんだなって」


 コンビニまであと少し。

歩くペースを落として、俺は黙って理香の話を聞いた。


「お兄ちゃんが高校にあがったくらいかな。急に大人っぽく見えて、このままじゃ誰かに取られちゃうんじゃないかって思った。

そこで気付いたの。あぁ、私お兄ちゃんを誰にも渡したくないんだ。

お兄ちゃんのことが一番好きなのは私なんだって」


 理香の足が止まり、俺の足も止まる。


「付き合わなくてもいいから……無理だって分かってる。本当は私だって分かってる」


 泣き出しそうな妹に俺はなんて答えればいいんだろう。

何をいっても理香を傷つけてしまいそうで、最善の答えが導き出せない。


「だからね、一つだけお願いがあるの」

「なに?」

「私のファーストキスもらって」


 最善の答えは――これでいいのか。

考えたって言葉はでない。何が正解で、何が正しいのかわからない。

だから、そっと目を閉じて待つ妹の口に自分の口をつけた。

柔らかくてあったかくて。すぐ離すにはもったいなさすぎる感覚。


「……ありがとう、お兄ちゃん」

「俺も……」

「?」

「ファーストキスだ」

「私がはじめてでごめんね」

「そんなことない」


 コンビニについて二人でアイスを買った。

でも、アイスなんかどうでもよくて俺はただ口に残った感覚を永遠に味わっている。



 翌日もいつも通りに過ごした。

理香は高校へといき、俺は大学へ。

講義を受けて、大学が終わればバイト先へと向かい。

ただ今日はやたらとミスだったり失敗が多かった。

考えなきゃいけないことはたくさんあるが、昨日のキスがどうしても頭から離れなかった。


 帰宅して、俺は昨日の答えを求めて理香の部屋をノックしていた。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「少し話してもいい?」

「うん、いいよ」


 理香の部屋に入り、床に腰を降ろす。

目の前の椅子に座る理香。相変わらずスラリとした長い生足が伸びている。

丁度目線の高さに理香のパンツが見えてしまい、思わず目を背ける。


「今日さ、やたら失敗ばっかりでさ」

「なにかあったの?」

「……昨日のことが忘れられなくて」

「……」

「俺も気持ちを確かめたいんだ。だから……もう一回、キスしてもいいか?」

「お兄ちゃんは私とキスしたいの?」

「したい」

「いいよ。目を閉じて」


 腰をおろしていた俺の前にしゃがみこむと両腕を肩に回す理香。

互いに目を閉じ、今度はその感触をゆっくりと確かめる。

熱さ。感触。少しの湿度。

今俺は誰とキスしているのだろう。

妹とキスしているのか。

理香とキスしているのか。


「お兄ちゃん、好き。好き。好き。大好き」


 理香の両腕が俺を抱きしめる。

意識せずに俺の腕も理香を抱きしめる。


「理香、待って、ちょっとまって」

「やだ。やめない。もっとしたい」

「理香」

「だめ。どこにもいかないで。お兄ちゃんは理香のだもん、理香だけのものだもん……」


 離した口と口に涎が糸を引く。

理香の顔は熱を帯びて染まり、きっと俺の顔も同じ色をしていることだろう。


「理香。聞いて、俺も」

「言わなくていいからもっとして」


 もう何も言わなかった。

ただただお互いの感情を確かめあうように唇を重ねた。



「お兄ちゃん」

「なに理香」

「私のこと、好き?」


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