#9 修羅場と戦場
「お、奥さん……? え!? ふ、史人が結婚!? い、いや史人は確かに18歳でもう結婚していい歳だけど……け、結婚て!?」
理子も大きく動揺していた。
無理もない、史人も先ほどの香美の言葉には大きく動揺したのだから。
――はじめまして、永作ペンデルトン香美と申します! ……史人さんの、親戚です。
――史人さんの……奥さんの親戚です!
「(香美ちゃん……何でそんなことを? まさか俺がミルフィと――筆と結婚したって言うつもりか!? いや、そんなこと……理子が信じられるとは……)」
また史人は、香美の真意も計りかねていたのだった。
「ええ、史人さんは私の親戚と結婚されていて。ですから学校での名前も、旧姓の二出のままなんでしょうけれど本当は永作・ペンデルトン・史人さんなんです。」
「き、旧姓……な、永作・ペンデルトン・史人……で、あなたは永作・ペンデルトン・香美さん……」
「こ、香美ちゃん……理子……」
あくまで常人に理解できる範囲で淡々と話す香美と、(これでもかなりオブラートに包んでいるとはいえ)凡そ高校生が聞くことがないであろう単語や概念を一つ一つ何とか理解しようとしている理子を、史人は尚もハラハラしながら見比べる。
「あ……わ、私お邪魔みたいなんで! し、失礼するわ史人!」
「あ、ち、ちょ、理子!」
理子は香美の言葉に脳の処理が追いつかなくなってか、保健室を出て行ってしまった。
◆◇
「香美ちゃん……何であんなことを!」
「あら……浮気相手には既婚者であることを知られたくないっていう浮気男の心情として許せないってことかしら?」
「な……そ、そんな浮気相手なんて! 理子はそんなんじゃ」
理子が出て行った後、史人は当然というべきか香美に詰め寄る。
が、むしろ香美はそんな強烈な言葉を浴びせて来たのだった。
「あの女に鼻の下伸ばしてたんじゃないの、私には少なくともそう見えたけど?」
「そんなの……してねえよ! 香美ちゃんの思い違いだ、人を見透かしたようなこと言うなよ」
「まあそうね、私は所詮人だからあなたの心は見透かすことはできない……でもミルフィはどうかしら? 彼女からは嫉妬されてない?」
「……それは……」
尚も香美に畳み掛けられ、史人は言葉に詰まる。
――我、螺旋を描く
〜
そこに大口を開け
〜>
こちらを見つめる者あり
〜>゜
確かに彼女の言う通り、理子と接する度に史人の脳内には常にミルフィの呪文がちらついていたのは事実だ。
しかし。
「ミルフィが例の呪文を俺の頭に響かせてたのは事実さ……だけど! 俺には理子に対する気持ちなんかもうない!」
史人としては、少なくとも認識上は理子に対する気持ちはもうないつもりである。
――大黒……いや、理子! 俺はずっと、君が好きだった!
――ふ、史人……ご、ごめんなさい!
――え!? ……ガビーン!
そもそもペンデルトン家に拾われたきっかけが、彼女に振られたショックで家出したことだったのだから。
「もうない……かつてはあったってことかしら?」
「く……」
が、そんな史人の気持ちを知ってか知らずか香美は言葉尻を捉える。
「……なら、尚更あなたをあの女に近づける訳にはいかないわ。初恋の人と再会してのぼせ上がっちゃう人もいると言うし。」
「揚げ足取るなよ香美ちゃん……俺は確かにあいつにはもう何の気持ちもないんだから! けど、今あいつとの繋がりが切れるのは物語のためにも困るんだよ!」
「……何ですって?」
が、史人も負けじと言い返す。
「今、あの垣原って奴に乗っ取られかけてる物語だけど! サラと学院の女の子たちの間で結束すれば、それでエドワルドを主役の座から引きずり下ろせるかもしれないんだ! そのためには、女子高生の人間関係についての研究がいるんだよ!」
「……まさか、それであの娘に女子高生の人間関係について聞きたいってことかしら?」
史人のその言葉に、香美は少し呆れながらもそう返す。
史人はその香美の表情から、これはまだ半信半疑だなと悟る。
「ああ、そうだよ! エドワルドは学院の女子生徒からの支持をたくさん集めているが、その女子生徒たちはサラを重用するエドワルドの一面には疑問を持っているはずだ! そこにこそ、垣原に勝つ隙がある!」
「なるほど……それを聞けば、確かに私も心当たりがあるわ。」
「え?」
史人が必死に言うと、香美は先ほどよりは納得したという様子でそう言う。
「ほら、あんたが持つ本以外にも私たちペンデルトン家が持つ本にも物語の変更は反映されるじゃない? それで、さっき私も物語を読んだのよ。そしたら、それが。」
香美は自分が持つ本を史人に見せる。
すると。
「こ、これは!?」
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「うーむ、やはりサラ君一人を特別扱いするような形では他の生徒たちを刺激するか! なら、仕方がないな……」
エドワルドは学院長室で、一人鞘に収まった剣を前に物思いに耽る。
そして。
「……かくなる上は私自ら、描き歌を彼女たちに歌わせている間にこの剣で魔法字陣を描くよう方針を変えよう! そうすれば、彼女たちも納得するだろう。」
エドワルドは、そう決意したのだった――
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無論、これは垣原がタイプライターで編集したあの部分だ。
「……どうやら垣原は、これで完全にエドワルドを主人公にする流れに持っていくつもりのようよ。でもそうね、確かにあなたの言うような流れを作ればサラを主人公に持っていけるかも。」
「あ、ああ……だろ!? だから最終的にサラと皆が和解する展開をこれから書く! 俺が倒れたのも、その展開を身籠ったことによる悪阻だ!」
「なるほど……ならほら、ここにミルフィがあるから今すぐにでも書いちゃいなさい。」
「!? え……み、ミルフィ!?」
香美の言葉に俄然活気づいた史人に、彼女はカバンからミルフィを取り出して渡す。
史人がそれに驚いたのは、確かミルフィは外部に持ち出し禁止のはずだったからだ。
「お母様にも話は通してあるわ。私がそもそもこんな所まで来たのも、ミルフィに行くよう要求されたからよ! そうじゃなきゃ、来やしないわ。」
「こ、こんな所ね……」
史人は香美のその言葉に、自分の高校を悪く言われた気持ちになり複雑な思いながらも、彼女が差し出したミルフィを受け取る。
すると。
我、螺旋を描く
〜
そこに大口を開け
〜>
こちらを見つめる者あり
〜>゜
それは穴よりこちらを更に強く見つめ
〜>゜)
今にも身体をくねらせて、這い出んとする!
〜>゜)〜〜〜
さあ、とぐろを巻き彼の者を拘束せよ!
〜>゜)〜(T○T)〜
「ぐあっ! み、ミルフィ……」
「ああら、やっぱりさっきの女にもあんたにも嫉妬してるみたいね?」
ミルフィの蛇の魔法により、史人は拘束され折檻を受けることになったのだ。
「くっ……た、助けて香美ちゃん!」
「もう……あんた本当にバカね! 私っていう他の女に助けを求めたらどうなると思ってんの?」
「へ? ……ぐ、ぐあ!」
まだ弁えぬ者がいるぞ、蛇!
より締め付けよ、締め付けよ
〜>゜)〜((T○T))〜
香美に助けを求める史人に、更に嫉妬したミルフィは。
より史人に、折檻する。
「わ、悪かったよミルフィ! 俺にはお前と物語が一番大事だ! ……でも、頼むよ! 俺はそのためには何でもやらなきゃいけないんだ、それが例え多少は誤解を招くようなことであっても! だから……今一度、俺に力を貸してくれえ!」
史人は締め上げられながらも、そう懇願する。
……蛇よ、彼の者の拘束を解け!
〜>゜)〜〜〜 \(^o^)/
「……は、はあはあ……」
「解けたわね。…….さあ、書ける?」
「……ありがとう、香美ちゃん。さあ…….書いてやる!」
ひとまずこの状況を乗り切った史人は、ミルフィを手に取る。
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「皆……大丈夫よ! 私が、皆を救うから!」
「え……さ、サラさん?」
サラは一人、立ち上がり。
皆を守るように敵軍に、立ちはだかる。
そして――
ドラゴンの頭四文字と共に滾る炎
Drag〜
口を開け、それを吐く者が
Drag〜>
それは、目を見開き
こちらに狙いを定めている。
Drag〜>゜
身の毛もよだつような、恐ろしき目だ
Drag〜>゜彡
そこの頭の根本には、もたげられた鎌首が見え
Drag〜>゜彡 o
更にその胴には足も見える
Drag〜>゜彡 on
更に、尾も蠢かせ
Drag〜>゜彡 on〜
ドラゴンの、お出ましだ!
「な……何だこれは!?」
「ぐ……ぐああ!」
サラは瞬く間に、渾身の魔法を発動し。
それにより敵軍は、退いていく――
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「よ、よし……できた!」
「これが他の女生徒との和解のきっかけなのね……ただ。ここまで、どう話を繋ぐ?」
「大丈夫、絶対繋いでみせるさ……うっ、また悪阻が……」
「いいことだわ……さあ、頑張って!」
史人は展開を一つ書いた後、また悪阻に苦しむ。
それを物語の進展と喜ぶ香美だが。
――……かくなる上は私自ら、描き歌を彼女たちに歌わせている間にこの剣で魔法字陣を描くよう方針を変えよう! そうすれば、彼女たちも納得するだろう。
垣原の書いたこの展開に対しては。
――クランはそれに対して押されながらも、魔法字陣こそこの場を切り開く唯一の術と自身を尚も鼓舞し。
尚も恐れず、敵兵を薙ぎ払いその剣の軌跡と立ち回りの舞により字陣を描き、繋いでいく。
「(垣原は、叔父様の書いたクランの物語を、受け継いでくれているの……?)」
最愛の叔父・紀彦の遺作との奇妙な符合性を見出し、複雑な胸中であった――




