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マギアス〜魔を求めるモノ〜   作者: ピロシキまん
エピソードⅤ〜大戦の鐘〜
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不穏な影Ⅲ

不穏かどうかは分かりませんが、最新話更新です。

「よーし、今日はこれで終わりだ。お前達もだいぶ強くなったな!」


 少しだけかいた汗を拭いながら、気持ちよさそうな顔で魔導学園のハイクラス担当、ビアー・シュバルツが今日の授業の終わりを告げる。


 とは言っても既に生徒達はヘロヘロで倒れた状態であり、続けようにも続けられない状況ではあるのだが。


「うへぇぇ〜〜。やっぱしビアー先生強いよぉ〜」

「ふぅ。そうだね。どれだけ技術を磨いてもって感じ」

「……当たる気がしない……」

「そうですわね……。強くなったという自信も湧きませんわ」

「クソが。結局一発も殴れねぇじゃねぇか」


 ハイクラスの生徒達はこの5年間で多くのことを学び強くなった。それは教えたビアーが一番わかっている事なのだが、彼女に勝てたことは一回もなく自信が持てずにいた。


(あちゃー。これはやりすぎたかな?とは言っても手加減するなんてことは頭に無いし……)


 彼女はまがりなりにも教師であり、可愛い生徒達が良い思いを経験する事なく卒業していくのは心が痛む。

 だが、自分の(まだこの年齢の奴らには負けたくない)というプライドに嘘をつくのも違う。

 彼女は今、ジレンマを抱えているのだ。


(何か良い方法は……。あ)


 不意に思い出したのは、学園長から伝えられた嬉しい報告。


「お前達、もうすぐ卒業だが()()()にそろそろ会いたい時なんじゃないか?」

「「「「「???」」」」」


 心当たりがある人物が出てこない生徒達だったが、それはほんの一瞬。

 数秒後には揃って同じ人物を思い出していた。


「ほ、本当ですの?!」

「本当に帰ってくるんですか?!」

「……それは嬉しい……」

「うっひょぉぉぉ!!!さいっこうだよー!!」

「どれだけ強くなってんのか楽しみになってきたなぁ……!」


 皆を根から支える幹のような茶髪に、深緑を思わせる深々とした碧眼。

 一言多いがその実力は確かなあいつ。

 

「そうだよ。バルトラが帰ってくる。ジジイが自信満々で言ってきた」


 そう断言した途端、生徒達の顔は先程までとは別物かと思うほどに明るくなっていた。

 

「お前ら……。そんなにあいつが帰ってくるのが嬉しいのか?一言多い小憎たらしさが倍増してるかもしれないんだぞ?」


 自分があれやこれやと生徒達を元気づける方法を考えることが馬鹿らしくなってしまうほどに圧倒的な存在感を持っているバルトラに少しの嫉妬を覚えて言ってしまったが、それは口だけだというのは丸分かりだった。


「先生。そんな事ない、みたいな顔してますよ」

「なっ!そうなのか?そんな事は思ってない筈なんだがなーー?」


(((((一番喜んでる……)))))


「とにかく!明日か明後日にはここに来るそうだから、サプライズなりなんなりで盛大に迎える準備をしておこうじゃないか!積もる話もあるだろうしな」


 フフンとウインクをしてデキる女感を見せつけた彼女は、颯爽とその場を後にした。


 残された生徒達は何をするかと言えば、いつもなら自主トレや勉強である。

 だが今日はその通りには行けるはずがない。


「さ、バルトラをどーやって祝おうか?サプライズが一番嬉しいと思うんだけど」

「「「「うーーん……」」」」


 いざビアーの言う通りにお祝い大作戦を立てようと思ったが、中々案が出てこない。


 というよりは、立てても祝う前に気づかれそうな気がしてならないのだ。


「バルトラ様、洞察力が凄まじいですからわたくし達が何かを隠してるなんてすぐに分かってしまいそうですわ」

「そうだよねー。俺っち達も頭は良くなってるんだろうけど」

「……騙せる未来が見えない……」


 メリーやヴァイス、トレーネが頭を悩ませている中、クリスはすぐに案をだした。


「なぁ、そもそもサプライズなんてしなけりゃ良いんじゃねぇか?」

「「「「えっ??」」」」

「だって俺たちには何も言わずに出ていったんだぜ?それって俺たちとはそれっぽっちの友情だったって事か、あるいはそれくらい信用されてるって事なんじゃねぇのか。正解はどっちか分かんねぇけどよ」


 その考えは、他の四人があまり考えない様にしていた事だった。

 理由はもちろん、バルトラが何も言わずに出ていった理由が前者だった場合、自分達と彼との関係が嫌な方に変化することを心配してのこと。

 だがそれ以上に、クリスの指摘は正確だった。


「うん、そうだよね。僕たちがどれだけ考えてやっても、結局バルトラがどう感じているかなんて分からないし。それなら僕たちの日常の中で迎えるほうが良いのかも」

「そう、ですわね。わたくし達がバルトラ様に追いつくと言って頑張ってきたのですから、その成果を見せないと意味が無いですわ」

「……強くなった私たち……」

「やるしかないじゃんねー!!」


「じゃ、いつも通りトレーニングとかをやるしかねぇよな?」


 クリスの合図で、生徒達は様々な思いを胸にそれぞれの場所へと移った。

 


 時を同じくして。

 ゴリアテ山脈の最高峰であるレギンラス山に広がるわずかな平原地帯では、日の光に反射してギラギラと輝く鱗に身を包んだ巨大な蜥蜴____クリスタルリザードと相対する少年の姿があった。


「今日こそはお前を討伐して鱗をもらうぞ!」


 手に持つ漆黒の槍を掲げて宣言する。

 少年の目標は、クリスタルリザードを討伐して鱗を剥ぎ取り、新たな魔導機の材料とすること。


「お前の鱗は通魔性のある特殊な鱗だからな。どーしても必要なんだ」


 少年はここ数ヶ月敗北していた。

 その度に傷を癒しては現れる。

 そんなことをひたすらに繰り返していれば、いくら人間より知能が低いクリスタルリザードでも覚えてくるもの。


「ギュララララララ」


 もちろん、数百年ぶりに現れた身体を動かすための玩具として。


「その余裕ぶっこいた顔……。覚えとけよ!」


 何やら目の前の人間が叫んでいるが、その言葉の意味は全く分からない。

 だが、関係無い。ただ殺さない程度に殺せばいいのだから。


 そんな余裕感を出すクリスタルリザードに、少年の神経が逆撫でされる。


「きぃぃーー!!マジでやってやるからな!」


 そう言った途端、少年の全身に魔力が迸る。

 それも、クリスタルリザードの本能が警鐘を鳴らすほどの魔力を。


「ギャラァァァァァ!!!」


 今までとは違う、異質な量の魔力。

 玩具では無く殺戮対象に変わるのは、それだけで十分だった。


「ようやく本気になったかよ。ここまでくるのは大変だったんだぜ?」

 

 ()()()()()()()()の力を借りて、少年は駆ける。


「おらぁ!!」

「グュリュリュリュリュ!!!」


 そして、同じくこちらへと振り下ろされていたクリスタルリザードの鉤爪に対応する様に、()を突き出した。

 

 ガァァァァァァン!!!


 通常であれば人間の腕など容易く裂くはずの鉤爪は、少年の腕と均衡を保っている。


「成、功!!魔力比重移動、腕力強化、魔力伝導!」


 その体勢のまま叫ぶと漆黒の槍に青いラインが浮かび上がり、少年は構造的に防御することのできない頭部へと槍をぶん投げた。


「おらぁぁぁぁぁ!!!!」


 漆黒の槍はそのまま勢いを落とすこと無く、クリスタルリザードの脳天を貫く。


「ギャァァァァァァァ!!!!」


 あまりの痛さにクリスタルリザードは暴れようとするが、平衡感覚を司る脳が傷付いたために上手く暴れられずにその場に倒れてしまう。



 少しすると暴れる力も無くなったのか大人しくなり、少年は腕に回していた魔力を解いた。


「ふぅ……。ようやく倒せた。やっぱり()()()()()()()()この鉱石はすげぇな」


 両腕両足に装着されている薄い鎧を触りながら、少年___バルトラ・フォウ・グリストは一息整える。


「よぉし、早速鱗を貰っていきますかねぇ……」


 そして必要な分より少し多いくらいの輝く鱗を剥ぎ取ると、急ぎ足で工場(ラボ)へと戻っていった。


(こうしておけば傷が癒えてもう一度取れる様になるだろ。その時はまたお世話になるな)



 帰り道の登山道を下っていくなか、バルトラはふと学園長やらシオンやらと話して決めた事を思い出す。


「そういや、明日か明後日に学園に戻るって話だったな。あいつら俺のこと忘れてないよな……?


サプライズ楽しみにしとこ」



 最後のピースがはまり始める。





『みんな強くなったね。これなら()にいけそうだ』


 

 

いかがでしたか?

バルトラは結局心臓と(ソウル)を壊してないので、時間が経ちさえすればクリスタルリザードは再生するんです。

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