これこそパワーレベリングⅠ
お待たせしました。
レージ編が始まります。
「はあっ、はあっ、はあっ……!これはバカすぎるだろぉぉぉぉ!!!」
「グオォォォォォ!!!!」
鬱蒼と茂った森の中、俺ことレージ・ロストは、馬鹿でかいオークに追われていた。
パンツ一丁で。
ことの発端は、魔族の襲来から約2カ月が経った頃のことだ。
あの襲撃の後、不思議なことに魔法学校は活気にあふれていた(特に新入生は)。俺の把握している限りではみんな講義に出てきているし、魔法の勉強だって、今の方が皆真剣だ。
特にシェヘラ姉なんて、「あたいがやらないと……」って気負ってるし。
……あんな化け物が自分たちの都市を襲いにくる。そんな危機意識が芽生えたからなのか?
そんな中、俺は学校長に呼ばれた。
理由はもちろん、魔族の襲来の後に交わしたあの約束。
「4年間をかけて、魔族を倒せるくらいに強くなる」こと。
正直いつ呼ばれるか分かんなかったけど、かなり早いなと個人的には思った。まぁ被害(と言っても生徒たちは殺されたりはしてないようだった)は魔術都市が一番ひどいだろうし。
そして、俺は学校長が待つ部屋に行って話を聞いた。
やっぱり少しいい加減な感じの説明だったけど、学校長が俺に伝えた内容は次の3つ。
1つ目は、皇傑会議で決まったこと。2つ目は、俺を強くさせるためにやること。そして最後は、友達に最後の挨拶を済ませておくことだった。
最後の一つは、予想外だった。思わず聞き返したね。
「俺がそんなに人情無しに見えるか!?」ってちょっとキレられたけど。
だがそんなことは俺も考えてること。もう挨拶は済ませている。
もちろん、急遽親が大変な状態で学校に来るのが難しくなったということにして。
俺と仲良くしてくれていたシェヘラ姉やミュートン、セシリアなんかは少し寂しそうだったけど、みんなまたいつかって言ってくれた。
ただ、唯一ミディだけは、なんか心ここにあらずって感じだったけど……。まぁなんかに悩んでいるんだろうくらいにしか思ってなかったから、特に突っ込みはしなかった。
そして俺は、この際だからと一念発起して、メルクレアさんに突撃して告白した。
え?結果はって?
……。俺の今世初の黒歴史になったことだけは教えておこう。
肝心の俺の修行についてだが、ものすごく簡単な一言で終わった。
「死ぬかもしれんが、がんばれよ~」
こ、こいつ!人の命をなんだと思ってやがる?!と怒りそうになったが、仮にもあのめちゃくちゃ強い魔族が「今は勝てない」と言って逃げたくらいだ。
そのくらいはやらないと!と気合を入れなおして、俺は言われた期日までトレーなんかをしながら過ごしていた。
そして今、学校長に再び呼び出されて、準備が整ったって言われたか、魔法学校を出て、ここに来ている。
「マジでやばいからぁぁぁぁ!!??」
「グォォォォォ!!!!」
自分でちぎった木をこん棒にして、オークは俺を追い掛け回す。
だがやばい。普通にやばい。
あの学校長はオークが引きちぎった木の根っこを綺麗にして座ってるし、決して速度は速くないけど、俺の5歩分がオークの1歩だから、気を抜いたら追いつかれて丸太でブチュン!!だ。
「ふぉぉぉぉぉぉ!!」
「おーおー。頑張ってるねぇ。おーし。そんまま昼頃までなー」
こいつっ……いつか同じ目に合わせてやるからな!!??
このクソ野郎に一泡吹かせることを心に決めて、俺は昼間まで森林を走り回った。
「はぁ、はぁ、はぁ……。も、もう無理……」
さっきまで死と隣り合わせの極限状態だったからか、俺の体は魂が抜けたように倒れて動かない。
その様子を見て薄ら笑いを浮かべながら、クソ野郎が近づいてきた。
「お疲れー。いやー、よく頑張ったな」
「はぁ……。あんただけなんで狙われないんですかクソ野郎」
「えぇー?クソ野郎だなんてひどいな。俺の方があのオークより強かった、その差を感じたから来なかったんだよ。
お・れ・の!強さを感じてな」
「はいソウですか……」
あ”ーーー!なんだこの鼻に着くしゃべり方は!
そんなこと言われなくたって分かってる。さっきのオークを倒したのもこの人だし!
でも!なんっでこんなに自信満々な顔して勝ち誇ってんだよ?!
「あ、なんでこんなに自信満々な顔してんだって言いたそうな顔だな?」
「うっ……!」
「ふん。それはだな。お前がいるからお気に入りの娼館に行けねぇからだ!」
……えーっと、こいつ殴ってもよろしいか?
「……そんなこと10歳そこらの僕に言っていいんですか」
「別にいいだろ。お前も性欲くらいあんだろ?」
いやありますけども。
バリバリに息子は元気ですよ!?
このままいくとただの下ネタ合戦が始まりそうだったが、この話を変えたのはほかならぬ学校長だった。
「それで?どーだったよ。パンツ以外身に着けずに魔法を一切使わないのは」
そう、俺がオークから逃げていたのはこれが理由だ。
連れてこられてきたと思いきやその場で脱がされ、魔法も使うなというルールを急に言われた。
最初に聞いたときに俺は決めたのだ。
こいつはクソ野郎と呼ぶことにしようってな。
「はぁ。何回死ぬ思いをしたか分かんないですよ……」
「うんうん。それで?他になにか感じた?」
「えぇー?うーん……」
あの逃走劇で感じたこと、か……。
正直言って全くだ。とりあえず無我夢中で走って、死なないようにしてた。
「全く何も」
「ほーん。なるほどね」
学校長は、俺をじっと見つめながら何かを考えている。
なんか嫌な予感がするのは気のせいだよな?
「よし。今日から半月、ここに現れる魔獣たちから逃げきれ。時間は今回と同じ、服装も変わらずパン一な」
「……死ね」
「おい本音がこぼれてるぞ」
いや普通に考えてそうでしょぉぉぉ!!
こんな死に物狂いの逃走劇を半月だとぉぉぉぉ???!!!
はっきり言って帰りたい。
こんなことしてなんになるっていうんだよ……?
そんな俺の疑問に答えるように、学校長は呟いた。
「まぁ、今はそうだろうが、とりあえず続けてみろ。半月もありゃ掴めてくる」
「まぁやりますけど……」
昨日の今日で帰るなんてのは、皆に言った手前すぐにはできないし、こうやって文句を言っているけどちゃんとやるつもりだ。
友達の人生が潰えてしまうなんて許せない。今度こそは……!
そうして激動の1日を終え、学校長に預けておいた服を着た俺は、くたくたになった身体を奮い立たせながらクソ野郎と一緒にある街まで移動した。
俺たちが向かったのは魔法学校周辺の街でもなく、俺の実家の近くのエールの街でもない、なんだか異様な雰囲気がある街だった。
「あの、ここって」
「雰囲気が違うと思ったか?」
「えぇ。まぁ……」
なんていうか、街全体がギラギラしている感じ。
辺りを見回してみても、周辺を歩いているのは屈強な大男だったり、重装備の女の人だったり、ちょっと物騒だ。
でも結局どんな街か分かりかねていると、クソ野郎は近くを歩いていたいかにも「悪です!」って顔の屈強な大男に手を振っていた。
「あ、おぉーーい!ケヴィン」
何度かそう呼びかけると、その大男は俺たちを睨みながらゆっくりと近づいてくる。
怖っ!!人間違ってない?!ケヴィンじゃ無かったんじゃないのか?!
ズンズンと近づいてきた大男は、俺とクソ野郎をそのままジーッと睨んでいると、途端にガハハと大笑いし始めた。
「グワッハッハッハ!!誰かと思えば、グラハムじゃねぇか!!いつもと違ぇからつい睨んじまったぜ!」
「グ、グラハム?」
「あぁ、言ってなかったっけ。俺の名前はグラハム。
グラハム・ディン・オルレウスだ」
どうやらちゃんとケヴィンだった人と意気投合している、うちのクソ学校長、もといクソグラハム。
なんで名前かっこいいんだよ……!せめて名前はダサくあって欲しかった……!
なんて突っ込みを入れながら、俺はこのクs……グラハムとケヴィンさんの話を聞く。
「最近はこっちに顔を出さなくて心配したぜ」
「すまんすまん。ちょっともう一つの方が忙しくてよー」
「それでどーしたよ。お前さんがここに素顔で来るなんて。」
話を聞いている限り、どうやらこの二人は旧知の中みたいだな。素顔で来てる、なんて言葉も聞こえたし。
もしや赤い彗s、おっとこれ以上はやめとこう。
そんなことを考えていると、俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、グラハムがここに来た理由を話し始めた。
「今回の目的はこいつだ。
半月後、こいつを俺の依頼について来させられるレベルまで鍛えて欲しい。基礎は並行してやってるから応用だ」
「……本当か?そいつは本当に、やれるんだな?」
グラハムの目は、いつになく真剣だった。
その話を聞き受けるケヴィンもまた、さっきのフランクな雰囲気はどこにもない。
なにか超重大なことがここで取り決められているようで、俺は迂闊に口も出せない。
ケヴィンは少し考え、ハァと溜め息を一つ吐くと、元のフランクな感じに戻った。
「分かったよ。その代わり本格でやるからな?」
「あぁ。そうじゃないとこっちが困るぜ」
どうやら何かが決まったようで、二人はグッと握手をすると、ケヴィンさんは俺の方を向いて自己紹介を始めた。
「よぉし小僧!今日からよろしくな!俺はケヴィンだ」
「ど、どーも。レージ・ロストです」
「レージだな!早速だが、お前にはやってもらいたいことがある」
「は、はい!」
な、何が始まるんだ……?!
「良い返事だ!じゃあ行くぞ!
ユニオンに!」
お、おぉぉぉぉーー!!?!
……なんだそれ?
いかがでしたか?
最初の二人とも展開が違うのに例に漏れず、レージも色んなことを学んでいきます。
よろしくお願いします!




