特別指導Ⅸ
お待たせしました。
これにてバルトラ修行(?)編終わりです。
ゴリアテ山脈の中で最も魔獣が住み着いていると言われる山、ケルヌノ山。
その麓にある人里との境目近く、本来は厳重に柵が置かれているはずの場所に、一人の少年と2頭のゴーグウルフが相対していた。
「グルルル……!!!!」
「ガルァァァァァ!!!」
青い体毛を逆立たせ、眼前に佇む敵を威嚇するように、ゴーグウルフは吠える。
「ったく……なんでここだけ柵が貼られてねぇんだ。
この区画の区長は何してんだよ」
対する少年はこの付近一帯を取り仕切る区長に文句を言いながら、インベントリから一本の槍を取り出す、
「まぁいいや。
よぉ。久しぶりだな!」
在りし日の借りを返すように、少年は槍を片手に持ちゴーグウルフに向かって駆ける。
「「グルァァァァ!!」」
ゴーグウルフ達も本能的に向かってくる殺意を察知し、その動きに連動するように徒党を組みながら加速していく。
「速いねぇ!だが!ふっ!!」
「グルァァ____
加速して近づき、敵を噛み殺そうと飛びついたその時。
仲間の一匹の首が、飛んだ。
「一匹目!さぁ次だ!来いよ」
「グルルルル……」
残ったゴーグウルフは、目の前で起こった事象を理解していないのか、それとも瞬殺された仲間を見て警戒したのかは分からないが、無闇に攻めてくることを辞め後ろに大きく距離を取った。
「アオーーーーーーン!」
そして強者に助けを求めるように大きな遠吠えを上げ、自身は森の奥深くへと逃げていった。
「あれは、なるほど。あのときはそういう……」
遠吠えが鳴ってから数秒。
大地をかける四足の足音と共に、森の中から一際大きなゴーグウルフが出てきた。
今までの個体よりも濃い体毛。
長年の厳しい環境下で磨がれた鉤爪には、血が固まっているのか黒く変色している。
「あのときと同じだな。だが、俺は一味違うぞ」
胸部に手を当てながら、少年は全身に魔力を行き渡らせる。
「ガルァァァァァァァ!!!!!!」
その隙を逃すまいと、一際大きなゴーグウルフは瞬時に駆ける。
だが、その少年は何も構えていない。
幾年もの年月を経て磨かれた鋭い牙が、少年の首筋を噛みちぎろうと顔を覗かせる。
その時。
ガギィィィィン!!!!!!
少年の腕が、その牙を防いでいた。
だが、ゴーグウルフは敵の体の一部分であることを本能で理解し、そのまま腕を噛みちぎろうと力を加える。
「甘ぇぞ!’反発'!」
「ガァァァァ?!!!」
しかし、少年の腕はちぎられることなく、かえってゴーグウルフの牙がバキリ!と折れてしまい、ゴーグウルフは驚愕の声を上げる。
「流石だな。アダマンタイトとマグネスストーンの合金。
概ね成功ってとこかな」
それに対して少年は、自身の魔導機の動作に満足しながら、反省点をぶつぶつと呟いていた。
「まだ魔力消費が激しいな……。もっと回路を重ねて密度を高くしてみるか?いやでもそうすると伝導に少しラグが入るからな……」
「グルルルル……!ガゥ!!」
自身に向けられる殺意が一瞬弱まった隙をつき、牙が欠けたゴーグウルフは今度は鋭い爪で少年に襲おうと飛び掛かった。
「視えてるぜ。飛んだら的になるのが分かんなかったのか?」
「ガッ!!!キャイン……」
しかし、自慢の脚力を活かすことなく飛び上がった哀れな獲物は逃れることができず、少年の槍がゴーグウルフの魂を一突。
一瞬のうちに生命力の源を断たれた強大な捕食者は、力を失い地上にドサリと落ちた。
「ふぅ。あの時の借りは返せたかな?」
全身に行き渡らせていた魔力を徐々に抑えていきながら、バルトラ・フォウ・グリストはそう呟く。
皇暦263年。
彼が再び歩み出した日から、約3年程が経過していた。
バルトラが工場へと戻り扉を開けると、ドタドタと忙しそうに廊下を走り回るシオンがいた。
「おっ。帰ったかご主人。どうじゃった?ゴーグウルフ達は……」
「おう。見ての通りだ。安心しろ」
討伐証明であるゴーグウルフの耳をインベントリから取り出しながら、心配そうな顔を浮かべるシオンを元気付けるように、いつもの余裕そうな雰囲気をまとった。
「そうか……。頑張ったのぉ。ご主人!ぐすっ」
「ちょちょちょ。泣くようなことでも無いだろ?」
「だ、だっでぇぇ……!あ''の"どぎの"バルドラ"はぁぁ……!」
あの時の荒んだバルトラを作った原因であると思っているシオンにとって、因縁であるゴーグウルフを彼自身の手で倒すことは特別な意味があった。
「大丈夫大丈夫。もうあんなことにはなんねぇし、もう因縁は無くなった。泣き止んでくれよー」
(実際はゴーグウルフが原因じゃねぇけど、こんなに心配させてたんだな俺……)
おいおいと泣くシオンを慰めながら、バルトラはいつも笑顔で口うるさい彼女にこれだけの心配をされていたことを受け、サイラスのあの時の言葉を思い出していた。
(これも……、あのジジイが言う理解しようとする愛によって生まれることなんだろうな……)
「うぅ……」
「もう大丈夫か?」
「うむ。大丈夫"じゃ」
「よしよし。あー、飯って作ってるか?俺結構腹減ってんだよなー」
「……!ふふん!そういう時のために、わっちはもう作っておるぞ!さぁ食卓へGOじゃ!ほれほれ行くぞー」
いつものシオンに戻ったことを確認したバルトラは、シオンに背中を押されながらずるずると食卓へ向かった。
(あと一年か……。そういや、あの時からいろんなことをやった。
ジジイの魔導機を真似しようと錬成したら、配分をミスって爆発するし、鉱山道に入って新鉱石を取ろうとしたら穴に落っこちそうになったし。
今もだけどジジイに殺されかけてるしなぁ……。
でも、そのどれもが俺の力の糧になってる。
ジジイの魔導機も、大体3分の2くらいは真似できるようになった。
残り一年だ。もっと力を磨いていかねぇとな!!)
愛を知ったものに降りかかる災厄は、愛を知らぬものでは無い。
愛を履き違えたまま押し付けるものである。
「サイラス……!!!なんで俺を……!」
時を同じくして。
ゲニオン大陸の中央に位置するセフィロトの神樹。
魔力を生み出している大元の存在であるこの樹の内部に存在するロズフレイル王国。
その中心部であるマリアステラにそびえ建つ女王の宮殿には今、身の毛がよだつような気持ち悪さの魔力が充満していた。
「うっ……」「なに、この魔力……」
その異様な魔力に侵食され、宮殿に住まう近衛騎士や料理人達はその場に崩れ落ちてしまう。
その魔力を発する正体は、女王が佇む間に来ていた。
「じょ、女王様!ここは私が……!うっ……」
「良い、テセル。妾に用があるのだろう?」
普通であればその場にいるだけで周囲の気分を害するほどの魔力の本体を目の前にしても、その女王は表情一つ変えることは無い。
「ヒェヒェヒェ!!久しぶり、ですカネェ?」
「ふむ……。250年前に見たが、相も変わらず異様な魔力なことよ。テューポーン」
その女王の耳は、人間の持つ耳よりも尖って長く、自身の身の丈はありそうな髪の毛は、透明だがその中には粒子のようなものが散りばめられている。
「クヒッ。いえイエ。そう言ウあなたモ前ヨリハ……、歳をとりましタネェー!!
"エルフの女王"ネアラアミス サァン?」
「ふっ。お主がここに来るということは、なにかの厄介事であろう?」
「フォー!ご名答でスネ!そうなんでスヨー。
なんとナンと!お隣のあの国にィ、誕生してたんデスネェ。
願いの子らガ」
今まで余裕のある表情を浮かべていたネアラアミスに、驚き、そして邪悪な笑みが灯る。
「なんと……。ようやくか」
「エェ。あなたタチにとっテは仇、なんでショウ?」
「あぁ……。我らの先祖を全滅に追いやり、大陸東部を一時焦土とさせた者の国だ。
この機を逃すなどありえん!」
「ヒェッヒェッ!そこで提案ガあるンです……」
皇国が大きな戦火に呑まれる日は、刻々と近づいていた。
いかがでしたか??
あまりバルトラの強さを見せてはいないですが、ちゃんと強くなっているのでお楽しみに。
次からアルマ編に入っていきます!




