特別指導Ⅳ
お待たせしました。
本日も少し少なめとなっております。ご了承下さい。
ゴーグウルフ達は合計で三匹。
三匹はバルトラに向かっている中で、二匹が前方、残りの一匹が後方に着くような陣形を取る。
(陣形を組んでる……。まるで人間みてえだな!)
「ガフゥゥゥ!!!」
対するバルトラも、自身の持つ竜を穿つ聖槍を構えながら右のゴーグウルフへと駆ける。
(まずは両翼からだっ!!)
「ガラルァァァ!!!」
自身へと殺気が向いた。
そう本能的に理解したゴーグウルフは、それに呼応するように吠え、自身の鉤爪を研ぐように、地面を蹴る。
地面をさらに捉え始めたゴーグウルフはさらに加速。
研ぎ上げられた鋭利な鉤爪は、バルトラを引き裂かんとしていた。
その瞬間。
ゴーグウルフの心臓に、槍が突き刺さる。
「そこは俺の間合いだ」
「キャイン……」
一瞬で生命活動の源を断たれたゴーグウルフは、その場で動きを止めて倒れた。
「まずは一匹」
槍を引き抜きながら体勢を立て直し、バルトラは残った二匹を捉え直そうとするが___
「「ガラルァァァァァァ!!!!」」
その二頭は、眼前に迫っていた。
「まずっ____」
咄嗟に竜を穿つ聖槍を振るい、二匹の凶暴な噛みつきをその持ち手で受け止める。
ガギィィィィン!!
(間に合ったけど……!強ぇ……!なんだこの力!)
このままの状態でいれば、竜を穿つ聖槍が粉砕しそうな力を振るうゴーグウルフに、バルトラは冷や汗をかく。
「やってやるよ!魔力伝導!」
このままジリ貧でいけば、いずれ数の差で負ける。そう感じたバルトラは、竜を穿つ聖槍に魔力を伝え、本気でぶつかり合うことにした。
バルトラの魔力が竜を穿つ聖槍に伝播し、その身に青いラインが刻まれていく。
「そのまま咥えてると……死ぬぜ?」
唐突な魔力の高まりに、ゴーグウルフは慌てて噛みついた口を離して距離を取ろうとするが、距離などバルトラには関係ない。
「遅ぇぞ!」
バルトラがそう叫んだ瞬間。
竜を穿つ聖槍の刀身が、更に青く輝き始めた。
「らぁぁ!!」
その状態のまま、バルトラが竜を穿つ聖槍を振り下ろす。
ゴーグウルフとの距離は、少なく見積もって5ジレほど。
到底届く距離ではなかったが、バルトラの斬撃は届いていた。
「キャン!!」
振り下ろされた刃では無く、刃から発せられた斬撃波によって。
斬撃をモロに受けた二匹のゴーグウルフは致命傷を負い、その場から動かなくなった。
一方、三匹のゴーグウルフを狩り終えたバルトラも、地面に腰を下ろしていた。
「ふぅ……。かなり余剰な魔力を使っちまったな。まだまだ改良ができそうだ。
しっかし、ジジイはなんてもんを作ってたんだよ……」
バルトラが斬撃を飛ばせるようになったのは、サイラスが作っていたものの一つ、矢を人力では無く、魔力を使って打ち出すものからヒントを得ていた。
「あれはトレーネのように魔力で矢を作るんじゃない。引き絞る弦が魔力でできていた。そこからヒントが分かったけど……。あれは化け物だな」
通常の弓であれば、弦と矢幹が必要になる。
特に、引き絞るための弦は持ち手の感覚が最も重要視される部分であるため、弾力があるバウンド鉱石を薄く加工して使っている。
それと同様、弦を持ち手によって調整するためには、矢柄もそれ相応の柔軟さが要求される。
しかし、サイラスが作っていたそれは、弓というにはあまりにも硬すぎた。
(そもそも弓なのか分かんなかったが……。あれを掴んだ瞬間、俺の魔力が使われて弦が形成された。引き絞ることもできた。俺の体に合うように)
それ以来、バルトラはその弓(矢幹)を研究した。
魔力基盤がどのように使われているのか、何か特別な仕掛けがあるのでは無いかと。
その結果、その弓の矢幹には、魔力を通すとその分の魔力を弾き出す鉱石、矢幹と弦を繋ぐ、いわゆるカムという部分には同じ性質の魔力を引き合わせる鉱石が使われていることがわかった。
今回の竜を穿つ聖槍には、その鉱石をまま流用していた。
「試作品にしては上出来、か?」
かなり魔力消費が激しいが、バルトラが予想していた通り、魔力を伝導した槍が描いた軌跡、そこに残る魔力の残穢を、魔力を弾いて送り出し斬撃波として飛ばす、という一連の動作は出来た。
「次はもう少し魔力消費を抑えるようにしないとな。ってなるとこの鉱石の形を修正したいが……。こんな鉱石、見たことねぇんだよな……」
今後の改良案をバルトラが一人でぶつくさと言葉にしている中、その足音は静かにやってきていた。
「まずは工場に帰ろう」
バルトラが集中を解き、安全な登山道を通ろうと歩き始めたその時。
鋭い鉤爪が、バルトラの胸元を切り裂いた。
「ぐっ……!!」
(な、んだっ……!)
完全に油断していたバルトラは、竜を穿つ聖槍を構える暇もなく、モロにその攻撃を食らってその場に倒れ伏してしまう。
「かはっ……!群れが、ま、だいたのかよ……!」
あの時確かにバルトラの前に現れたのは三匹のゴーグウルフだった。
だが、今目の前にいるのは、その三匹とは全く違う。
先の三匹よりもさらに体格が大きく、毛並みも濃い。
その体躯から覗かれる眼光も、先ほどまでとは一線を画していた。
その眼光を見た瞬間、バルトラは理解した。
「へ……、あんたが……、リーダーかよ……」
バルトラはそう言い残して、気絶してしまう。
胸元に刻まれた鉤爪から滴る血液が、彼の重篤さを物語っている。
ゴーグウルフの長は、バルトラが動かなくなったことを確認すると、とどめの一噛みを浴びせようと自身の口を開き、首筋に噛みつこうとした。
だが、その一撃はバルトラに届くことなく、逆にボトン、と
ゴーグウルフの首が落ちた。
「ふぅ……。まだまだゴーグウルフは早かったかのぉ。こいつを使うハメになるとは思わんかったわ。
しかし、流石の発想力じゃなぁ。のう、バルトラ?」
ゴーグウルフの耳を切り取り、自身のインベントリに入れると、バルトラをお姫様抱っこして、シオンは爆速で森を駆けていった。
「これはだいぶイッてるのぉ。早く帰って治療をせんとな」
いかがでしたか?
弾き出す鉱石が使われているのは、それによってしなりが発生するから、引き合う鉱石が使われているのは、弾く威力をさらに高めるために使われているんですね。




